14 水星はん、お疲れさん。
「水星はん、お疲れさん。」
「ホントだよ、たまにはゆっくりお茶を飲みたいよ。でもさ、スピードを落とすと太陽神様に引っ張られるから、かえって疲れるんだよね。このスピードが俺の最適な早さなんだよ。」
「ワテには、ついて行けんスピードや。」
「誰もついてこれないよ。ちょっと、自慢。でもさ~、これって、太陽神様の影響だろ。いい迷惑さ。」
「そこまで言いまっか。」
「だって、惑星のなかで、変な影響を受けてるの俺だけだろ。もう、慣れたけどさ。」
「変な影響って。ただ、太陽神様の周りを誰よりも早く回ってるだけや。」
「ハレーさん。俺の苦労を、そう一口で言うの。ちょっと、怒るよ。」
「事実や。」
「事実だけどさー。暑いし、熱いし、水を飲もうにも水はないし。熱中症で倒れたらどうするんだよー。」
「大丈夫や。惑星は、熱中症にならんよって。」
「ああ言えばこう言うんだ。でもさ、走って暑いし、太陽神様の近くで熱いし、さらにだよ。水星って、ほとんど鉄の塊だよ。輪をかけて、もっと暑く、熱くなるよね。」
「それは、同情しますわ。」
「水星なんて、涼しそうな名前なのにさ。」
「水の星やな。その水は、どないしたんや。」
「蒸発したんだよ。水だけじゃあないよ。液体は、ぜ~んぶ。残ったのは、熱に強い物質ばっかり。俺の肉体は固~いんだよ。さわってみる?」
「結構や。」
「蒸発した俺の脂肪は、きっと、木星さんたちに飛んで行ったんだよね、」
「そうかもな。」
「それなら、嬉しいな。せめて、俺の一部は涼しいとこで過ごしてほしいよ。」
「涼しすぎますやろ。」
「アハハ。極端すぎるよね~。だったら、俺の脂肪たちよ、カムバック。」
「寂しんか?」
「まあね。衛星でもいれば慰めてくれんだろうに、あいにくいないしさ~。」
「……準衛星も、いませんな。」
「そう、俺の周りは、衛星も準衛星もいないし、な~んにもないのさ。太陽神様のおかげでね。」
「太陽神様が、誰よりも近くにおりまんがな。」
「それは、光栄だね。」
「そうやろ。」
「でもさ~。もしかして、水星と俺って、太陽神様の熱さから離れるために走ってる?」
「離れたいなんて、不敬や。」
「そんなこと思ったことなかったけど、そう考えたら納得しちゃうよ。」
「そうやな。一理おますな。おまはん、スピードを緩めると太陽神様の重力に引っ張られて同化するんやろ。」
「そうだよ。だから、いつも走るのに精一杯なんだよ。不思議と遅くも早くもできないんだよ。これって、太陽神様の陰謀?」
「どっかの準惑星も、惑星外れたのは、陰謀だー。って、喚いてましたわ。」
「やめて~。一緒にしないで。陰謀説は、取り消します。」
「懸命や。」
「俺は、孤独のランナーさ。汗かきながら走るだけさ。でも、誰か、並走してくれないかな~。チャリでもいいからさぁ~。」
「そう言いながら、汗かいてませんな。」
「かく前に蒸発してるって。ハレーさん、何しに来たの。俺をおちょくりに来たの。」
「そんなこと、ありまへん。水星はんは、乗りが良いよってな。ついついな。」
「コンビでも組んで、漫才でもする。受けるかもね~。」
「そりゃ、面白そうや。『いつもより、早く回ってまーす』とか言うてな。」
「ハハハ。これ以上、早くまわれませ~ん。」
「ハハハ。おもろいな。」
「そう言えば、木星さんにお嫁さんがきたんだって。ちょっと、うらやましいぞ」
「耳が早うな。足と一緒や。」
「そういう、おちょくりは良いの。で、どんな子?」
「ワテらの仲間だったシューメーカーや。」
「飛び込んだんだろ。勇気あるよね。」
「それが、木星さんに見とれてて、わき見運転やったんや。」
「アハハハ。あの人に見とれていて、ぶつかったの。それこそ、お笑いだよ。」
「木星はんも、まんざらでもないよって、シューちゃん呼びしてますわ。」
「そうか。みんな衛星はいても、基本一人だからね。一時でも、幸せの時間って大切だよね。それは、太陽神様もか。」
「水星はんは、居らんかったのか。」
「俺のところに来る前に、燃え尽きちゃうよね。太陽神様のところに喜んで行くのは、彗星さんくらいじゃあない。」
「太陽神様には、自慢の尾っぽを光らせてもらわんと。」
「太陽神様と会った後の彗星さんって、一番きれいだよね。」
「そうやろか。」
「前と後を見てるからわかるんだ。でも、一番を眺められるのって役得かもね。海王星さんや天王星さんは絶対、見れないもんね。」
「そないなこと聞いたら、張り切りますわ。」
「張り切ってよ。俺の癒しだからさ。何か、彗星さんの尾っぽって涼しそうなんだよね。」
「そないなこと言われたんは初めてや。」
「別名ひこうき星だろ。きっと、風を切って飛んでいくのが涼しく感じるのかな~。」
「ワテらは、飛び周るのが仕事やからな。でも、ひこうき星やなくほうき星な。」
「ハハハ。冗談だって。同じ走るのに、ずいぶん違うよね。」
「みんな違って、みんないい。どっかで聞いたことありまんな。」
「そうだよ。惑星だって、彗星だって、どんな星だって、個性が無きゃ面白くないよ。彗星さんたちは、ここを飛んでいく時こそ、個性が際立ってるよ。」
「そうでっか?」
「うん。尾っぽの色とか光り方が、みんな違うんだよ。あの色は、あの彗星さん。この光り方は、あの彗星さん。段々、分かるようになっちゃったよ。」
「ワテらの専門家や。」
「そうだ!彗星さんたちの観察をライフワークにしよう。彗星さんって、色や光り方も違うけど、太陽神様に戻ってくるのもまちまちだろ。色々、面白いかも。暇つぶしには、最適だよね。」
「暇つぶしができて、良かったわ。がんばって~な。」




