失いかけたもの
順調に進んでいた道にも、
突然、壁が現れる。
そのとき、
人の本当の姿が見えてくる。
「全部、キャンセルですか......?」
畑の男は、電話を切った...。
大口の取引先から、
予定していた注文をすべて取り消したいと言われた。
理由は...
新しい仕入れ先が見つかったからだった。
畑の男は、
しばらく黙っていた。
「......そうか」
スタッフが心配そうに聞いた。
「どうしますか?」
・・・・・。
畑を見渡した。
すでに収穫の準備を進めている。
人も増やした。
資材も買った。
この注文がなくなれば、
大きな負担になる。
・・・・・。
男は、言った。
「まず...みんなで考えよう」
誰かを責めることはしなかった。
その様子を、
成功した男は、黙って見ていた。
昔の自分なら、
こう言っていただろう。
「だから、言っただろう」
・・・・・。
今は...
違った。
自分だって、
人が離れていく苦しさを知ったばかりだった。
「......なあ」
成功した男が口を開いた。
「俺に、できることはないか?」
・・・・・。
驚いた...。
「え?」
「取引先を探すとか、売り先を考えるとか......。
そういうことなら、少しはできると思う」
畑の男は、
すぐには、答えなかった。
以前、自分を見下していた男。
その男が今、
自分を助けようとしている。
「......本当にいいのか?」
成功した男は、うなずいた。
「今度は、父さんの名前じゃない。
俺自身でやってみたいんだ」
その言葉を聞いて、
畑の男は、少し笑った。
「じゃあ、一緒に考えてくれるか?」
「ああ」
二人は、
初めて同じ机に向かった。
その夜。
畑の男は、
スタッフと一緒に新しい販売先を探していた。
成功した男も、
取引先のリストを作っていた。
「ここなら、話を聞いてくれるかもしれない」
「じゃあ、明日、連絡してみよう」
少しずつ、
道が見えてきた。
・・・・・。
翌朝。
成功した男のスマートフォンに、
一本の電話が入った。
「もしもし......」
相手の声を聞いた瞬間、
男の顔が変わった。
「......父さん?」
電話の向こうから、
思いがけない言葉が返ってきた。
「お前、あの畑の男と一緒にいるのか?」
・・・・・。
何も答えられなかった。
助ける側と、助けられる側。
その関係が、
少しずつ変わり始めた。
父親は、
なぜ、畑の男のことを知っているのか。
二人の過去に、
まだ誰も知らない秘密があった。




