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世界が静かに分かれはじめた日ー先に高く積み上げた者と、静かに深く根を張った者ー  作者: suu369


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金を選んだ男

人は、何かを手に入れるために、

何かを手放すことがある。


けれど・・・。


その選択が正しかったのかは、

ずっと後になってわかることもある。

「金を選んだんだ」


成功した男は、

畑を見つめながら話し始めた。


「昔、父さんから大きな仕事を紹介されたことがあった」


畑の男は、黙って聞いていた。


「その仕事を受ければ、一気に会社を大きくできた。

 金も、人脈も、手に入る。 

  俺は、迷わず受けた」

「それで…成功したんだろう?」

「ああ・・・。周りからは...そう見えた」


成功した男は、

少し笑った。


「でも...その仕事を受けるために、

 ずっと・・・付き合っていた小さな取引先を切ったんだ」


畑の男は、顔を上げた。


「その人たちは、俺がまだ何者でもなかった頃から...

 付き合ってくれていた人たちだった」

「......」

「俺は...もっと大きな仕事がしたかった。

 小さな取引先より、大きな会社を選んだ」


風が吹いた。


男は、続けた。


「そのときは、正しい判断だと思っていた。

 実祭、金も入ったし、会社も大きくなった」


・・・・・。


声を落とした。


「でも、父さんの力がなくなったら、

 離れていく人がたくさんいた」

「......」

「俺が切った人たちも、もう戻ってこない」


成功した男は、

初めて自分の過去を後悔しているように見えた。


畑の男は、言った。


「今からでも...変われるんじゃないか」


成功した男は、

ゆっくり顔を上げた。


「......そう思うか?」

「俺だって、間違えることは...あるよ」


畑の男は...笑った。


「大事なのは、間違えないことじゃなくて...

 そのあとどうするかじゃないのかな」


成功した男は、

何も言わなかった。


その言葉を、

心の中で何度も繰り返していた。


翌朝。


二人は、食品企画会社の女性と再び話し合った。


「大手企業との契約、どうしますか?」


女性が聞いた。


成功した男は、

畑の男を見た。


今度は...自分が先に答えを出すつもりはなかった。


畑の男は、資料を机に置いた。


「話は、聞いてみたいです」


女性は、うなずく。


「ただし...条件があります」

「どんな条件でしょう?」

「商品の名前や、作り方に込めた思いは、

 俺たちも一緒に決めたいんです」


畑の男は、まっすぐ相手を見た。


「売れることも大事です。

 でも...売るためだけに、

  今まで大切にしてきたものをなくしたくない」


成功した男は、

その言葉を聞いていた。


以前なら...


「それでは、大きくなれない」と

 言っていたかもしれない。


・・・・・。


今は、違った。


「俺も、その条件に賛成です」


成功した男が言った。


「販売の規模は、大きくできる。

 商品の価値まで相手任せにする必要は...ない」


女性は、二人を見比べた。


「わかりました。

 こちらから交渉してみます」


話し合いが終わった。


二人は、会社を出た。


「......なあ」


成功した男が言った。


「俺、お前と仕事をして、初めてわかったことがある」

「何?」

「大きくすることと、大切にすることは、

 両立できるんだな」


畑の男は、少し笑った。


「まだ...できるかどうかわからないけどな」

「そこに自身を持てよ」


二人は、笑った。


そのときだった・・・。


女性から電話が入った。


「先方から返事がありました!」


二人は、顔を見合わせた。


「それで……?」


女性は、少し間を置いて言った。


「条件を受け入れる代わりに、

 来週、直接会って話したいそうです」


大きなチャンスは、

まだ消えていなかった。


・・・・・。


その相手企業の担当者の名前を聞いた瞬間、

成功した男の表情が変わった。


「......その人が、担当なのか?」

「はい。お知り合いですか?」


成功した男は...答えなかった。


その名前は、

昔...自分が切り捨てた小さな取引先の社長の名前だった。



一度、手放したもの。


もう戻らないと思っていた人。


人生は、ときどき、

過去にした選択を、

もう一度目の前に連れてくる。


成功した男は、今度こそ違う選択ができるのか?


そして・・・。


相手の社長は、二人を受け入れるのか?


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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