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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十二話:まといまとわれ
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Scene-12 しんじるものは

 セブンで急ブレーキ!

 即座に通りへと飛び降り、まだ少し赤い朝日に照らされた横浜外国人街へ飛び出す。

 目指すのは昨日ラーメンをご馳走になった小岩井さんのお店だ。

 入口の扉に触れ――あれ、鍵が掛かってない?

 茂呂島さんに振り返った。


「茂呂島さん、小岩井さんのお店の中でいいんですか!?」

「中ではなく外かと。近くに車はございませんか」


 茂呂島さんはセブンの後部座席に寝かせていた井手上さんを、そっと抱え上げた。

 真っ青な顔した彼女はピクリとも動かない。

 肉体へのダメージはほぼ無いけど、その内側では《神話》が荒れ狂っている。


 結局、荒士さんの行く先も追えなかった。

 イプティックが海へ連れ去ったことまでは分かったけど、そこまで。

 そう……イプティックが連れ去った。

 あのスケベ魚人どもが!!

 ぐがががが!

 茂呂島さんがキョロキョロし、僕も声を張り上げる。


「ケイ、いたら返事を!」

「カイトーさん、おりますか。カイトーさん!」


 何処に――あっ、あの車!?

 路地の影に停まっていた黒い大型車の扉が開き、探している女性が降りてきた。

 男子学生服姿の女子高生、カイトー・ケイと……あれ、双子も?

 助手席から降りてきたゴシックスーツの景貴は、涼しげな顔をしている。

 ははーん、勝手に便乗してきたな?

 後部座席からはケイと清華がノロノロと降りてくる。こっちは寝ぼけた顔してるな。


「ふわぁぁ……」

「清華、ちゃんと目を覚ませ。瑛音さまの前で失礼だぞ?」


 景貴が清華のゴシックドレスを整える。

 いいお兄ちゃんだ。

 学ランのケイは自分で整えたが、流石に完全ではない。

 長い黒髪がちょっとクシャってるな。

 それでもそれなりに整え直し、最後に学ランの上から丈の短い同色のマントを羽織るとお辞儀する。

 こっちも眠そうだ。


「おはよ、ござます……」


 ケイは、とある神話事件で拾った結社の捕虜……かな?

 疑問形なのは、彼女が所属していると主張したダゴン秘密教団に在籍記録がないっぽいからだ。

 結社も本人も、切り捨てられたと思ってる。

 そんなケイがちょっと困りつつ、おずおずと切り出してきた。


「それで、その……私はここで何をすればよろしいのでしょうか。夜中に叩き起こされて車で運ばれ、もう何が何だか」

「まず――井手上さんの治療をお願い!!」


 ビシッ!

 茂呂島さんがお姫様抱っこしてる井手上さんを指差した。

 ビシッ。

 ケイが眉根を寄せながら、何気なく井手上さんの青い顔へ手を伸ばし――


「これは何が……ぴきゃーっ!?」


 井手上さんの額に触れたケイが、その手を押さえて転げ回った。

 彼女は神話の気配を快、不快などで感じ取る能力を持っている。どうやら、今は『熱さ』として理解したらしい。


「な、なな、何が起こりましたかー!?」

「神話の使いすぎで……せめて、命だけでも助けてあげて。お願い!」

「あ――が、頑張ります。けど、こんなに酷いんじゃ……ぴぎゃー!」


 ケイが再び転げ回る。

 井手上さんをお姫様抱っこしつつ、茂呂島さんも動いた。

 彼は能力がないので、井手上さんがどういう状態かサッパリ分かってない。


「カイトーさん、このお店の中を借りましょう。道具の類は瑛音さまのお車と、村茉さまよりご用意されたものが店内に。――瑛音様は、お先に岩さんのところへ!」

「分かった!」


 後を茂呂島さんに任せて店へ飛び込んだ。

 双子もついてくる。

 店内は骨董品に美術品、武器に薬品、用途不明の機械までもがズラッと並んでいた。

 国民的アニメ監督の頭の中みたいだ。

 でも肝心の小岩井さんは何処に――ええい、面倒くさい!

 双子がいるので幻視は第二段階だから、使いつつ移動しよう――


 チク タク チク タク チク タク


「うひゃぁ!?」

『ど、どうした』


 フードのニュートがビックリして飛び出てくる。

 僕の目の前で――村茉さんがこっちを見下ろしていた。

 ただし過去の!


「ちょっと前に村茉さんもここにいたみたい。そのビジョンが――もしかして僕向けのメッセージ?」

「え!?」


 一度ファンタズマルリコールを切ると、村茉さんの名を聞いた双子がくっついて震え上がる。

 そーかー、君たちまた勝手に村茉さんの資料みたりしましたね?

 だから、ここにいるんだろう。

 あの人を怒らせると何が起こるか――とか考えてる場合じゃなく!


『瑛音、村茉は何を?』

「ここでこっちを見て、そこの荷物の山を見て、最後に恭しく一礼して奥にある部屋へと戻っていった。逆回しでそう言う動きをしていたってことは、僕が過去を視ることを分かってたのかな――とと、あった。この扉!」


 店主を探し、村茉さんが入っていった隠し部屋みたいなところへ飛び込んだ。

 小岩井さんは――いた!

 二つある長椅子の一つに寝転びながら、ぼーっと天井を見上げている。


 寝てるのか――いや、寝てないな。

 微睡んでただけ?

 小岩井さんは僕が入っていくと、面倒くさそうに長椅子から起き上がった。

 前にも増して目の隈すごいな!

 でも、そのくたびれ具合がちょっと格好いい。オジサンにしか出せない味があるというか?


「嬢ちゃ……ああ、違うんだっけか。で、どうした……血相を変えて」


 小岩井さんは煙草に手を伸ばし――僕と、後ろに控えてた双子とも目が合って引っ込めた。

 すいません、有難うございます!

 小岩井さんは代わりに丸くて平べったい缶から、赤くて丸いタブレット錠を取り出して口に含む。

 梅味……では、なさそうだけど。


『ちなみに仁丹という。キヨスクやコンビニで売ってるミント錠のご先祖で、令和にもあるぞ』

「キヨスクって何?」


 ニュートが――あら珍しい、固まった。

 代わりに小岩井さんが動き出す。


「ふぅ……」

「小岩井さん、いきなりご免なさい。でも力を貸して欲しいんです!」

「――状況を」


 ええと……まだるっこしい!

 スバリ!!


「僕の仲間が敵に連れ去られたんです! 助けに行きたいんですけど、何か情報があれば是非」

「ああ、鈴木千代松の野郎か……?」


 惜しい!

 あ、いや……入口は千代松でいいのか?

 実際は千代松とカースティアズを依り代にして《混沌》と接触した連中について知りたいんだけど……

 うん、まあ。

 首を傾げてからコクコクと頷くと、小岩井さんが何故か凄く嫌そうな顔をした。


「アイツの件に深入りしたくない。――気付いているかい?」

「な、何をでしょう」


 えーと、何から言えば?

 千代松はイーフレイム・エフォーの元下っ端……って言っても通じないだろうし。

 おそらく一般人であろう小岩井さんにどう説明しようか悩んでいると、茂呂島さんも部家に駆け込んできた。

 ケイと井手上さんはいないので、治療中だろう。


「岩さん、早朝に申し訳なく!」

「いいさ。で、こっちだが……まあ、モロに免じて多少なら話してやってもいい。――だが試させもらう。嬢ちゃん、まずは質問に答えてくれないか?」


 ジーッと見つめられた。

 疲れた目の奥にあるのは、恐れ、迷い、そして……期待かな。

 ああ、村茉さんが何か吹き込んだな?

 なら仕方がない――どうぞ、なんなりと!


 対面にある長椅子へちょこんと座って、身構える。

 双子、茂呂島さんは後でハラハラ。

 小岩井さんは少し悩んだ末に、死人が悪戯をするときみたいな目付きでボソリと呟いた。


「なあ……あの世を見たことあるかい?」

「死んだことがあるかという意味なら、ない――いえ、あります! 一度だけですけど、とびっきりのを!!」


 嘘じゃない。

 僕はイーフレイムの奴に一度殺されたも同然なので。

 それを教えればいいんです!?

 だったら《イースの大いなる種族》からですから、覚悟してください!


 息込んでテーブルにズイズイと身を乗り出すと、小岩井さんに思いっきり困惑された。

 気を取り直すように咳払いまでされる。はて?


「し、質問を変える。――向こうから帰ってきた奴に知り合いはいるかい?」

「向こうから――ああ、()()()()ってことですね。ええ、それはもう!」

「こ、こっち……?」


 こくこくこく。

 あと、返事しかけたモーサンをニュートと共同して押さえる。

 そもそも君は帰ってきてない!


 そして次の質問を待った。

 待って、待つ。――間が長いな、そういう心理戦?

 ジリジリと待つうち、思い至った。

 死んだ、帰ってきた――そうか、つまり千代松の正体を知ってるのかも!?


「鈴木千代松が上海で殺され、生き返ったこと……知ってましたか!」

「……」


 あれ、小岩井さんが「は?」という顔をし――そして「なんだと!?」って感じに目を見開いた。

 どうやら千代松の件は知らないらしいけど、何か別の神話は知ってるっぽいな?

 だったら、ちゃんと説明すれば分かってもらえるかも知れない。

 あったことだけを控えめに伝えれば……


 ええと、実は――千代松を生き返らせたとおぼしき奴らに仲間が捕まってまして。僕の持つ神話ファンタズマリコールで追いはしたんですが、奴らは魚人(イプティック)の手を借りて海へ逃げくさりまして。困ってたら、茂呂島さんから小岩井さんを頼るべきと強く押されて――


 控えめにまくし立てようとしたら、小岩井さんが顔を歪ませたので思い止まる。

 不利なダイスロールを振らされそうになって、慌てて行動キャンセル(待った)掛けたTRPGプレイヤーみたいな顔だな。


「小岩井さん、千代松について知ってるんですよね?」

「――煙草いいか?」

「う……ど、どうぞ」


 嫌だけど、小岩井さんの家だしー

 青い箱から紙巻き煙草を取り出すと――僕と交互にみる。

 火はつけないけど、どしたん?

 改めて小岩井さんを見た。


 茂呂島さん曰く、小岩井さんは十代の頃から日本陸軍のスパイ的な仕事をやっていたそうだ。

 そんな仕事に未成年を雇う例があったかというと――百年前なら、あった。

 小岩井さんは混迷の時代で頭角を現し、大戦勃発後は日本海外派兵軍にも合流し――そこで、何かを失ったらしい。

 どんな極限でも失わなかった、大切な《何か》を。


 茂呂島さんがスッと動いた。

 どうも小岩井さんに立ち直って欲しいと願っているフシが見受けられるな。

 僕を紹介したのも、その関係かも……ううん?

 茂呂島さんが切り込む。


「岩さん、あなたは欧州大戦で何を見ましたか?」

「何って……戦争だよ」

「大戦終結後は米国に渡り、あちこちで話を聞いておられた。求める答えは見つかりましたでしょうか」

「モロ……大きなお世話だぞ」

「――茂呂島が役に立たないのは百も承知!」


 茂呂島さんが勢いよく頭を下げる。

 最敬礼よりずっと深い。


「ですが、どうかこの茂呂島に免じて瑛音様に何があったかをお聞かせ下さい。――このお方ならば、必ずや光明を与えてくれる筈です!」

「……」


 え? えーと……僕?

 大層なご紹介いただいて恐縮ですが、僕は単なる初心者タイムトラベラーでしかない訳でして。

 人生経験的な問題には、あんまり役には立たないと……

 小岩井さんは僕をジーッと見つめていたけど、やがてポツ、ポツと独白を始めた。

 ぐぐ、回想か。

 急ぎたいんだけど、聞かないわけにはいかなさそう――


「大戦か……ありゃ酷かった。西部に回されたが、地獄と名高い日露すら霞んだ」

「――ニュート、そうなの?」


 こそこそ。


『二次と比べると規模は半分ぐらいだが、それでも四年ほどの戦争では戦死者、負傷者は三千万人を軽く越えている』

「そんな……」


 そんな――に死んでも滅ばなかったんだ、人類!?

 ちょっと凄くないかな!!

 何気に四年ぽっちで死者、怪我人が三千万人っていうのも凄いかも。

 旧支配者の被害より大きそう。

 もう連中にデカい顔はさせられないな――とは思うけど、顔には出さないですよ。ええ?


『……』


 ニュートが肩から、こっちをジーッ。

 すいません調子のりました!

 旧支配者にはジーランディア大陸を沈めたのもいるし、人間なんてまだまだですよねー

 シリアスに顔をキリッとさせつつ、小岩井さんから続きを拝聴する。


 事の起こりは大正五年――その年、第一次世界大戦が勃発した。

 僕のいた日本では海軍のみで陸軍は派兵しなかったけど、こっちの日本では諸々あって派兵したそう。

 小岩井さんのいた多国籍部隊も激戦に次ぐ激戦の末、ついに部隊は崩壊。

 かろうじて生き残った十人ほどが謎施設の跡地へ逃げ込んだら……


 そこに『出た』と。

 はいはい。よくある、よくある!


 で、メンバーで一番階級の高い人が調査を宣言してしまい、皆は逃げる訳にもいかなくなったと。

 うんうん、定番ですね!

 ニコニコしかけたら、ニュートのツッコミ猫パンチが後頭部にビターン。

 おほん。きりっ。


 あ、続けて続けて――おお、地下施設に閉じ込められていた美女を救ったと!?

 そこに独軍の再進撃!

 先行してきた突撃部隊との大乱戦が始まったんですかー

 仲の悪かった十人は民間人を前に一致団結したと。

 そして、ほうほう……意地を張り合いながらも共に戦ってるうち、不器用な友情が芽生えたり?

 え、美女を巡って仏と英で恋の鞘当ても!?

 で、で、どうなりました――なーんだ、堅物優等生のイギリス人やるじゃないですかー

 イケメンのフランス人もそこで引くとか、王道ですね!

 でも奮戦むなしく病院跡は敵軍によって占領。

 捕まった味方を救うため、逃げ延びた小岩井さん含む三人が決死の再潜入を行い……ついに施設の秘密が暴かれたと。


 それがなんと、味方による人体実験!

 しかも美女がその人体実験最後の献体で……え、死んだと思ってた仲間の一人が実は生きてて!?

 実は敵軍のスパイ! おー、そう来ましたかっ。



「あの……それでどうなりました!?」

『だからな、神話事件を面白おかしく聞くなと……ええい、これだから神話使いは!』


 諦めたニュートが僕の頭上に移り、そこで苦々しい顔している。

 だってー

 僕の事件より起承転結ハッキリしてるし、ドンデン返しもあって面白そうだもん。


 小岩井さんは一通り話をしたら気が晴れたらしい。他人に話すと楽になるっていいますしねー

 最後に小さく笑った。

 胸のつかえが下りたような顔をしていた。


「この話を聞いてそんな顔をしたのは、君が初めてだ。――そうだな、本当はそんな顔で楽しく聞いてもらうのがいいんだろうな」

「結局、最後に何を見たんですか?」

「俺が見たモノは……死なない人間さ。バラバラになっても動き回る怪物たち。何人分だかは分からん」


 小岩井さんはニヤっと笑いつつ、手でオバケのポーズを取った。

 そうやって冗談めかし、僕の笑いを誘おうとする――




「……」


 さて――どの旧支配者だ?

 オバケのポーズでこちらのリアクションを待ってる小岩井さんにはちょっと待って貰いつつ、考える――


 不死のバケモノだと英国のドゲトゲを思い出すけど、パーツごとに動いたりはしないし……ん?

 あれ待てよ。

 確か、前に第一次世界大戦絡みの事件があったような――


 あっ、横浜であった第三の男さん事件か!!

 そうだアレだ。

 そーかー、小岩井さんも初めての神話事件が()()()()だなんて、運がいいじゃないですかー


 ――とか考えていたら、オバケポーズを解除した小岩井さんがテーブルをバンと叩いた。

 顔を伏せてワナワナと激しく震えている。


「これを話した奴らは全員、オレが幻覚を見たと言った。――だが、アレは絶対に現実だった」

「え? 別に嘘だなんて思ってませんよ。()()()――」

「なのに、なのに……なんで、お前はオレの話を信じた!」


 あ、そっち?

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