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第十九話「戦闘」

 俺はここで別に正義の味方を気取るつもりじゃない。そもそもアーメイルで起きた揉め事の詳細なんて、全くわかってないんだからな。どちらに義があるとか、そんなことすら今は判断できる状態にない。

 だからこの件は別の物差しで考えることにする。それはつまるところ、どちらに付いた方が俺に利があるかという観点だ。

 ジェデク達は、例え俺の手助けが無くてもリデアを捕らえるだろう。だからここで俺がジェデク側に加勢しても何の意味もない。それどころか、むしろ逆に俺達も危険に晒されることになるかもしれない。どいつもこいつも手慣れた暗殺者のような目をしているからな。リデアを捉えた後ついでに俺達をPKしにきてもおかしくない。まあ彼らがおそらく持っているであろう索敵スキルでは俺のインビジとサイレントウォークを捉えられていないので、異常な手練はいないようだが。

 やはり、協力するならやっぱりリデア側か。うん、ここで彼女達に恩を売っておくのは俺達にとっても好都合だろう。もしかするとアーメイル周辺のマップデータを譲って貰えるかもしれないし、身なりからして金も持ってそうだからな。アーメイル周辺で流通している金貨なんかを譲ってもらえればしばらくの路銀が手に入る。それにジェデク側の暗殺者十人分の衣服も剥ぎ取ることができれば、町や村で売れば結構な金になるだろう。なかなか悪くない選択のように思えてきたぞ。


 それに、だ。

 これは久々の対人戦だ。敵は多ければ多いほど燃える。最初は緊張感のあった凶暴なモンスター達の戦いも悪くなかったが、三日もすればやはり単調さが見え始め、三ヶ月経つ頃には飽きたもいい所だったのだ。その単調さに飽き飽きしてソルディアを出たわけではないが、そういう理由もなかったわけじゃない。

 思い切り戦えるのは、どちらかと言えば多人数のジェデク達とだ。その思いがある決め手になった。


 

 既に目の前でリデアが放っているAoEスキルの感覚は鈍ってきていた。MPの節約のためだろう。とすれば、俺も一度円の中に飛び込んでから奇襲するべきかな。九人を各個撃破していては、逃げられる可能性がある。彼らは割と軽装で素早いだろうが、ヘイストを使えば追いつけはする。だがもし奴らにインビジブルを使われたら、索敵スキルの無い俺とリーンでは捉える事が出来なくなるだろう。よし、やはり飛び込みの奇襲策だ。


 リデアがスキルを放つまでの隙にヘイストをかけた俺は駆け足で彼女達の懐に飛び込み、キャッチャーネットコンボをリデア達の正面と左右を囲んでいるジェデクを含めた5人に使う。


「うわっ、なんだ!?」

「なんだこれ、動けない!!」

「な、なんだ。こいつ、どこから現れたんだ!!!」


 いきなり正面に現れたネットに絡まる四人。一人はネット避けたようだ。ジェデクだ。畜生、なんて反射神経してやがんだ。まあいい。俺はリーンを召喚して、彼女にヘイスト、グロウアップをかける。


「リーン、お前はジェデクとかいう奴らのリーダーを狙え!」

「わかったの!バトルクライ!!」

「よくわからん奇天烈な真似をしやがって、許さんぞリデア!!」

「いや、私は・・・」


 腰の剣を抜き獣の咆哮のような声をあげて、突進していくリーン。ジェデクは彼女に任せて大丈夫だろう。

 俺は向き直り、何が起こっているのかわかっていないリデアとその部下に声を掛ける。


「ネットで絡まった四人は放っておいて平気だ。お前たちは左後ろの2人を頼む。俺は右後ろの連中を片づける」

「わ、わかった。・・・いくぞロゼル、アシート」


 動揺しながらも状況に適応しようと頑張るリデアは、返事をした部下の二人と左後ろの二人と交戦を始める。女騎士って、ゲームとかのイメージ的にこんな時にでも「貴様は誰だ!名を名乗れ!」とか、形式とかそういうのをあーだこーだ言って来るめんどくさい奴ばかりの印象があって嫌いだったのだが、彼女はどうやらそうじゃないらしいな。ちょっと好印象だ。

 さて、俺も右後ろの連中に狙いを定める。そしてレイドスラッシュとバッシュ三枚のカードをブレイドに読み込ませ、パワーコンボを使う。これはコンボに使ったカードの攻撃力を増大させる効果のあるコンボだ。そして俺はレイドスラッシュの発動で、一瞬で敵の真後ろに瞬間移動し、腰から剣を抜くと同時に思い切り斬りつける。そのあとすぐにもう一人に向かってバッシュの三連撃を叩きこむ。彼らは瞬間移動に怯んだのか、さっきからいきなり現れた俺に仰天していたのか、何の抵抗もしてこなかった。つまらん。

 奴らの服は汚さずに済ませたかったが、難しかったか。結局血で汚してしまった。

 

 向き直ってリーンの様子を見る。やはりジェデク一人では彼女の相手には不相応だったらしい。既に奴の首は平原に転がっていた。

 リーンはキャッチャーネットに引っ掛かった連中を眺めている。俺が近付いて行くと声を掛けてきた。


「この人達、どうするの。」

「彼女達に聞こう。単純に殺してしまうより、価値のある材料かもしれないからな。」

「わかったの。」


 そう言って二人でリデア達を見る。やはり三対十というシチュエーションがキツかっただけなのだろう。彼女達も二人の相手を既に終えていた。

 戦いは終わった。

 互いに剣を鞘に納めると、兜を外したリデアが近寄ってくる。兜を外したリデアの肌は驚くように白く、清らかだ。髪も綺麗なブロンドの長髪で、美しい。そこに傷一つない銀の鎧を着た姿には神聖さというか、神々しさにも似たような印象を受ける。ああそうだ、俺が高校生の頃に世界史を勉強しながらジャンヌダルクに思いを馳せていた時期があったんだが、まさに彼女はその時俺が頭の中で描いていたジャンヌダルク像と一致してる感じなんだ。うーんまさかかつて思い描いた妄想上の存在のような女とゲームで出会えるなんて!ログアウト不可能な糞ゲーVRMMOも捨てたもんじゃないな!

 なんて勝手に浮かれていると、俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女が声を掛けてくる。ああ、なんか声まで清らかな感じがしてきた。


「まずは礼を言わせてもらおう。私はアーメイル国防騎士団、第一部隊隊長のリデアだ。」

「おれはらんまる、こっちはリーンだ。しかしアーメイル国防騎士団・・・だと?確かあっちで首が転がっているジェデクとかいう男はアンタをアーメイルの反逆者、とか呼んでいなかったか」

「それは・・・」

「お前、ずっとアタシ達の話を聞いていたのか!」


 彼女の部下の男が女みたいな声で怒鳴ってきた。まあ幼い顔してるから少年でも通じそうだけど。・・・ああ、こいつがネナベって言われてた奴だな。

 前にも言ったかもしれないが、このゲームの声は自分の元々の声と同じなのだ。だからおっさんが美少女キャラを使ってるなんて時は・・・要注意だ。


「やめないかロゼル。・・・聞いていたならそれはそれで話が早い。私達は訳あって現在逃亡中の身なのだ。」

「なぜだ」

「それをあなたに言う理由はどこにも無いだろう。」

「なーに言ってんだよ。お前ら、俺とリーンがいなければ今頃死んでいただろ」

「助けてくれたことには感謝している。だが、無関係のあなたには言えないんだ」


 うーん、やっぱり女騎士って奴は頭が硬いね。綺麗で素敵だケド、俺ってこういう頑固な子って苦手なんだよな。

 まあでも、そっちが答えてくれないならこっちから質問していくしか無いな。それもちょっと煽り気味に。そうすりゃ口を滑らせてくれるかもしれないし。


「そういや確かジェデクはアンタに女王の居場所を聞いていたな。アンタ達はもしかすると女王を何らかの理由で誘拐しているんじゃないか?」

「なぜ私達がサクラ様を誘拐しなければならないんだ!私達はッ・・・!」

「なんだよ、言いかけたなら話せよ」

「くっ・・・」


 黙ってしまった。うーん、警戒されるのもわかるんだけどさ。そこまで言われるとやっぱり知りたくなっちゃうよな。

 すると、黙っていたもう一人の赤毛の女が喋り始めた。ブスとか言われてたけど、結構かわいいじゃん。まあなんかすげえ気が強そうだけど。


「リデア、どの道私達だけではどうしようもないわ。危険だけど、彼の力も借りることを考えなければ、サクラ様をお守りすることもできないかもしれない。判断をするのは隊長であるあなただけど、私は彼に全てを話して協力を要請した方がいいと思う。」

「アシート・・・。わかった。だがその前にらんまる、あなたに関していくつか聞いておきたい。まず、さっきの力は何なんだ?アーメイルでは見かけたことが無い。それに、リーンについても知りたい。彼女は見た目はエルフのようだが、この周辺にエルフの集落は無いはずだ。」

「なんだ、そんなことか」


 俺はいつもの通り、素直に答える。俺のクラスがカード使いであること、そしてリーンがゴブリン族でユニークモンスターであることを。まあ細かい説明は省略したが、納得はしてもらえたようだ。しかしこれからも何度この質問に答えなければならないのかと思うとゾッとする。


「なるほどな。そのようなユニーククラスがあったのか。私も同じユニーククラスであるディバインナイトなんだが、ユニーククラス自体の数が多かったのでわからなかったんだ、すまない。」

「まあ、納得してもらえたならいいよ」

「ああ、リーンのことも了解した。随分大変な身の上のようだな」

「そうなの。でもモンスター扱いはやめて欲しいの」

「わかったよ、リーン」

「よろしくなの、リデア」


「で、話をする気になったか」

「ああ、では話そう。」


 彼女はこほん、と咳払いをしてから言った。


「私達は今、アーメイル大臣リーボアによる女王暗殺計画を阻止するために動いているんだ。」

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