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いずれ空へと続く道  作者: 白銀スーニャ
第1章:西の不死と死と過去
22/40

EX3

 魔王軍養成所入所試験運営報告書。

 提出者、第七班副隊長ナタリー・ヴァーミリオン。

 対象年度、王都養成所新規入所および所属クラス振り分け試験。

 総評。

 今年度の入所試験は、観客導線、受験者管理、結界設備、治療班配置、公認賭け札管理の各項目において、大きな事故なく終了した。軽傷者は例年比でやや多いが、致命傷および後遺症の残る損傷は確認されていない。結界設備は想定通り機能し、戦闘区画外への魔法被害も許容範囲内に収まった。

 なお、サニー・アージェント隊長の事前判断により、特別クラス候補者の配置および観察導線は極めて円滑に機能した。特に白銀桐子およびアイギス・アージェントの予選同組配置は、防衛適性と遊撃適性の相互作用を観察するうえで非常に有効であり、隊長の慧眼はまさに夜明けを切り裂く銀閃のごとく。

 削除候補。報告書に比喩は不要かもしれない。しかし事実である。

 項目一、観客対応。

 一般客の入場数は想定上限の九割程度。公認賭け札の売上は前年度比で良好。特にサニー隊長後見人扱いとなっている出自不明候補者、白銀桐子に関する倍率変動が大きく、会場の注目を集めた。噂の過熱は見られたが、警備班の誘導により直接的な接触は抑制できた。

 観客席におけるサニー隊長への視線も複数確認。これは当然である。隊長がそこに座っているだけで、会場の空気は一段引き締まる。観客の皆様にも、ただならぬ威容が伝わったものと思われる。

 削除候補。威容は主観か。いや客観である。

 項目二、受験者対応。

 アイギス・アージェントは集団戦闘において優れた防衛線構築能力を示した。浮遊盾の運用は発展途上ながら、味方の立て直し時間を作る判断が的確であり、通常クラスより少人数での重点育成が望ましい。

 白銀桐子は魔力運用および武具生成の安定性に課題を残す一方、異質な近接戦闘適性と未知環境への適応力を示した。アトラトルおよび予備短槍の使用は、魔法未熟を道具と身体操作で補う独自性として評価できる。今後はサニー隊長の直接指導により、極めて健全かつ苛烈かつ美しく成長する可能性が高い。

 削除候補。美しくは不要か。いや隊長の指導であれば不可避。

 クロエ・シュヴァリエは、吸血鬼としての身体能力、雷撃、霧化の実戦運用により、同年代の候補者内で高い戦闘能力を示した。西部領次代としての進路が事実上定まっていることもあり、通常クラスでの一律運用には適さない。

 リュウガ・シノノメは、多武器運用と乱戦対応において高評価。東部領次期領主候補としての立場を考慮しても、個別観察が望ましい。

 項目三、特別クラス編成案。

 今年度の特別クラス対象は、アイギス・アージェント、白銀桐子、クロエ・シュヴァリエ、リュウガ・シノノメの四名を推奨する。教官はサニー・アージェント隊長。

 理由。

 一、各自の卒業後進路または管理上の事情が通常クラスに適さない。

 二、互いの戦闘適性が重なりすぎず、少人数運用において相互補完が期待できる。

 三、隊長が見ている。

 四、隊長が見ている。

 五、隊長が見ている。

 削除候補。三以降は重複。しかし最重要。

 項目四、所感。

 今年度は例年に比べ、各領の次代を担う候補者と、特異な背景を持つ候補者が同時に集まった。運営上の負担は増すが、適切に育成されれば、将来的な軍戦力および各領との連携に大きな価値をもたらすと考えられる。

 特にサニー隊長が教官として立つ以上、対象者たちは単なる戦闘技能だけでなく、生存のための判断、戦場での割り切り、そして面倒見が悪いようで実は誰よりも見捨てない隊長の尊い教育理念を身をもって学ぶことになる。

 削除候補。尊いは報告書語彙ではない。だが真実。

 以上。

 この報告書をもって、今年度入所試験運営の一次報告とする。

 追記。

 サニー隊長は本日もお美しかった。

 * * *

「書き直し」

 提出から七分後、ナタリーの報告書はサニーの机の上へ戻ってきた。

 ナタリーは胸に手を当て、真剣に頷いた。

「やはり誤字がありましたか」

「誤字以前」

「数値の確認漏れでしょうか」

「そういう話でもない」

 サニーは赤い修正線だらけになった報告書を指で叩いた。線が引かれているのは、主にサニーへの賞賛部分だった。

「業務報告に私情を混ぜるな」

「私情ではありません。観察事実です」

「お美しかった、が?」

「はい」

「はいじゃない」

 ナタリーは不思議そうに首を傾げた。

「しかし、お姉様が試験会場にいらっしゃったことで、関係者の士気が上がったのは事実です」

「上がったのはあんたのテンション」

「それは毎日上がっています」

「誇るな」

 サニーは深く息を吐いた。

「この報告書、上に出せない」

「では、どこを直せば」

「まず『隊長が見ている』を三回書くな。一回でもいらない」

「最重要事項なのに」

「特別クラス編成理由を怪文書にするな」

 ナタリーは少し考え、真面目な顔で端末を取り出した。

「では、『第七班による個別観察の必要性』に置き換えます」

「それはいい」

「『隊長の尊い教育理念』は」

「消せ」

「『苛烈かつ美しく』は」

「消せ」

「『夜明けを切り裂く銀閃のごとく』は」

「消せ」

 ナタリーの顔に、わずかな痛みが走った。

「お姉様、私の報告書がただの報告書になってしまいます」

「報告書はただの報告書でいいの」

 サニーは修正済みの紙を押し返した。

「三十分で直しなさい」

「承知しました」

 ナタリーは背筋を伸ばし、敬礼した。

「お姉様のご期待に応え、完璧な報告書に仕上げてみせます」

「期待してるのは普通の報告書」

「普通の完璧な報告書ですね」

「そう」

 ナタリーは颯爽と退室した。

 サニーは机に残された控えへ目を落とす。

 追記。

 サニー隊長は本日もお美しかった。

 赤線を引く。

 それでも、提出用ではなく個人控えなら好きにすればいいかと思い、サニーはそれ以上何も言わないことにした。

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