被害者の共通点
メリカの言葉にエリスは驚く。
「この女性を知っているの?」
思わず大声を出してしまい、食堂中の視線を集めてしまう。
メリカがエリスに対して品の無い行動を窘めるよう、注意した。
エリスも気恥ずかしさから顔を下に向けた。
結局、二人は何も喋らないまま、無言で朝食を取る羽目になってしまった。
二人の無言は食堂を出てからも続いた。だがメリカの手にはしっかりと今朝の新聞がさりげなく握られていた。
二人は無言のまま、メリカの宿泊室まで歩いていった。
メリカの宿泊室では既に自身の食事を済ませていたメリカ付きの小間使いがいた。エリスの宿泊室でもカーラが待機していることだろう。
扉が閉まるやいなや二人の少女は口を開く。
「もう、エリスったら恥ずかしかったじゃない」
「女性とは何処で会ったことがあるの?」
各々が各々の言いたい事聞きたい事を口にする。
エリスはもう一度メリカに食堂でのことを謝り、それからやっと聞きたい事をきいた。
だがエリスの期待に反し、メリカの話はひどく曖昧なものであった。
頤を右の親指で支える格好でメリカは宙を見ながら応える。
「それがね、思い出せないのよ」
「へっ?」
メリカは医者の娘で(ドロテアに於いては)中産階級である。また本人は美術学校の講師助手をしており、外に出る機会は多く、また出会う人も大勢である。
その上、ボンブル商会の一族の婚約者でもあり、出会いは身分問わず幅広い。
メリカの膨大な出会いからあやふやな情報を取り出さなければならない。
エリスの尋問が始まる。
「綺麗な人だから美術学校でモデルをしたことがあるかもしれないわね」
だがメリカは「それは無いわ」と直ぐに否定する。
メリカによると確かに美術学校では多くのモデルをよぶが、講師助手としてモデルらとよく話す機会があり、モデルのひとり一人は確実に認識していると。名前に年齢、住んでいる町、髪や瞳の色まで覚えているという。
エリスは疑いの眼差しで「それは本当なの?」と念を押すがメリカは自信を持って「絶対よ」と断言した。
本人がそこまで言うという事でエリスは一旦追求を止める。それでもエリスは内心まだ疑惑を持ち続けたが。
次に「それならボンブル商会関連で知り合ったのかしら?」と尋ねる。
メリカはこの問いに関しては先程と打って変わって、即答はせず難しい顔をして唸る。
ボンブル商会は国内外で広い商売をしている。メリカが直接ボンブル商会の取引に携わることは無いが、茶会や夜会などで出会う機会もある。
メリカははっきりとは返事はしない。
だがボンブル商会関連で会ったのならばジュードも見たかもしれない。
ジュードの風邪が良くなり次第、新聞に描いてある人相書きを見せてみようと、エリスは考えた。
また質問する。
「お父様の仕事関係で知り合ったというのは?」
この問いに関してもメリカは頭を抱え、唸る。
メリカの父の診療所に来た者や、過去にいた看護人の可能性もある。
「見間違いということは?」
この問いにはメリカは最初の質問と同じくはっきりと否定した。
「私ってば美人に弱いのよ ジュードにも『僕のどの男友達より君は街の美人に詳しい』と飽きられたくらい こんな見事な美人を見間違うはずかないわ それに私が人の顔を憶えるのが得意なことはエリスも知っているでしょう」
確かにメリカは人の顔、特徴を記憶する能力が高い。それは幼い頃からで、よく家族や親戚、使用人のそっくりな似顔絵をスケッチしてはエリスやジュードに見せてくれたものである。
またメリカの専門は人物画で、画帳にはモデル以外にも評判な女優などが描かれている。
一通り聞き終え、今度はエリスが唸った。
(被害者は一体何処から来たのだろう)
最初の領主夫人以外は全員身元が不明のままである。
エリスは自分の宿泊室へと戻って来た。
カーラにメリカの発言について話す。
「大層な美人ということですが、他の被害者も皆そうなんでしょうか?」
カーラの何気ない疑問にエリスは思わず膝を打った。
(確かに 『真冬の雪嵐の中』『女性の全裸死体』という共通点であるんだもの 他にもあるかもしれない 容貌かもしれないし、年齢かもしれないし、髪や瞳の色かもしれない)
新聞にはつい先日の被害者の人相書きしか載せられておらず、他の三名についてはエリスは全く情報が皆無である。
エリスはカーラと共にホテルの読書室へと足を運ぶ。
読書室にある過去の新聞から他の被害者の情報を探ろうとしたのである。
だが残念なことに読書室に置いてある新聞はせいぜい一年前のものまでであった。
エリスは読書室の管理人に近くに図書館が無いか尋ねたが、それも無いという。
エリスとカーラは互いに顔を見合わせた。
(せっかくカーラがヒントをくれたのに)
肩を落としたエリスの背後から会いたくない人物の声がした。
「なんでここにいるんだ」
エリスとカーラがしぶしぶ振り返る。
手に数冊の本を持ったリングトムがそこには立っていた。




