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世界が静かに分かれはじめた日ー先に高く積み上げた者と、静かに深く根を張った者ー  作者: suu369


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忘れられていなかった男

過去の失敗は、忘れたつもりでも...消えない。


ときには...思いがけない形で戻ってくる。

会議室の扉が開いた。


入ってきた男を見て、早く成功した男は、言葉を失った。


「......あなたは」


男は、静かに頭を下げた。


「久しぶりだな」


その声を聞いた瞬間…昔の記憶がよみがえった。


まだ...父親の会社が順調だったころ。


自分が大きな仕事を手に入れるために、

長年付き合ってきた小さな取引先を切り捨てた。


そのとき・・・。


目の前の男は、何も言わなかった。


ただ...。


最後にこう言ったのだ。


「いつか...自分が何を失ったのか...わかる日がくるよ」


あの言葉を、ずっと…忘れていた。


いや・・・。


忘れたふりをしていたのかもしれない。


「今日は、商談に来たんですか?」


男は、うなずいた。


「そうだ。仕事だからな。

 昔の話をしに来たわけじゃない」


早く成功した男は、ほっとした...。


・・・・・。


次の言葉で、その安心は、消えた。


「ただし...ひとつ聞きたい」

「......何ですか?」

「君は、今回、何を売るつもりなんだ?」


男は、農家が作った野菜の資料を机に置いた。


「野菜の品質か...。

 それとも...二人で作ったという物語か?

  それとも...今度こそ自分は、変わったという、君自身の証明か?」


部屋が静まり返った。


農家の男は、早く成功した男を見た。


彼は、すぐに答えられなかった...。


以前の彼なら...迷わず数字と利益を並べただろう...。


今は・・・。

簡単に答えられなかった。


「......全部です。と言ったら?」


男は、首を横に振った。


「欲張るのは、悪くない。

 だが...何を一番大切にするのか、

決められない人間に、仕事は、任せられない」


早く成功した男は、唇をかんだ。


昔、自分が切り捨てた相手に。


今度は、自分の覚悟を問われている。


そのとき...

農家の男が口を開いた。


「俺たちは、野菜を売りたい。

 でも...それだけじゃない」


彼は、資料を見つめた。


「育てた人間の思いも、買ってくれる人の信頼も、

 簡単には、捨てたくないんだ」


取引先の男は、初めて農家の男をまっすぐ見た。


・・・・・。


少しだけ...表情を変えた。


「なるほど...。君が、あの畑の男か」

「……俺を知ってるんですか?」

「名前だけは、聞いていた」


男は、資料を閉じた。


「では...条件をお伝えしよう」


二人は、身構えた。


「この商品を売る前に、

 君たちには、会ってもらいたい人がいる」

「誰ですか?」


男は、ゆっくり答えた。


「君の父親だよ」


早く成功した男の顔から、血の気が引いた。


「......父が、なぜ?」

「彼は、この話をすでに知っている」


男は、立ち上がった。


「君たちが、一緒に仕事をすることに、

 反対している」


農家の男も、思わず顔を上げた。


なぜ、父親は、二人の仕事に反対するのか。


その理由を知る者は、まだ誰もいなかった。

過去は、ただ...謝れば終わるものではない。


ときには...まだ知らない誰かの思惑までつながっている。


次回、「父が反対する理由」


二人の協力を止めようとする父親。

その本当の理由は、息子を守るためなのか。

それとも...別の何かを隠すためなのか?


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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