ルウン少年
大変遅れてしまい申し訳ありません
年内には終わるように努力します
デックスの思わぬ提案にエリスは驚く。
率直に尋ねる。
「何故関係者でもない私にそのようなことを?」
リングトムも同じ気持ちだったようでエリスの言葉に無言で強く肯く。
デックスは事も無げに言う。
「いえ、貴女の先程の言葉に大変強く興味を惹かれたので」
エリスは疑わしげな気持ちでデックスの顔を眺めた。
デックスの顔には相変わらず薄っぺらい笑顔が仮面のように張り付いているだけである。本心が読めない。
リングトムはエリスとデックスの顔を落ち着きなく交互に見ている。
「ラノウ様、そのお誘いお受けしますわ」
デックスの提案を了承したのち、自室に戻ったエリスはメリカにこの事を話した。
元々被害者と面識があったかもしれないのはメリカである。
エリスの言葉にメリカは飛びついた。
「ええ、もちろん、私もその領主に会うわ」
問題もあった。
ジュードである。
酷い風邪をひいている彼はベッド上の住人のままである。メリカの話ではレストルームに行くのがやっとの状態である。聖士隊や領主と会うため身支度を調えるのも億劫であろう。
だが彼は果たして婚約者と従妹が(自分を除け者にして)殺人
事件の関係者と会うのを良しとするだろうか?
エリスを僅かな時間悩ませたこの問題を解決してくれたのもデックスであった。
デックスはエリスとメリカが昼食を取っているときにわざわざジュードの部屋に行き、事情を話した。
エリスらはこのことをカーラから聞き、驚愕した。
実はエリスとメリカは昼食を食べながら、どうやってジュードを説得為べきか作戦を練っていたのである。
作戦の草案は見事に出来上がり、それをこれから遂行しようとしていた。
だがジュードはすっかりデックスを信頼しており、二人が領主との対面の場に行くことを許した。
カーラから話を聞いたエリスが慌てて、ジュードに会いに行く。風邪で顔色が悪いヒュードではあったが、穏やかな表情で答えた。
「ラノウ卿からお話は聞いたよ」
そして続ける。本来は部外者の立場なので大人しくしているように、聞いた話を後で自分にも教えること等。
エリスは呆れたように呟く。
「ラノウ卿を信頼されているようね」
「ああ、君を裏切ったナーター拍の子息は嫌いだが、ラノウ卿は本当にいい人だ。彼こそ紳士のを中の紳士だよ」
ジュードは笑顔でそう言った。
メリカの方も自分付きの小間使いから話を聞いていた。
せっかく練った作戦を行動に移せないのを残念がってはいたが、彼女もデックスに対し好印象を抱いたようである。
このことに対してのエリスの内心を知るカーラは、エリス好みの渋みのある茶を用意したのであった。
領主との対面は昼四刻(約午後三時)である。
場所はホテルの特等室である。このためにわざわざ借りたらしい。
特等室は全部で5つの部屋からなっており、そこの応接間で会うことになっている。
応接間にはデックス、リングトム、ホテルの支配人が待っていた。
特等室の応接間はかなり広く造られており、家具も高級木材を使ったテーブルにソファ、キャビネット、本棚などが置かれている。
本来は部外者であるエリスとメリカは応接間の隣にある使用人の待機室にいた。二つの部屋には小窓があり、それを僅かに開けている。立ち位置さえ気をつければ待機室から応接間の人物が確認出来ても、応接間にいる人物から姿は見えない。
ドアマンが扉をノックし、来客を告げた。
ドアマンが扉を開く。
一人の少年が立っていた。
皆、彼が領主だと思った。
少年は応接間に入ると挨拶した。
「テンサラ地方領主、ミッシメル・フラカ様の元で働いているルウンと申します」
ルウンは淡い赤毛が巻き毛となっており、見栄えの良い利発そうな少年であった。
また領主が聖士隊への遣いに行かせるのに気を遣ったのだろう、上質な衣装を着せていた。
この少年を領主と思うのは仕方ない。
デックスは彼にこの大雪の中足労をかけたことを詫び、ソファにかけるように勧めた。
ルウンは素直に従う。
支配人が熱い茶を出す。
ルウンはまず領主がこの場に来られないことを謝り、事情を話した。
テンサラの現在の領主であるミッシメルはこのような大雪の中は外出がままならぬ躰であるという。そのためどうしても用事で外出が必要な場合はルウンが代理で参上するという。
ルウンはミッシメルからそのような内容を書いた委任状をデックスらに渡す。
委任状の紙にはフラカ家の紋章が入っており、またミッシメル本人のサインもあった。
「貴方がフラカ氏の正式な代理人であることは分かりました」
デックスは続けて言う。
今回このホテルの近くに身元不明の若い女性の全裸遺体が発見されたこと。
十五年前にも領主夫人の遺体が似たような状況で発見されているため、何か犯人を捜す手がかりはないか聞き取りをしたいということ。
「領主夫人と身元不明の女に接点ですか?」
ここではじめてルウンは表情を曇らせた。
彼からしたら領主夫人と何処の誰かも分からない余所者を同じように扱うのに抵抗があるようである。
リングトムが説得する。
「テンサラでは誰も知らないかもしれないが、彼女にも故郷があり、そこでは彼女を知っている者もいるだろう。今回は大変悲しい知らせを故郷の者たちに届けるかもしれない。だからせめてこのような事になったのか真実だけでも明かさなければならない。そのためにも協力を願いたい」
エリスは感心した。
リングトムが仕事をするのを見るのは初めてである。
いつもは寡黙で冷静な態度のリングトムの思いがけない面を知る。
だが聖士隊ではリングトムはまだまだ青すぎることだろう。
エリスはカンバヤシの目線でリングトムを評価した。
リングトムの熱弁は幸いにルウンに効いたようだ。
ルウンは自分の年齢が17歳であること、当時は勿論フラカ家には仕えていない、自分が話せる内容はミッシメル本人や周囲の年長の使用人たちに聞いたことでしかないと前置きをした上で領主夫人の事件について話し始めた。




