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第十四話「決行」

 PK。プレイヤーキルの略で、その意味は他人のキャラを殺すこと。

 今までもにも色々なゲームをプレイしてきたが、この行為を嫌う人は多かった。その主な理由としてはやられた時のことを考えると、屈辱的で不愉快だし、かといって逆に自分がPKをしても、得られるメリット自体も皆無だからだろう。PKをすることで相手のアイテムが手に入ることもない。PKをしたところで一時期的な優越感しか生まれない。そうしたゲームの中で行われるPKは、一部の人達にしか好まれない。だから、そのような要素は次第に多くの人間が忌むべきものになっていく。ゲームの運営側もそうした雰囲気を次第に感じ取り、不満の声に対応するようになる。PKは次第に、多くのゲームからその姿を消していった。

 しかしFOの前作「Frontier -welcome to the new world-」は、そのPKを復活させた。その反響は大きく、ネット中がまるで復活祭のような盛り上がりだった。というのも「Frontier -welcome to the new world-」では、PKをあらゆる場所で常に行うことができ、そして相手のキャラクターを殺せば、相手の所持品、所持金の全てが手に入った。そうすることでPKに実利的な意味を持たせた。

 自由度を求めたゆえに、こうしたPKの形として復活したわけだが、結果的にPKは「Frontier -welcome to the new world-」内で大きなブームになることになる。

 しかしそうした設定にすれば、次第に誰もが大金やレアアイテムを持ち歩かなくなる。いつPKerに殺されてしまってもいいようにと、警戒してしまうのだ。そうなると、PKerもメリットが減るため、PK人口も減り、以前のようにその魅力を失っていく。それは考えれば誰でも行きつく答えだ。しかしそうはならなかった。

 逆に一部の人々は常に大金を持ち歩き、レアアイテムで装備を固めたのだ。何のために?そう、カウンターPKのために。PKを仕掛けてくる愚か者を逆にPKし、そのアイテムを頂く。その一部始終が収録された動画がネットにあげられ、それがきっかけとなって新しい遊びが確立された。PKK(プレイヤーキラーキラー)の誕生だ。

 PKerを逆にPKする義賊的なギルド、つまりPKKerのためのギルドも多数設立された。PKされた人の情報をもとにPKerを探し出し、集団で討伐する。さながら賞金首を狙うバウンティーハンターのように。

 そうした遊びが流行り出すと、いよいよゲームはPKを中心にして動くようになった。一月前までは俺もプレイしていた「Frontier -welcome to the new world-」のトッププレイヤーの大半はPKerかPKKerだった。真面目にプレイしていても戦闘センスが無い奴はいつまでもレアアイテムを持ち続けることができないから、自然とそうなっていってしまったのだ。そうした状況に屈した人の多くが生産職を行うようになり、戦闘職と生産職の分化もすすんだ。生産職をPKしてもPKerは楽しくないし、不評を浴びるのでPKerは戦闘職の冒険者を狙い続けた。そうして強い奴を倒せば大金とレアアイテムに加えて人々からの称賛を手に入れられた。「Frontier -welcome to the new world-」とは、そういう世界だった。

  しかしその続編、FlontierOnlineにはまだPKKerもいなければ、ギルドもはおそらくないだろう。いるのは俺のようなPKerだけだ。




 今朝二日酔いだった門番が、俺の目の前で欠伸をしている。どうやら彼は今晩の飲み会は参加しないみたいだ。

 奴の真後ろで俺はそんな事を考える。手にはアイスアローが三枚。コンボの準備はできている。後は時間を待つだけだ。今は8時58分。二分後に、戦闘開始だ。

 まあ目の前の彼は戦闘という戦闘もしないまま、あの世行きだが。このゲームがデスゲームでないことを祈るばかりである。

 マシューはもう一人の門番の後ろに付いている。俺と一緒にインビジブルとサイレントウォークを使っているので見えないけど。


 ホールの中は既にドンチャン騒ぎのようだ。昼にジードとマシューが食材を、夕方にロッチが大量の酒を持ってきたからな。

 俺はロッチとはその時に挨拶した。酒屋というからおっさんキャラかと思ったら見た目は10代の少年のようだった。中身は30代だと笑っていたけど。一度、中学生の頃に戻って、浴びるほど酒を飲んでみたかったからこういうキャラメイクにしたとのこと。真面目一辺倒に生きてきた学生時代を後悔しているらしい。・・・まあ彼の思いはよくわからんが、うまい酒を作ってくれるし、好きにしたらいいんじゃないか。

 

 時間をもう一度確認する。既に10秒前になっていた。

9時になると同時にアイスアローコンボを発動させる。近距離で発動したアイスアローは喉と心臓、股間の三か所を貫く。えぐい。喉を貫いたので声も出さずに死んでくれた。ブレイドの展開する魔力のオーラで体が守られてると言っても、彼はそもそものMP量が少ないのでアイスアローはあっさり体を貫いたようだ。死体の処理は他の奴に任せて、ホール前に移動する。

 マシューは相手の喉を掻っ切って一撃で仕留めたようだ。・・・密偵とかいってたけど、アサシンか何かじゃねーのかこいつ。PKにも手慣れている感じだ。他のVRMMOではPKerとして活動していたのかもな。それにもしかすると、このゲームでもやがてはそうするつもりなのかもしれない。テイマーに密偵というクラスの選択というのはおそらく狩りにはそこまで適した組み合わせではない。しかし対人となるとまた話は変わってくるだろうしな。

 白い目で見ているとマシューもこっちに寄ってくる。


「よし、じゃあ戦闘要員が集まったら正面から突撃するぞ。」

「了解だ。さっき説明したようにまず俺がキャッチャーネットコンボで目についた5人を束縛するからな。」

「わかった」


 やがてリーン、ジード、セラ、ガラットがやってくる。

 メインクラスが戦士でサブクラスが木こりのガラットは日焼けした人の良さそうな兄ちゃんだ。狩りよりも木材の調達に専念してくれている彼は、村のみんなからの信頼も厚い。


「じゃあ、いくぞ」


 マシューがドアをけり破り、俺が飛び込む。

 中の男たちは泥酔していた。飛び込む俺を見てキョトンとしている。見張りが殺されたことにも気付いていない、とんだオマヌケ野郎達だ。

 どうやらホールの一階で騒いでたのは7人。その内の5人に向けて俺は


「キャッチャーネットコンボ!」

 

 ネットが彼らの体を束縛する。Lv5だが戦闘職とはいえ低レベルの奴らだ、拘束を解くにはしばらくかかるだろう。残りの二人にリーン達が向かう。


「遅いの!バッシュ!」


 リーンの一撃で、男が一人胴体の部分から真っ二つに裂ける。「ヒィッ」と隣の男が叫んだかと思うと


「ライトニングボルト!」

「ウォーターボム!」

「ダブルスラッシュ!」


 その男もセラ、ジード、ガラットの攻撃の直撃を受け、倒れる。

 さて、残る縛られた5人の男に向けて俺はファイアボールLv25を叩きこむ。いくつもの火球が物凄い速さで彼らにぶつかっていく。その波が収まると、床に5つの焼け焦げた肉塊が転がった。においが漂ってくる。不快だ。

 建物に火は付かなかったみたいだが、床も少し焦げている。直してもらわなきゃな。

 俺はそのままホールの階段を駆け上がる。一人、奥の部屋に逃げ込んだらしいな。そいつがおそらく村長だ。


 ドアの手前にたどり着くと、俺は思い切り蹴りドアをけ破って中に入る。

 村長ハイスは、パニックになっていた。そして、怯えていた。


「・・・お願いだ・・・殺さないでくれ」

「今までやりたい放題やってきたんだ、当然の結果じゃないか」

「俺は村の連中を傷つけてなんていない!」

「セラをレイプしようとしただろ」

「それは・・・そうだが・・・。でも、実際にしたわけじゃない!未遂だ!なのに殺すなんてあんまりだ!」

「言いたいことはそれだけか?」

「待ってくれよ!ホントに俺を殺す気なのか!このゲームはデスゲームかもしれないんだぞ!俺を殺したら、俺は本当に死んでしまうかもしれない!そうなればお前はPKerじゃない!殺人者だ!殺人者になるかもしれないんだ!いいか!これはPKじゃない!遊びじゃない!殺人なんだぞ!」

「・・・もしこのゲームがデスゲームだったら、もう6人殺したことになるな、俺は。今更一人増えようて何か変わると思うか?」

「正気じゃねえ・・・正気じゃねえよあんた・・・。なあ、お願いだよ・・・助けてくれよ・・・。俺は死にたくない!頼むよ!なんでもするから!なあ、助けてくれよ!!」



「いつまでお喋りしてんだよ」


 いつの間にか後ろにいたマシューが奴の懐に飛び込み、腹にナイフを突き刺す。それで終わりではない。連続で突きを続け肉を抉り続ける。グロいな。


「あ・・・・あ・・・・」

 

 声にならない声を吐いて、前のめりに倒れるハイス。床に血が、広がっていく。どうやら、死んだみたいだ。


「こいつらにこの世界で生きる資格なんてねえ。・・・まあ大丈夫さ、デスゲームなんてお話の世界にしか存在しない。大体どうやってPKしたら同時に人が死ぬんだ?この姿は俺達のそれぞれ創り出したキャラクターで俺たちじゃないんだ。・・・まあ死体が消えない辺り、リスポーンはして無いみたいだが、おそらく皆元の世界に帰ってるんじゃねーかな。」

「・・・まあ、そうだろうな」

 

 俺も頷く。デスゲームなど存在しない。そう、絶対に。

 俺は決して殺人がしたいわけじゃない。だが、PKをすることはこれからも必要になってくる。FOは「Frontier -welcome to the new world-」と同じでPKにメリットがある。またそれだけでなく、今回のようなこともある。ろくでもない連中相手に、PKをいちいち躊躇してたら、それこそ後々面倒なことになるからな。だから割りきらなければ、これから先もやってはいけないだろう。考えても答えが分かる問題ではないのだから。少なくとも俺がログアウトするまでは。


 俺は、誰も殺してはいない。

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