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Scene-02 レリック・ブレイカー

 皆でホホホと笑う少年を包囲するように車を止めた。

 少年は派手な中国帽子と中国服を着て、死体のコスプレみたいな白粉べったり顔。

 口紅がおちょぼ口を強調している。

 顔色からして本当に死体か死霊あたりかも――なんて考えつつセブンから降りると、察したケイと小岩井さんが慌てて僕より先に進み出た。


「そ、そこを退きなさい。大人しくしていれば、子供には何もしません」

「ほほほ……この奥には我らの聖地がございます。あなた方こそ、何の御用でしょう?」


 僕らにバラバラと包囲されても、少年は意に返してないようだ。

 時折、おちょぼ口でホホホ笑いもする。


「用事……えと」

「――すまない、中をちょっとだけ改めさせて欲しい。少し確認するだけで、君に迷惑は掛けない」


 小岩井さんが財布を取り出そうとしたけど、少年がチッ、チッという感じに遮った。

 それからニッコリと笑い――素直に道を譲ってくれた。

 中は、まっ暗だけど。


「お布施でしたら結構。例え外部の方々とはいえ、礼を持って聖地へ参じるのでしたら歓迎いたしますとも。ただし我らの流儀は守って頂きますが。ほほほ」

「え? えと……あの」


 荒事を覚悟していたらしいケイがキョドり、キョロつく。

 小岩井さんは僕らへアイコンタクト。

 任せます――と、目で返す。

 その間も色々考えていたケイは最終的に背筋をピンと伸ばし、拍手二回にお辞儀一回をした。

 神社へのお参りのアレだ。

 最後にむむむ……と両手を合わせて奥に祈ってから、そーっと洞窟へ入ろうとした。

 けれど、何故か直前で少年が止める。


「あれ……作法が違いました?」

「失礼ながら、こちらは我らの聖地でして――その様なモノを持ち込まれては困りますねえ。ほほほ」

「え? な、何を……」


 少年は困ったような顔と口調でケイを見ている。

 見られた本人は、反射的に背負ってたモバイル仕様の電式結界をひしっと庇った。

 常識的にはデカいベルトにぶっ刺してる拳銃(ルガー)と短寸軍刀では……?

 だけど少年はチッ、チッ、チッと唇を鳴らして否定の意思を伝えた。どうやら武器とかではないらしい。


「ほほ。置いていって頂くのは――命!」

「は?」


 少年が邪悪に豹変する!

 同時に洞窟の奥からも、ゴーンという音が響いてくる。

 な、なんだ?

 抱いていたニュートが猫目を険しくした。


『瑛音、洞窟の奥で何かが動いたぞ。これは――む?』

「まさかイプティックとか……」

『いや、もっとケミカルで金属くさい――お? おおっ!?』


 ガシュ、カシュー!

 裂け目の奥から、高圧蒸気の漏れる音が響き始める。

 ギャリギャリという機械音も!

 やがて水蒸気をまといつつ、巨大な影が二つ現れた。

 出てきたのは――スチームパンクっぽい深海潜水服を着た怪人!!

 丹後丸事件のあいつらかー


 高圧蒸気動力の機械式甲冑とでもいうべきモノで、中身は神性に汚染された異形の人間だった。

 今回はまだ不明だけど。

 武器は、金属製のハンマーみたいのを持っている。

 メイスだっけ?

 一本が十キロくらいありそう……

 奴らを見たケイは、口から魂みたいのを出して棒立ちになっている。

 無理もないか、酷い目にあったもんね。


「ああ……ひゃあああ!」

「ほほ、先日から我らの周囲を探る愚か者がいたようですが、あなた方でよろしいですかねぇ。ほほほ!!」


 少年の言葉を受け、小岩井さんが目で僕に謝罪。

 アレだけ派手に動けば仕方ないですよ――と、表情で返しつつ戦闘準備!

 僕が動いたので皆も動き始める。

 中国服の少年が、勿体つけながら戦闘の開始を宣言した。


「ほほほ……お行きなさい、ザンボアー、バドリア!!」


 二体がズシン、ズシンと突進してくる。

 ちなみに左がザンボアー、右がバドリアらしいけど、潜水服のデザインは一緒なので区別できない。

 する必要もないっぽいけど。


「あ……ひゃあ!!」


 正気に戻ったケイが、必死に逃げようとする。

 でも焦って足がもつれた!

 地面に転がりかけた瞬間、ダッシュしてきた小岩井さんがケイの腕をガッシリと支えてくれる。


「あ、ありがとうございますぅ!」

「礼はいい、とにかく走れ……うおっ!?」


 そこへ爆発みたいな衝撃が襲う!

 超重量級のメイスが地面を穿ち、抉り、もうもうと土埃が上がった。

 小岩井さんとケイは――大丈夫!

 ケイを抱きかかえた小岩井さんがゴロゴロと地面を転がっていく。


「ひ、ひいい……」

「な、何だ――まさか、軍の新兵器か!?」


 一瞬前まで二人がいた地面には、振り下ろされたメイス先端部が地面にガッツリと埋まっている。

 なんつー怪力だ。

 その横を、もう一体の潜水服怪人がドスドスとすり抜けてくる。

 きゃー、こわーい――なんて言うと思ったか?


『凄まじい怪力だな』

「ニュート、念のためフードへ退避していて。――皆! 子供だからといって甘く見ないで下さい。ここで倒します!!」

「お、おう!」

「はい、瑛音さま」


 小岩井さんと、何故かセブンの後部座席にいる清華が返事する。

 もちろん他の面子も異存はなしだ。

 茂呂島さんは軍用ライフルに銃剣を付けたやつを準備し、小岩井さんと一緒に装備する。

 お子さまと潜水服怪人も一切の遠慮なく立ち向かってきた。

 小岩井さんとケイを襲った一体は、そのまま茂呂島さん、井手上さんを巻き込んで戦闘へ。

 僕らの方にも一体がガシュー、バシューっと蒸気を吹き出しつつ肉薄してくる。


「先手必勝! いくよー」

「(あいあい)」

『頼んだぞ、瑛音』


 ダッシュしてこっちから怪人へ近づく。

 潜水服怪人は慌てて立ち止まり、メイスを頭上から一気に振り下ろした。

 もの凄い速さで――空振り。

 外れたメイス先端が地面に大きくメリ込んだ。ちょっと深く、抜くのに苦労している。


『こいつら、さっきから振り降ろししかせんな?』

「水平に振るにはメイスが重すぎるよ」

『うむ。だが全力の振り下ろしだと持ち上げるまで時間がかかるし、打った後に硬直が入る。隙だらけだ』


 だねー

 コレだけの怪力で人間相手なら長い棒でもよかったと思うんだけど、何を想定してたんだか。

 冷静に対処できれば避けやすいし、こんな芸当もできる――よっと!

 引き抜かれる直前のメイスに飛び乗ると、その腕を駆け上った。

 そのまま一気に肩まで!

 ヘルメットは前と同じく、プラネタリウムの映写機みたいに丸窓がたくさん付いている。

 中にいるイプティックが、こちらを覗き込んで――うえっ!?


「うげげげげ、中身の目が複数ある!」

『なんと。イプティックかと思ったが別物の神話存在か!?』

「(ん? んー??)」


 とっさに銃を抜こうとして、気付く!


「いけね、今日は全弾が対《神話》弾だった。装甲抜けない! ええい、ならプラトーで……」

「(きゃー!)」

『瑛音、モーサンを着込んでる時に不用意にプラトーを抜くな! ――下手すれば二人羽織の恐怖を味わう羽目になるぞ!?』

「だ、だいじょぶ、抜いてない! ほーら!!」


 やり取りは一瞬だったけど、その動揺が隙を生んだ。

 デカイのを!

 潜水服怪人が僕を振り落とそうとしてメイスを振りまわし、危うく足を潰されそうになる。

 ぐぐ……好位置をスッパリ諦め、飛び降りた。

 またそこまで登ってやるからなー!

 そんなやり取りを眺めていた少年が、おちょぼ口の端を吊り上げる。


「ほほ、なんと無様な!」

「そうね、今のは自分でも無様だったと思うよ……くそー」


 モーサンをバサリとはためかせつつ、ズザザザと着地する。――ん?

 なんかモーサンの目付きが険しいな。

 いや、目はないけどね!

 フードのニュートが前脚をちょこっと出しつつ、二体の潜水服怪人を交互に見てる。


「どしたん?」

『こいつらデザインに差異がまったくない。もしや量産型……?』

「量産型……いや、不吉なこと言わないでよ!?」


 ぶるぶると首を振る!

 追いついてきた潜水服怪人が、メイス攻撃を放ってくる。

 ギリギリまで引きつけ、手を出させてから躱した。

 その方が硬直時間分だけ稼げるからね。 

 向こうでも、もう一体の潜水服怪人がメイスで地面を掘り返す音が響いてる。

 狙われたのは――茂呂島さんか。


「オォ――オオオ!!」

「な、なんのっ!」


 ズガン!

 爆発みたいな土煙が上がるけど、茂呂島さんは意外に機敏な動きで避けている。

 それも四キロ以上の軍用ライフルを支えつつだ。

 丸っこい身体付きから運動神経が鈍いと思われがちだけど、小岩井さんと同じく元はバリバリの軍属なんだよね。

 でも――あ、衝撃で足を取られたな。

 受け身は取ったけど。

 小岩井さんが援護のため、茂呂島さんと同型のライフルを構えた。


「くそ、サンパチで通るか。――モロ、逃げろ!」

「イワさん、有難うございます!」


 ズバン――ガシャコン! ズバーン――ガシャコン!!

 ライフルは日本陸軍制式の奴で、オートじゃないから一発撃つたびに装填アクション(ガシャコン)が入る。

 その代わり、軍用ライフルを持ったまま機敏に位置を変えていく。

 狙ってるのは装甲の薄そうな場所らしく、まずヘルメットに火花が散った。


『おお、奴が腕で庇ったぞ。やはり前のより装甲が薄いのかもな』

「こっちも――清華、景貴も!」


 茂呂島さんが無事に距離を取れたことを確認しつつ、セブンでレッドナインを構えた清華に手を振った。

 その後ろで、僕を追いかけてた潜水服怪人のメイスがドカンと地面を抉る。

 当たらないけどね!

 その硬直タイミングで、清華が奴の片足を狙う。


『ほう、移動を封じる気か』

「狙いは悪くない。ないけど……足だと、動いたら当てるのは難しそう」


 実際、硬直が解けて相手が動き始めると当たらなくなった。

 向こうでは小岩井さんがリロードに入ってる。

 すかさず茂呂島さんとケイがカバーに入り、ライフルと拳銃が放たれる。

 井手上さんは小さな護身用拳銃を持って走りこみ――おお、お子様を狙える位置に動いたか。

 でも洞窟にさっと隠れられた。


 そう言ってる合間にも、ズガンと地面が震える。

 メイス攻撃だ。

 僕を狙った奴はあっさり躱したけど、向こうで次に狙われたケイはキャー、キャーとすごい声を上げまくって逃げている。

 それで無事だったことが分かるけど。

 小岩井さんが飛んできて再びケイの手を引いていく――けど、ケイの動きが鈍いな。

 あ、背負ってる電式結界が重いのか!?

 それで他の人より速く体力を消耗し始めてるらしい。


「嬢ちゃん、背中の装備を捨て……いや待て、絶対持ってろ! 落とすなよ!?」

「は、はひぃ……!」


 ケイだけじゃない、小岩井さんや茂呂島さんも息が上がり始めてる。

 弾だって無限にはないから長期戦は不利だ。

 仮にコイツらに勝っても、荒士さん救出のリソースが残らなければ何のために来たのか分からない。

 ニュートも僕と同意見らしい。


『瑛音、このままでは我らに不利だぞ?』

「僕もそう思う。――僕らが有利になるよう、すぐに状況を変えるべきだ」

『もっともだが、どうする?』

「脱ぐ!」


 ニュートがびっくり。

 いや、あの……モーサンを着たままではプラトーや第三、第四のチクタク感覚を使えないから――っていう意味ですよ?


『だったら……モーサン、元の姿に戻って瑛音を助けてくれないか』

「(いいですけど、いいんですか?)」


 モーサンが小岩井さんたちをチラ。

 いや目はないけど!

 ニュートが難しそうに首をくるん。

 潜水服怪人に消耗の兆しはなく、相変わらずメイスで地面を耕している。


『なるべく皆に驚かれない範囲で頼む』

「そうしないとジリ貧だしね……モーサン、お願い」

「(あいあい、ナイトゴーントは対混沌の同盟者に優しいんですよ!)」


 OKサイン。

 ズッカン、バッカンと地面にクレーターを穿ちまくる潜水服怪人の攻撃に遭わせてタイミングを見計らい――ジャンプ!


「清華、射撃ちょっと待ってて!」

「オォ――オォッ!?」


 フワリ。

 一度空中へ飛び上がり、頂点でモーサンがニュートごと一度離れていく――いや、タンマ!?


『いつも水くさいぞ、相棒!』


 ニヤリと猫笑いした頼れる相棒が、僕の肩に飛び移った。

 僕の肩に――ニュート、爪ぇー!!

 でもサンクス!

 僕らはそこから自由落下に入りつつ――せえ―のっ!


 チク タク チク タク チク タク


 第三のチクタク感覚を発動させる。

 加速のチートだ。

 僕の視界が一瞬真っ白になり、周囲の時間が圧縮される。全てがゆっくり流れ始めた。

 ニュートを庇いつつ、そうやって潜水服怪人の肩に着地する。

 でも両足が滑っていく、動きが止まらない……!

 加速してると慣性が殺しきれないから、仕方ないけどね。


 水に流されてると割り切りつつ、パワー、スピード、タイミングを揃えてからプラトーを叩き込んでやる。

 狙いは――メイスだ!

 なんだけど、ちょっと姿勢が悪いぃー

 こ、この姿勢で大股を開くのは――ええい、スカート邪魔っ!!

 スラン――ガキィン!

 ひと手間でどうにか必殺のフォームを整え、全力で放ったプラトーがメイスと接触して閃光を放つ。

 怪人の籠手で、重いメイスがゆっくり回転を始めた。よーし!


 そこで一度、チクタク感覚を切る。

 普通の時間に戻った直後、ズボッとスッポ抜けたメイスがぶっ飛んでいく!

 そのままドカッ、ドカっと何処かへ転がっていった。

 反射的に拾おうと振り返った潜水服怪人の背に登り、ガッチリ組み付いてやる。


「また来てやったぞ、今度はそう簡単に降りないからな!」


 プラレタリウムの投影機みたいなメカメカしいヘルメットをガシッと掴む。

 ふふん、もう攻撃手段ないだろう?


「オオ――オォ――ブオッ!?」


 ジタバタ暴れられるけど、落とされるほどではない。

 片手と両足でガッチリとしがみつき――そう、両足を大きく開いて!

 さっきプラトーでスカートにスリットを入れといたんだよねー

 ガーターはギリ見えない範囲で。

 流石に股間をアップで見られたりするのは嫌だけど、太ももから下の足が見える程度なら別にどーでも――ん?

 あっ!?


「……」

『瑛音、その顔だとスリットを開けた際に()()される可能性を失念してたな?』


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