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黒髪のエリス  作者: 振斗
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過去に起きた事件

 デックスの言ったとおり、夕食時には以前にも若い女性の全裸死体が発見されたことがあったという情報がホテル中駆け巡っていた。

 しかも1件のみならず、3件(今回の事件を含めて4件になる)


 エリスらは噂に聞き耳を立てた。そして得た情報のうち、極めて信憑性の高いと思われる内容は以下のとおりである。


 最初に事件が起きたのは十五年前にまで遡る。

 発見された場所はこの地方を治める領主の館からやや離れた場所であった。

 また亡くなったのも領主の夫人であった。

 そのため捜索は大々的に行われた。

 領主の館とホテルの距離はおよそ馬車で一間(約一時間) ただし、それは春~初秋の整備された路を使っての場合である。領主の館はどの家よりも最も山脈の麓に建っている。雪がつもれば倍以上の時間がかかる。 

 さらにこのときはいつもより大雪だったため路は使えなくなっていた。天候ならびに周辺の環境からしてホテルの内の者が関与するのはほぼ不可能と公安局から判断された。(それでもホテルオーナーなどは事情聴取を受けたらしいが)

 領主夫人の遺体を発見したのは館で働いていた女性使用人だった。夫人に目立った外傷はなかったという。


 第二の事件は七年前。

 死体発見場所は領主の館やホテルより駅に近かったという。

 季節はやはり真冬で、大雪であったという。

 遺体は若い女性であったが、全裸であったこと、ホテルや周辺の村に聞き取りを行ったが誰も被害者を知る者は無く、現在も身元不明のままである。

 発見者は駅員であった。


 第三の事件は四年前。

 同じく季節は真冬。

 ホテルから離れた大湖でホテルに宿泊した数人のグループが発見。数日間の雪嵐の後、天気の良い日があり、スケートをしようと来たとのこと。

 やはり若い女性の全裸死体で身元不明であった。


 夕食後、皆ジュードの部屋に集まっていた。

 各々が聞いた噂をメモに書き付け、整理した。

 エリスらは改めてメモの内容を見て、唸り、難しい顔をした。

 

 共通点が多くありながら、犯人判明に関わる共通点が無いのである。

 まず事件は必ず真冬の大雪が振る時期に起こっている。

 そして遺体は皆、女性で全裸である。

 しかし、身元が分かっているのは最初の事件の被害者だけであり、それ以降は名前、正確な年齢さえ不明である。

 場所も発見者もばらばら。犯行範囲がテンサラ山脈の麓という狭い範囲には限られているが。

 極寒の雪の中に女性の全裸死体を放置することに固執する犯人の異常性が見える事件である。

 「領主夫人は傷はなかったそうだけと、他の被害者はどうだったのかしら?」

 メリカの呟きにエリスとジュードは更に唸った。

 これについては「酷く鞭に打たれた跡があったらしい」「背中に太古の昔に奴隷に使われた焼きごて印があった」「いや、焼きごて印は胸に押されていた」等いろいろと話があった。勿論、中には「領主夫人と同じく目立った外傷はなかった」という話もある。

 興味本位で公安局員に尋ねるということを3人はしたくなかったので、どうしても噂に基づいたあやふやな情報のみになってしまう。

 (聖士隊なんて肩書きがあるデックスやリングトムなんかは詳細を知っているんだろうけど)

 ジュードは窓に目を向けた。

 「明日天気が回復して列車に乗れれば良いんだか」

 だが願いも虚しく、窓には雪礫を当てるかのような猛吹雪が見えた。

 列車に乗れるかどうかを駅で確認しに行き、外套が雪まみれになったジュードは大きなくしゃみをした。

 慌ててカーラが火掻き棒を使い、暖炉の火を強くする。

 薪がバチと大きな音を立てた。



 朝になってもやはり天候は回復しなかった。

 更に悪いことにジュードが風邪を引いてしまったのである。

 今朝目覚めると喉が腫れて、声がでないという。

 ホテル医が呼ばれて、早速喉に湿布が貼られ、甘苦い奇妙な味のシロップを医療用舌下スプーンで喉の奥まで塗られたという。

 自分の父も医者であるメリカ曰く風邪の引き始めにはこの羊星草(ようせいそう)ニンジンのシロップが大変効果的であるという。

 だがそう話した後、エリスとメリカは顔を見合わせて、互いに舌を出し「ゲエー」という顔を作って見せた。

 ドロテアでは身分問わず昔から使われているシロップではあるが、やはり味や舌の奥に塗布するという使用方法のため、皆が嫌な薬である。

 エリスとメリカは互いの顔を見て笑った。

 朝食をとるため食堂に向かう。

 食後の茶を飲みながら、エリスは給仕に手間賃を払い、新聞を持ってくるよう頼んだ。

 事件について詳しい情報を知るためである。

 運ばれてきた新聞をエリスとメリカは早速広げた。

 新聞には今回の事件の被害者の似顔絵があった。画家が生前はこうでなかったかと描いた絵である。

 似顔絵を見る限り被害者はエリスとそう歳の変わらない、まだ少女とよんでもよい年齢に見えた。

 なかなかの美少女である。

 似顔絵を見ていると、メリカが呟く。

 「あれ? この女の子どこかで見たことがある」

 

 

 


 


 

 

 

 


 

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