まだ・・・何も始まっていない
期待されることは、うれしい。
けれど・・・。
期待は、いつか...
重荷になることもある。
「これ......本当に俺たちの商品なのか?」
成功した男は...
スマートフォンの画面を見つめていた。
SNSには、
二人が試作した商品の写真が載っていた。
まだ...正式に発表していない。
名前も決まっていない。
それなのに・・・。
「新しい農業ブランドが誕生?」
「注目の二人が共同開発!」
そんな言葉が並んでいた。
さらに・・・。
コメントも増えていた。
「発売されたら買いたい!」
「どんな商品になるんだろう?」
期待する声。
応援する声。
その一方で・・・。
「話題作りじゃないの?」
「有名になったからって、売れるとは限らない」
厳しい言葉もあった。
畑の男は、
画面を見て静かに言った。
「まだ...何も完成していないのにな」
成功した男は、答えた。
「だからこそ、気をつけないとな」
「どういうことだ?」
「期待だけが先に大きくなると、
本当に作りたいものが見えなくなる」
畑の男は、
少し驚いた・・・。
以前の彼なら、
話題になったことを喜んでいたはずだ。
・・・・・。
今は、違う...。
成功した男は、
数字よりも先に...
商品の中身を考えていた。
その日の午後。
二人は、女性の会社を訪ねた。
「情報が漏れた原因は、まだわかりません」
女性は、申し訳なさそうに言った。
「......もう話題になってしまいました」
どう対応するか、決めなければなりません」
成功した男は、
すぐに答えた。
「今すぐ否定する必要は、ありません」
資料を広げた。
「完成していないものを、
完成したようには見せない」
畑の男もうなずいた。
「俺たちは、ちゃんと作る、
それから、みんなに届けたい」
「......わかりました」
話は、まとまった。
そう思った、そのときだった・・・。
女性のスマートフォンが鳴った。
画面を見た彼女の表情が変わる。
「どうしたんですか?」
成功した男が聞いた。
女性は、ゆっくり顔を上げた。
「この商品について、
大手企業から問い合わせが来ました」
「大手企業?」
「はい。
商品を独占的に販売したいそうです」
成功した男は、
思わず身を乗り出した。
大きな販路。
大きな売上。
一気に広がる可能性。
昔の自分なら...
迷わず飛びついていただろう。
しかし・・・。
女性は、もう一つの条件を伝えた。
「ただし...契約するなら、
商品の名前も販売方法も、
すべて先方の方針に合わせてほしいそうです」
畑の男は、黙った。
自分たちが大切にしてきたもの。
二人で作ろうとしていたもの。
それを手放せば、
大きな成功が手に入るかもしれない。
成功した男が、
畑の男を見た。
「......どうする?」
畑の男は、
すぐには、答えなかった。
・・・・・。
静かに言った。
「一度、畑に帰って考えたい」
その夜。
畑の男は、
一人で畑を歩いていた。
何年もかけて育ててきた土。
何度も悔しい思いをした場所。
誰にも見られなくても、
続けてきた毎日。
男は、立ち止まった。
「俺は......何を作りたかったんだろう」
そのとき・・・。
後ろから声がした。
「答えが出ないのか?」
振り向くと、
成功した男が立っていた。
彼は、
思いがけないことを言った。
「実は俺も、昔......
同じような選択をしたことがある」
畑の男は。
彼の顔を見つめた・・・。
「そのとき、俺は......」
成功した男は、
ゆっくり口を開いた。
「金を選んだんだ」
大きな成功を手に入れるチャンス。
けれど・・・。
そのために失うものがあるかもしれない。
成功した男が、過去に選んだ道。
・・・・・。
畑の男がこれから選ぶ道。
二人の違いが、
今、試されようとしていた。




