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Scene-03 フォールアウト

 魔剣プラトー、僕の愛剣!

 真の人類史にも大項目がある至高の一振りで、絶対時間の刃を持つ。

 なので引き抜くと――僕が《接触》している旧支配者イース人が記録を取ってくれる。

 本当に一切の情け容赦なく記録すんだよね……純粋な善意で!!

 重要なのは分かるけどさー


 記念すべき一枚目は、タイツのお尻が丸出しのやつだったなあ……

 ニュートがゴネてくれたから多少はマシな奴に差し替えられたけど、真なる歴史書に下着姿の自分が載ってしまう気分をどう説明すればいいのか。

 しくしく。

 ――とか、嘆いてる場合でなく!!


「ぐがぎがが……お、落ち込むのは後!」

『うむ、その意気だ。――ちなみに、スリット開けた際にド接写された奴は既にあるぞ?』


 うがー!

 後でイースのアーカイブを全部チェックしてやる!!

 ――だけど今は集中。ぐぐ。

 気を取り直してプラトーでヘルメットを叩き切る……ん? んん?

 潜水服が激しく身体を揺すって――あ、倒れた!?


『おい、潜水服怪人が地面にダイブしたぞ!?』

「転がって振り落とす気かー!」


 投げ出されかける。

 でも、このまましがみついていたらベチっと押しつぶされる――なんの!!


 チクタク チクタク チクタク


 チクタク感覚を蹴飛ばし、再び主観時間を引き伸ばす。

 今回はさっきより強めに!

 強く慣性が掛かってたから、チクタク感覚を蹴飛ばしても身体がズリズリ動く。

 ボーッとはしてられない。


 まずプラトーで、手近な場所にある覗き窓をぶっ叩く!

 窓枠の金属部が熱で一瞬発光し、覗き窓にも白いギザギザが走った。

 そのまま武器をスイッチ!

 でも左手はニュートを庇って塞がってるから……

 空中にプラトーを置きっ放しにし、腰からウェブリー・リボルバー・マークⅥを引き抜く。

 ヒビ割れたガラスなら対神話弾でも抜ける!

 位置を合わせ――


「くらえ、対神話弾!」


 加速中なので、ゆっくりとトリガーを引き絞る!

 撃鉄が落ちて銃のプライマーが炸裂する閃光が一瞬だけ視界を覆った。

 ワンテンポ置いて銃口から火花と煙が尾を引き、空気に波紋を曳いた弾丸がゆっくりと滑り出していく。

 ターゲットは――ヒビ割れた覗き窓!


「よし、間違いなく当たる――ので、撤収!」


 空中に置いておいたプラトーは少し移動してるけど、僕が早いからまだ楽に届く位置にある。

 でも両手は塞がってるから――足で蹴って、はむっ!

 口でくわえる。

 そして片足を大きく上げた勢いのままでバク転しつつ、背面へサマーソルト!

 腰と背中が派手に反る。

 直後、届いた弾丸がヘルメットの内部で炸裂した。

 そこでチクタク感覚を切る。


 時計の針が動き出し、翠の閃光がヘルメットを破裂させる!

 覗き窓という窓が内部から割れ、内部から濁った青い液体がゴバッと吹き出してきた。

 それを遠目に見つつ、こっちは派手な開脚ターン。

 サイドにスリットを入れたスカートを派手に跳ね上げつつ――よし、着地!!

 銃と剣を戻してスカートも整える。


「……」

「……」


 ――ん?

 着地地点の後ろにいた小岩井さんとケイが、無言で惚けてる。

 あー、位置的にきっと……


「お尻大きいとか言ったら、三日ぐらい口きいてあげないので……ん?」


 小岩井さんとケイがノロノロと上を向いた。

 中国服の少年すら、洞窟から顔を覗かせて呆然と空を見上げている。

 何だ?


 つられて上を見上げると――空中に変なオブジェがあった。

 引っ繰り返った潜水服怪人だ。

 黒くて翼と尻尾ある存在に縛り上げられ、かなり高い所に……って、モーサンか。

 西洋の悪魔みたいなフォルムに戻ったモーサンが尻尾で潜水服怪人を吊り下げつつ、青い高みへと飛び続けている。


「ニュート、持ち上げてどうするつもりなんだろ?」

『落とす。ドリームランドならばナァス=ヴァレーとかに捨ててくるんだろうがな』

「落と……まあ、そね。ところでナァスって何?」

『んー、ドール族という掃除屋さんが沢山いる谷だな。とても()()なところだぞ?』


 本当ぉ?

 そこらで怪人が、モーサンの尻尾をねじ切ろうとジタバタ暴れ始めた。

 両者が空中でもみ合う。

 ただ……


「あの高さで、よく暴れる気になるな」

『ジッとしてても落とされることには違いないからな』

「お……おい、貴様!!」


 ん? えーと、僕?

 後ろから、大激怒してる中国服の少年に指さされた。


「貴様も神話使いか!」

「そーだよ」


 素直に答えると、今度は少年が言葉に詰まる。

 ああ、こっちが素直に答えると思って無かったな?

 これから神話でブン殴ろうっていう相手に隠す意味ないだろー


「……」


 ギリッと歯の軋音が響き、おちょぼ口の端から鮮血がツーっと糸を引いていく。

 額にはプツ、プツと青筋が浮かび始めた。

 瞬く間に顔全体を覆う!


「は……ハはハハ! 猫とナイトゴーント……そウですか、夢見地からノ来訪者デスカ!?」

『オレはな』

「ニュート、アイツの声になんかエコーかかってない?」


 そのとき、頭上で行われていたモーサンと潜水服の争いが頂点に達した。

 パッチィィンと鞭が弾けるような音が響き、尻尾が解ける。

 一点がパツンと二点に分かたれた。

 翼ある黒は尻尾を押さえて空中でくるくる悶え、潜水服はランダムに回転しながら地面へ落下してくる――


「ほホホほ……きゃハハひゃはハハ!!」


 突然、中国服の少年(アイツ)がヒステリックに叫び始めた。

 目がまるで寿命の蝋燭に油をぶっかけたように輝き出し、そのまま両手を高く上げ――バンと思い切り地面をブッ叩いた。


「《レレイ》の海よ、我が元へと来たれ!!」

『あん? ――あ!? 瑛音、神話の気配だぞ!』


 周囲の温度が一気に下がった。

 冷気……いや、水気!?

 凍り付くような寒さではなく、人から生命をジワジワと奪うような冬水の冷たさが地を覆う。

 さらにザザザと波の音が響き、腐った磯の匂いが一気に広がった。


「うがー!」


 少年が土を鷲掴み、ぐるりとかき回すかのように両手を大きく振るった。

 飛び散った土くれが水のように渦を巻き始め――波が生まれた。

 水……いや、海か!?


「ニュート、これどっかで見たよ。――具体的には、日比谷三角の地下駐車場で!」

『まさか此奴は……えーと、ヤマダじゃなくて、アレ。ほらアレだ』

「ニュート、ザ・アビスさん!」


 ニュートが前脚で器用に「それ!」とやってくれた下で、少年曰く《レレイの海》がドッと広がった。

 真っ黒な泥の海だ。

 ヤマダさんのは透明で深海まで見通せたけど、少年のは底まで見えない。

 呆然としていた小岩井さんとケイが巻き込まれた。

 ズグッと膝下くらいまで沈む。


「うわっ!?」

「イワさん……くっ!!」


 沈んでいく二人を助けようと茂呂島さんと井手上さんがダッシュするけど、泥に足を取られて思うように走れない。

 やがて茂呂島さんがビターンと泥海へ倒れ込んだ。

 大の字に!

 福々とした身体が小島みたいに浮かぶ。どうやら動けないようだ。


「し、沈むっ……!」

「茂呂島さま!?」

「モロ!!」


 小岩井さんと茂呂島さんの目が合う。

 ケイの横から走り出そうとした小岩井さんも足を取られ――ぶっ倒れた。

 こっちも大の字だ。

 ケイは背負ってる電式結界のスイッチを入れようと必死だけど、泥海に絡め取られながらでは体勢が悪い。

 レテの書で知識を入れた井手上さんなら操作できるけど、茂呂島さんと小岩井さんを絡め取った泥の海が行く手を阻んでいる。


「ほほほほ、海中では我らに一日の長あり! そのまま奴らをレレイの海へ引きずりこめ」


 海の範囲は徐々に広がっていき、僕の足元からも水がジワッと染み出してきた。

 少年が青筋だらけで僕らの運命を宣言する。


「てぇーんばぁーつぅー、てえーきメェーん!!」

「おおおおお!!」


 泥海を押しのけ、海水がゴボゴボと噴き出した。

 落下していく潜水服怪人が両手を広げ、レレイの海へ物凄い速さでダイブしていく。

 そして――()()()()()()()に叩きつけられた。

 グッシャ!


「グギャアアアア!」

「え……?」


 濁った青水を吹き出しつつ、跳ね飛ばされた潜水服怪人がゴロゴロと荒れ地を転がる。

 落下の衝撃でアチコチが破損したらしい。

 中国服の少年が慌てて地面をバンバンと叩くけど、冬枯れの荒れ地のままだ。


「あれ、レレイの海は……?」

「ぜー、ぜー……まっ、間に合いましたぁ!」


 すごい顔で座り込んでいたケイが、手の中にある――電式結界を高々と持ち上げてみせた。

 陽光の下だと見難いけどガラスシリンダーが強く輝いている。

 光だけで少年の神話を打ち消したか。

 そうなら伯爵の持っている本物のエルダーサインにも匹敵するけど、その割には僕の神話にはまるで影響してない。

 んー、んん?


『電式結界の力を疑うわけではないが、これはお子様の神話が想像以上に脆かったな?』

「僕もそう思う。電式結界が効果を発揮したことは間違いないけど、もう一つくらいカラクリありそうだよね」


 結界器を持つケイの背後には、起動させた三人が控えていた。

 装置を起動させた井手上さんと、その足元でビターンと地面に埋まってる小岩井さんと茂呂島さんだ。


 小岩井さんと茂呂島さんの背には、井手上さんの靴跡が付いている。

 おそらく泥の中に井手上さんの通れる道を作るため、二人ともワザと泥の上に倒れ込んだのだろう。

 パチパチ。

 エア拍手すると小岩井さんが渋い顔をし、茂呂島さんが恐縮ですとばかり軽く会釈する。

 神話を打ち消された中国服の少年は――あ、衝撃で吐きそうな顔をしている。


「おぶっ……ば、バカな……ど、どうやった!?」

「ふ、ふふ、これぞ我が力!」


 そう叫ぶケイだけど、それ電式結界とシグサンド写本の力で――あ、いや、ケイの力ってコトにしてた方が都合いいか?

 下手に電式結界をアピールして、狙われたりすると厄介だしー


「ま、それはそれとして――清華、アレよろしく!」

「はい瑛音さま!」


 首をくいっ。

 後ろでボロボロの潜水服怪人(アレ)が立ち上がっていた。

 ギギ……と、歯車の軋むような音が立つ。

 アチコチから青い水が垂れ流され、スーツの中では謎の神話存在がグチャゲかけている。

 それでも僕らに手を伸ばしてきた。

 助けてか、道連れにしてやるかは分からない――


「清華、瑛音さまには当てるなよ」

「勿論ですわ、お兄さま!」


 景貴のサポートの元で清華が神経を集中させた。

 鎌倉事件の際に裏世界でも見たけど、清華は鼓動すら止められそうな程の集中力を持つ。

 そんな彼女の精神がギュルリと絞り込まれ、一点にギュッと収束し――やがて堰が切れる!

 レッドナインが咆吼した。


 ガン! ガンガン――!!


 潜水服怪人が慌てて隙間を手で押さえようとしたけど、間に合わない。

 弾丸が覗き窓へ叩き込まれる!

 ヘルメットが鐘のように激しく振動し、その度に覗き窓が真っ赤に染まった。


「ォ――ブバッ、ババ……」


 ガタン、ガタガタ――バターン!


 やがて潜水服が膝を突き、地面に倒れて動かなくなった。

 衝撃でヘルメットが外れて転がる。

 中身は――げー、蛸タイプだ。

 口の周辺から何本もの触手が出ている。頭足類(アタマ・カラ=アシ)というだけはあるなー

 セブンでは双子がハイタッチしてる。

 ケイと井手上さんも抱き合って喜んでいた。

 特に、丹後丸事件でコイツらに死ぬほど苦しめられたケイの喜びようは凄い。


「ボレアではあれ程苦戦しましたのに、それをこんな簡単に……!」

「や、ホントにね?」

「(ぜー、ぜー……お、重かったです!)」


 あ、モーサンが戻ってきた。

 翼と角のある悪魔みたいな黒いボディがフワっと変形して揺蕩(たゆた)うと、しゅるるると白いマントへと変じていく。

 そうして僕の身体を覆った。


 元のマントと同じ――じゃないや、デザインがちょっと変わってるな。

 多分疲れてるせいだろうか、フードの脇に元はツノだった意匠が残ってる。

 他にもちょいちょいと。

 でも、まあ……これはこれで格好いいかもだ。

 最後にマントの端がひょいと動いて、モーサンがニュートをフードに戻す。


「さて……ん?」


 ケイがこっちを見て、呆然としている。

 あれ、小岩井さんも?

 茂呂島さんはアワアワ。


『瑛音、もう今更だがモーサンはガッツリ神話存在だからな?』

「おお!」


 これは神話リアリティショックというか。

 ニュートがフードから、とててーと肩へ登ってくる。

 そしてケイの前で前脚ひょいひょい。


『ふむ? こっちはモーサンを見てビヤーキーを思い出したかね。小岩井は……瑛音が実は神話側の存在と知ったからか』

「最初っからずーっと神話使いなんだけどなー」

「(えー、ビヤーキーに似てますう?)」


 モーサンは向日葵とヤツメウナギの区別が付かない相手を見るような目で、ケイをジーッ

 ――いや目はないけどね?

 でもまー、丹後丸事件でも正気を保ててたケイは放置しててもいいかな。

 だけど大戦での悪夢を何年も引きずっていた小岩井さんは、ちょっと不味いかも知れない。

 さてどうしたモノかと思ってると、小岩井さんがギリギリと腕を上げ――自分の頬をバシンと打った。

 拳で、結構強く!


「だ、大丈夫ですか!?」

「ああ。――モロ、なんか気付け持ってないか?」

「こちらを! ハーブリキュールです」


 ショックは免れてた茂呂島さんがすっ飛んできて、何故かまず僕に一礼。

 結社の秘密は守りますって顔で!

 それから小岩井さんにスキットルを差し出した。

 金属製の平たい水筒で、小岩井さんはそれを――ケイの口にムリヤリ突っ込んだ。


「砲撃のショックで動けなくなった奴を何人も見てきたよ。――これが常に聞くわけじゃねーが、まあ飲んどけ」

「ぐ……」


 ケイが目を白黒させつつ、何とか吹き出さずにお酒を飲み込んだ。

 白い顔にちょっと朱が差す。


「けほ……うう、変なお酒です……」

「――なんだ、意外と上等な奴だな」


 小岩井さんもスキットルの匂いを嗅いでから、一口。

 なんか美味しそう。

 僕にも差し出されたので思わず反応しかけたら、ニュートが断った。

 ニュートが、前脚で。


『瑛音にはまだ早い』

「ああ……そうだな、未成年の飲酒を禁止する法律ができてたか。――悪かったよ」


 言葉は通じなかったようだけど気持ちは伝わったっぽい?

 小岩井さんは笑いながら頷いて、もう一口飲んでからスキットルを茂呂島さんへ返した。

 そですね、お酒は二十歳になってから。

 ちなみに一昨年の大正十一年から法律が制定されてます。


 ――うん、この二人は大丈夫そうだ。

 安心して奥でヘタリ込んでた井手上さんを起こしにいく。

 彼女の場合、何かあったらレテの書で回復は可能かもだけど……できれば使わずに済ませたい。


「だいじょぶ?」

「は、はい。――さっきの子供は洞窟の奥へ逃げていきました。真っ青な顔で、アチコチから出血しながら」


 指さす井手上さんに肩を貸した。

 井手上さんは俯きつつ――真っ赤になって、スカートのスリットから伸びる僕の足をガン見してる。

 ただの足なんだけど、そんなにいいのかなあ。

 ニュートとモーサンは死んだタコティップが気になってるようだ。


『そもそも、こいつ何だろうな?』

「(じー)」


 ん? ――うげ、もう腐り始めてる。

 さすが海洋性。

 離れつつ、飛んできた清華と景貴をかいぐり誉めてやりつつ、皆で洞窟の入口に集まった。

 まっ暗だ。

 さてどう攻めるかと考えていたら、小岩井さんが進み出てきた。


「――そういや嬢ちゃん、ひとつ聞いていいか?」

「なんでしょう」

「とんでもなく形のいい尻をしていたが、男なんだよな?」

「オトコですよー」


 おほほ、お尻大きくて悪うございましたね!

 小岩井さんは、そうか……と呟き、数学の難問を解いてるような顔になった。

 ううん……

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