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いずれ空へと続く道  作者: 白銀スーニャ
第2章:東の死と不死と未来
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EX33

 アイギスは訓練場の端で、リュウガが何度も土を踏み直す姿を見ていた。

 サニーの訓練は派手ではない。少なくとも、見ているだけならそう見える。巨大な魔法が飛ぶわけでも、珍しい武器が並ぶわけでもない。踏み込み、崩され、止まり、やり直す。その繰り返しだった。

 だが、退屈ではなかった。

 リュウガの足が少しずつ変わっていく。最初は焦りが前へ出すぎていた。相手を倒すための踏み込みというより、何かに追いつくための踏み込みだった。サニーはそれを容赦なく潰す。潰されるたび、リュウガは顔をしかめ、それでもまた立つ。

 アイギスは、盾を出していない自分の手を見た。

 盾役であることに、不満はない。

 誰かの前に立つことは怖くない。攻撃を受け止めることも、痛みを引き受けることも、役割として理解している。西部領の城で魔法を封じられ、盾を失った時も、役目を手放す選択肢はなかった。家具でも、建材でも、そこにあるものを使えば守れる。母からの返信にも、そう書かれていた。

 だが、最近は別の問いが残るようになった。

 自分が危険に晒されるのは、厭わない。

 では、自分がこの手で守りたいものは、一体なんなのか。

 クロエは西部領を守りたかった。

 あの城で、魔法を封じられ、吸血鬼としての力を削られても、彼女は最後まで自分の領地を見捨てなかった。恐怖も屈辱もあったはずだ。それでも、ルシアンを止めてほしいと桐子へ託した声には、領主としての重さがあった。

 桐子は、選んで死地へ入っていく。

 本人は巻き込まれていると言う。確かに、異界へ飛ばされ、魔法を覚えさせられ、戦場に立たされた部分はある。けれど、最後の一歩はいつも自分で出している。ルシアンを殺した時も、クロエの声を受け、アイギスの背中を見て、自分で決めた。

 リュウガも同じだ。

 東部領を背負うために、兄の影を追い、焦り、自分の身体を壊しかけた。それは褒められることではない。サニーにも叱られた。だが、逃げようとしているわけではない。前へ出る理由を失わないために、間違った方向へ走っていただけだ。

 なぜ、三人とも自分から危険な場所へ向かうのか。

 アイギスには、まだ完全には分からない。

 守るべき誰かがいるからだろうか。

 帰るべき場所があるからだろうか。

 それとも、自分がそうしなければならないと決めたからだろうか。

 訓練場で、リュウガがまた崩された。今度は膝をつかない。足裏で踏み止まり、体勢を戻す。ほんの少しだけ、前より良い。

 サニーが何かを言う。

 距離があるため言葉までは聞こえない。リュウガは短く頷いた。

 その横顔に、焦りはまだ残っている。けれど、最初よりは目の位置が定まっていた。遠くの何かではなく、目の前の一歩を見ている。

 アイギスは胸の奥に、静かな引っかかりを覚えた。

 自分は、何を見ているのだろう。

 リュウガの焦りか。

 サニーの強さか。

 それとも、東部領へ向かう道の先か。

 西部領を見た。

 城下町、葡萄畑、港、歓楽街、森林エリア。事件現場としてではなく、人が暮らし、直そうとしている場所として見た。クロエが守りたかったものは、抽象的な領地ではなかった。そこには菓子の匂いがあり、海風があり、怒る領民がいて、帰ってきたローザへ泣き笑いで文句を言う人たちがいた。

 東部領にも、そういうものがあるのだろう。

 リュウガが背負いたいと言う場所。

 兄の代わりではなく、自分自身として立たなければならない場所。

 そこを見れば、アイギスにも分かるかもしれない。

 盾として守る、という言葉の中身が。

 誰かの前に立つだけではなく、自分が何を守りたいのか。

 訓練が一段落したのか、リュウガが膝に手を置いて息を整えている。サニーは容赦なく次の指示を出しているようだった。周囲で見ていた生徒たちは、少しずつ散り始めている。期待していたような派手な技は見られなかったからだろう。

 アイギスは動かなかった。

 リュウガが顔を上げ、こちらに気づいた。

 目が合う。

 彼は一瞬だけ気まずそうにし、それからすぐに表情を整えた。強がりの癖はまだ抜けていない。だが、その強がりが完全に嘘ではないことも、アイギスには分かる。

 アイギスは小さく頷いた。

 リュウガも頷き返す。

 それだけだった。

 それだけで十分だった。

 東部領へ同行しよう。

 アイギスは静かに決めた。

 リュウガを守るためだけではない。彼が背負おうとしているものを見るために。クロエが守ろうとした西部領を見て、自分の中に生まれた問いの続きを探すために。

 恋ではない。

 少なくとも、今のアイギスにはそういう名前をつける段階ではなかった。

 もっと手前にあるものだ。

 盾である自分が、何の前に立ちたいのか。

 その答えを探すため、アイギスは東へ向かう理由を得た。


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