4 木星はん、具合はいかかでっか。
「木星はん、傷の具合はいかがでっか。」
「ハレーさん、気遣いありがとう。でも、
あんなちょっとの衝突なんて蚊に刺されたようなもんだ。」
「いいえ。元は、あのアホ彗星のシューメーカーが
あんさんに楯突きよったさかい、同じ彗星として謝らせて~な。
それと、地球はんの『ありがとう』の伝言もありまっせ。」
「感謝される覚えはないぞ。」
「ありまんがな。
木星はんは、地球はんをアホのシューメーカーから救いましたやんか。
さすが、太陽系の守り神でんな。」
「儂は、仕事をしただけだよ。でも、
その仕事を理解してくれて、尚且つ『ありがとう』は嬉しいもんだな。」
「そうでんか。」
「だから、地球はんの『ありがとう』を届けてくれたハレーさんにも
『ありがとう』だな。」
「なんやら、てれますがな。けど、胸に届きまんな。」
「儂のガスにしたあの子には悪いけどな。」
「ようおす。あのアホは何を思ったのか無謀なことをしよって。
あんさんに勝てるはずないやん。」
「う~ん。あの子さ~。何か言いたかったみたいなんだ。」
「ホンマでっか。」
「消えていく時、儂に『ありがとうございます。』って言ってたんだ。」
「……。今、彼奴は・・・。」
「まだ、あそこにいるよ。ほら、あの黒い点だ。
もう、儂に取り込まれてるはずなんだが、頑張ってるんだ。
儂が声かけても返事がないんだ。」
「もう、彗星でないんや。返事できへんやろ。」
「そうだったな。」
「ワテが話に行っても・・・。」
「いいよ。あの子の命もあと少しだから、穏やかに見送ってやりたいから
頼むよ。」
* * * * *
「木星はん、色々とありがとうさん。」
「で、どうだった。」
「あのアホは、星に憧れていたようで。
で、木星はんに見とれてたら、地球はんの軌道上に乗ってしまったと。」
「アハハ!儂にみとれて⁉」
「元々、木星はんに憧れてたよって、地球はんとの衝突も回避してもらって、
宇宙に破片が飛び散ることなく自分の全てを吸収して貰って、良かった
言うてます。」
「そうか。ぶつかってきた原因は褒めたもんじゃないが、
きちんと教育されてるね。で、今は?」
「今は、木星はんの胸でゆりかごみたいに揺られて
宇宙を眺められるよって本望らしいで。」
「そんなら良かった。吸収するのも少し抑えるか。
心行くまで惑星からの宇宙の眺めを堪能すればいいさ。」
「木星はんは、器だけじゃのうて心も広いよって頭がさがりますがな。」
「そんなことは無い。
結局は儂があの子の全てを吸収させてもらうんだ。」
「でも、彼奴は木星はんの押しかけ女房のつもりでっせ。」
「はっ、押しかけ女房?」
「そうだす。」
「アハハハ。儂に女房ができたのか。こりゃあ、傑作だ。」
「笑い事じゃぁ、あらしません。
本人は本気で木星はんに恋してるようでな。」
「うれしいね~。今まで色んな理由で勝負を挑まれたけど、
女房になりたいって理由は初めてだよ。
あそこの傷はシューちゃんと呼ぼう。」
「喜んで貰って彼奴もうれしいでしょう。
木星はん、顔が赤くなってまんな。」
「赤くなってる! はずかしいなあ。
儂、この年になってウキウキしてるわ。うれしいな~。」
「ようござんしたね。」
「新婚だよね~。だったら、シューちゃんの為にもう少し格好に気を付けようかなあ。ハレーさん見て、儂のリングはどうだ。いかすだろ~。」
「よく見りゃ、リングがありまんな。」
「長い間、ただ大きいだけの星だったからさ、飽きてね。
少し、いじってみたんだ。」
「それで、リングでっか。」
「ほら、土星みたいなリングがあったら、カッコいいかと思ってさ。
シューちゃん、気に入ってくれるかなあ。」
「大丈夫やろ。あんさんの一部なんやし。気に入る以前の話や。」
「夢がないな~。そんなんじゃお嫁さんこないよ。」
「嫁はん、いらんし。」
「そんなことより、衛星たちに聞いたら、不評でさ。」
「なんでや?」
「見る角度で違うらしいんだ。駄目だしばっかりで褒めてくれないんだ。」
「残念どすな。」
「シューちゃんの為にも頑張るからさ。ハレーさんもお願い。」
「何をだす。」
「今度来る時は、遠くから見える姿をよく観察してきて欲しいんだ。」
「へい、へい。」
「なんか、つかれてるね~」
「木星はん、あんた人格変わりすぎや。」
「うん、新婚だからね。だから、行くね。」
「どこへやす。」
「シューちゃんとこ~。シューちゃんの頭いい子いい子したり~、
お姫様抱っこしたり~。新婚らしいことしたいじゃん。」
「じゃん・・・。できまへんやろが。」
「気持ちだよ。気持ち。」
「木星はん……。ハアー。シューメーカーのこと、よろしゅうに。」
「言われなくても、大事にするよー。儂、忙しいから、またなー。」
「ハアー。サイナラ。奥さんによろしゅう。」
読んで頂いてありがとうございます。
シューメーカー=レヴィ第9彗星が1994年に木星に衝突しています。




