表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/113

Scene-01 リヴィスト・ザ・スネークズネスト

 山が海スレスレまで迫ってる土地だった――


 境に僅かばかりある平地には、木造の家々がみっちりと寄り添っている。

 家屋は、江戸時代と明治初期のものが混在していた。

 明治の家屋だけ立派なので、その頃に急激に栄えたのだろう。

 しかし新しい家屋は全くない。

 蛇の死骸のごとく、グネグネと並ぶ家屋は――ところどころ焼け落ちていた。


 かつては枢戸(ク・ルル=ト)と呼ばれた村だ。

 江戸末期から明治までの一時、この村には旧支配者の『座』があった。

 だが、大正の現在では既に失われている。

 旧支配者は既に去ったのだ。

 ほんの僅かにあった『神性』の残滓も、()()()()の後に尽き果てている。

 最後は軍による介入で終わった。

 いま、かつて村だった場所に人はいない――



「その筈だったんだけどな……」

『軍では狩りきれなかったか? 一度調べた場所なのも盲点だった』


 だよね……ちっ。

 前にここへ来たときは清華誘拐事件の時で、それが普通に解決したから余り気にしてなかった。

 何しろ旧支配者も居なかったし。

 あと、カルネたちを警戒して《幻視》を甘めにし過ぎてたのも……ぐぐぐ。


『気に悩むな、瑛音。遅かったが、まだ手遅れと決まったわけではない』


 セブンの運転席で、肩のニュートが頭ゴッツン。

 そう、事件の顛末を知らない小岩井さんが丁重に拾ってくれたおかげで盲点に気づくことができた。

 感謝だ!

 その当人――小岩井さんは切り株だらけの禿山てっぺんで貸したランチア・ラムダを降り、使い込まれた私物の双眼鏡ですっかり廃村となってる枢戸を調べている。

 元軍事探偵の風格を感じる背中だなー

 その横では、茂呂島さんがメモ片手にフォローしているようだ。

 いつにも増してニコニコしている。


 僕はと言えば――小岩井さんたちに同行はしてたけど、物騒なのには出会わなかったので役に立てたかは分からない。

 せいぜい後ろでチクタク感覚を使ったり、ニュートの助言を翻訳したり、何故か気付いた伯爵の暗躍ド攻勢を、まあ……フォローしたくらい?

 小岩井さんも、びみょーな顔してたなあ。

 

 そうやって糸を手繰り寄せつつ、僕らはセブンにラムダ、サイドカー仕様にしたトライアンフで、枢戸村の廃墟を見下ろす禿げ山まできている。

 面子は僕、ニュートにモーサン、双子、それに井手上さんとケイ。そして小岩井さんと茂呂島さんも。

 元軍人の小岩井さんと茂呂島さんは、軍用ライフルまで持ち出してくれている。


「――モロ、ここで間違いない。偽装されているが、廃墟化した港に船が係留されている。おそらく海警が探していた不審船だ」

「ふむ……カースティアズの密輸船である可能性ありと。ならば千代松を運んだのもあの船でしようか」


 小岩井さんと茂呂島さんは、顔にシリアスな濃い影を落としながら廃村を見下ろしている。

 その声が聞こえたのか、バイクで電式結界のメンテをしていた井手上さんがビクッと肩を震わせた。


「瑛音さま……その、わたしにも確認させていだければ……」


 ハイカラさんスタイルの井手上さんが、癖っ毛の下から凄い目を覗かせる。

 ううん――おけ!


「小岩井さん、双眼鏡を少しお借りしても?」

「あ? ――ああ」


 借りた双眼鏡を井手上さんに渡し、二人で見晴らしのいい場所へ。

 いい位置にあった切り株へ登り、しばらく港の方を見ていた井手上さんの靴元からギリギリと歯の軋む音が響き始めた。

 背からは、仄暗いオーラが立ちのぼる。


「あの船はカースティアズの物です、間違いありません……」


 抑えた声音が、むしろ強い憎悪を感じさせた。

 井手上さんは一度カースティアズに捕まった過去がある。

 そこで『シャッガイからの昆虫』という旧支配者由来の神話技術で、頭の中を無茶苦茶にされた。

 そのとき、家族も失っている。

 彼女の父親にとどめを刺したのは……僕だ。

 他に方法がなかったとは言え、その事実を忘れる気はない――

 双眼鏡を小岩井さんに返すと、茂呂島さんがメモをパタンと閉じてこっちを向く。


「瑛音様、ここは軍と政府よって存在が秘匿されていた村です。名は――分かりません」

「枢戸村って言います」


 答えたら、茂呂島さんが一瞬「あ、やっぱり知ってました?」って顔をした。

 でもすぐ表情をスイッチ。キリッ。

 へーい、茂呂島さんが来る前に色々ありましてー

 そんな結社の事情を知らない筈の小岩井さんが、こっちをじーっと見つめてきた。

 な、何でしょう?


「なあ、モロ……軍のお偉いさんトコでタイミング良く掛かってきた電話って、嬢ちゃんの関係者か?」

「申し訳ございません、茂呂島にはさっぱりで――」


 茂呂島さんが申し訳なさそうに、額をペシ。

 電話は状況的に伯爵だよねー

 きっと帰ったら、これ見よがしに「頑張りましたよー、瑛音さまぁぁ!」とか言いつつ縋り付ついてきて「ところで、この本も封印でよろしいでしょうかぁぁ!」とか迫ってくるに違いない。

 絶対に!

 ぐぎがががが……


 そこで肩に居たニュートがフードに合図ぽんぽん。

 ちょっとお喋り。


「ニュート、何か匂いとかする?」

『するがが、ハッキリせん。――瑛音、お前の《幻視》でここ数日の時を遡れ。今は逆襲を恐れるより、我らが真実を掴むほうが重要だ。村の変化を見逃すな』

「りょー」


 チク タク チク タク


「――ん?」


 一度、幻視を切る。

 ちょっと考え……


「――景貴、清華、ちょっとこっちきて」

「はぁい!」

「ただいま参ります、瑛音さま」


 セブンで行儀よく待っていた双子が飛び出してきて、ペタッとくっついてくる。

 景貴が何故か指を絡めてきた。

 まあ、手を繋ぐくらいいいけど……とか思ってたら、それを見た清華が「わたしもー!」みたいな感じにべったりと腕を絡めてきた。

 まあいいけども……


 そこでチクタク感覚が階梯を一段上がった。

 第二段階。

 第一のチクタク感覚に限り、この二人が側にいると効果がブーストされるのだ。

 触媒みたいなものかな。

 近くにいてくれればいいだけで、別にくっつく必要はないけど。

 そこから更にチクタク感覚を蹴飛ばす――

 うう、もっさりー!


 チクタク チクタク チクタク チクタク――


「イワさん、では気を取り直して探索を!」

「ああ、俺の見立てでは怪しい場所がひとつある。それは……」

「――あそこですね?」


 二人で同時に同じ場所を指さす。

 丘陵地のずっと先にある、岩肌が海岸から大きく隆起した場所だ。

 その一角に、草木に飲み込まれ掛けている古そうな火事の跡があった。

 消えかかった道の跡も。

 ここからだと分かり難いけど、焼け跡後ろの岩肌には裂け目みたいな大穴が開いているようだ。

 洞窟への入り口だろう。

 おそらく、とても深い洞窟がそこにあると思われた。


 なにしろ――何日か前に車がその中に入ってるから。

 挙げ句にまだ出てきてない!

 夜の港に無灯火の船が入ってくると、どこからかやって来た車が荷物を裂け目まで運び――

 軍が去った直後くらいから、そうやって定期的に車が入っている。

 動きが活発になってきたのは最近のことだ。

 時期的に、鎌倉事件のちょっと前くらい?

 それで冬枯の草原についた車の轍がまた消えておらず、小岩井さんも気付いたんだろう。


「嬢ちゃん、よく気づいたな……」

「瑛音さまは凄いのです!」


 僕が誉められたと気付いた清華が、横で胸を張った。

 景貴も頷くと指をぎゅっ。

 そね、地味ではあるけど――旧支配者《イースの大いなる種族》から賜られた、堂々のインチキ(チート)能力だしー


「目はいい方なんですよ。――それより行きましょう」

「そうだな……行くか」


 小岩井さんの目が底光りする。

 神話を知る人の目だ。

 戦闘にも参加してくれるつもりらしく、茂呂島さんが用意した日本軍の制式軍用ライフルをスーツの肩にベルトで担ぐ。

 アイヌの黄金伝説を追う作品でよく見た奴だ。


 僕も、念のため腰のウェブリー・リボルバー・マークⅥをチェックする。

 今回はすべて対神話弾にしていた。

 通常弾が必要なら、皆に任せればいいと割り切ってる。

 潮臭い冬風が吹いてきた。

 まるでそれが、何かの予感のようで――


『どうした、瑛音?』

「ううん……ただちょっと、前哨戦が激しくなりそうだなって」

『はは、前哨戦か』

「景貴、清華、武器はすぐ使えるように。井手上さん、ケイも。――行くよ、皆!」

「は、はいっ!」


 返事も力強く、まずケイと井手上さんのサイドカーが先頭を切った。

 彼女はモバイル仕様にした電式結界を背負っている。

 このガラスシリンダーを持つ装置は、本人の霊力みたいな物を増幅して対神話フィールド――っていうかな?

 そんなのを展開できる。

 床に印章を描けないと効果は落ちるけど、敵にデバフかける程度なら十分だろう。

 ただ――


「瑛音さま、何かあれば電式結界を使います。電力の蓄えは十分です!」

「いいけど、カルネとか出たらどうするの?」

「実はカルネたちってよく知らないんですよね。――始めて会ったのは父の葬式でしたし」


 ケイが困った顔をする。

 いや、そーゆー意味でなくてね?

 電式結界だと、銃弾とか殴る蹴るの物理は防げないと言いたいんだけども。

 まあ、腰にはルガーP08と短寸軍刀を差してるからいいかなあ……

 サイドカーには井手上さんも乗っているし、何とか?


「じゃあ先導よろしく、井手上さんもね」

「はい、瑛音さま!」


 僕もセブンに戻ってハンドルを握る。

 さーて?



 道とも言えない道を進むと、海岸から大きく隆起した岩肌が見えてくる。

 開いた裂け目は――やっぱり大きくて深い。

 近づくと、岩の裂け目の手前には大きな建物の焼け跡があった。

 大昔に火事があったらしい。

 その後ろにある裂け目は、漆喰か何かで口を封じていた跡が微かに残っている。

 宗教的な建築物が、この洞窟を――おそらく地下世界を、ずっと封じていたのかも知れない。

 しかし封印は既に失われている。

 セブンのダッシュボート上にちょこんと座ったニュートが、裂け目をじー


『ふうむ……匂いの元はここで間違いないようだ。だが妙だな?」

「どしたん?」

『残り香しかせん。もしかして封印はまだ機能しているのかも――ん?』

「ほほ……そこの連中、止まりなさい!!」


 お?

 耳にキーンとくる高音が響いたかと思うと、裂け目から小柄な人間がゆったりと出てきた。

 中国っぽい服を着た人形……じゃないな。

 生きてる少年だ。

 年頃は、双子や井手上さんとそう変わらなそう。


『なんだありゃ、キョンシーのコスプレか』

「なにそれ?」

『中国のアンデッドモンスター。お前の祖父か、曾祖父の頃にアジア映画で流行った』

「前から思ってたんだけど、ニュートって何歳なの?」


 あ、ツーンとかそっぽ向かれた。

 尻尾が一本だから百年は経ってないと思うんだけどー

 とか思ってたら、ケイがバイクを停めた。

 僕たちも停まる。


「ほほほほ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ