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いずれ空へと続く道  作者: 白銀スーニャ
第1章:西の不死と死と過去
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EX1

 真希へ。

 これが届くかどうか分からない。たぶん届かない。送る方法もないし、送れたとしても、今の私が何を言えばいいのか分からない。

 だからこれは、手紙というより、私が逃げないための記録です。

 まず、変なことを書く。

 私は今、魔界にいます。

 ふざけてるわけじゃない。頭がおかしくなったわけでも、たぶんない。魔界っていうのは、魔族が暮らしていて、魔法があって、魔王軍っていう組織があって、列車も寮も食堂もある世界です。異世界って言った方が近いのかもしれないけど、こっちの人たちにとってはここが普通の世界です。

 私も、魔族なんだって。

 魔族・人間種。

 最初に聞いた時は、何を言われているのか分からなかった。今でも、ちゃんと分かっているとは言えない。けど、試合の時に出た銀の槍は、魔法だったらしい。武具創造っていう魔法の一種で、私の場合は槍の形に偏っているみたいです。

 ここまで書くと、また言い訳みたいに見える。

 違う。

 違うって書いても、違わない。

 私は、真希を刺した。

 この一文を書くまでに、何度も消した。銀の槍が勝手に出たとか、魔法だと知らなかったとか、そういう説明を先に並べれば少しは楽になる気がした。でも、どれだけ説明しても、あの時、真希の体を貫いたのは私の力だった。

 真希が救急車に乗せられるところまでは見た。

 その後は知らない。

 生きているって信じてる。真希があれくらいで死ぬわけないって、勝手に信じてる。でも、本当は怖い。信じるって言葉を使わないと、考えられないだけかもしれない。

 ごめん。

 ごめん、真希。

 この言葉も、何度書けば足りるのか分からない。謝ったら許されるなんて思ってない。許してほしいって書くのも違う気がする。許されたいんじゃなくて、逃げたくない。

 私は今、魔王軍の養成所にいます。

 サニーさんっていう人に拾われました。正確には保護された、かな。銀髪で、赤い目で、だるそうで、雑で、でもめちゃくちゃ強い人です。私の後見人ということになっています。訓練は地獄です。これは本当に地獄です。真希なら少し笑うかもしれないけど、笑いごとじゃないくらい痛い。

 同じ特別クラスになった子たちもいます。

 アイギスは、盾を作る魔法を使います。すごく真面目で、落ち着いていて、同室です。私が死にそうな訓練をしていると、たぶん本気で死なないように考えてくれます。守るのが得意だって言っていました。その言葉が、少し羨ましかった。

 クロエは吸血鬼です。西部領の次期領主らしくて、綺麗で、強くて、ちょっと刺々しいです。試験で戦って負けました。雷を使われて、霧にもなりました。霧だよ。人が霧になるの、本当に意味が分からなかった。でも、最後まで何もできなかったわけじゃない。届きかけたって、アイギスが言ってくれました。

 リュウガは東部領の次期領主候補で、武器の扱いがすごいです。落ちている武器まで自分のものみたいに使います。真面目で、たぶん何か大きいものを背負っている人です。まだちゃんと話せてはいないけど、あの人の戦い方も見ていて勉強になります。

 こんなことを書くと、私はもう別の場所で普通にやっているみたいに見えるかもしれない。

 普通じゃないです。

 毎日、真希のことを思い出す。

 訓練で痛い時も、食堂で知らない料理を食べる時も、寮のベッドで眠る前も、あの試合のことを思い出す。銀の光と、真希の顔と、自分の手の感触を思い出す。

 こっちで新しい人と話すたび、少しだけ楽になる時がある。その後で、楽になった自分が嫌になる。

 でも、たぶん、それも含めて逃げちゃいけないんだと思う。

 私は魔法の訓練を始めました。気の訓練はやめています。こっちでは、私の中にある魔力と気がぶつかっていたんじゃないかって言われました。だから今は、まず魔法を知ることにしています。

 真希なら、きっと怒ると思う。

 勝手に消えて、勝手に知らない場所で訓練して、勝手に前に進もうとしている私を、怒ると思う。怒ってほしい。できれば、立ちなさいって言ってほしい。

 私は戻ります。

 いつになるか分からない。どうやって戻るかも分からない。そもそも、戻った時に真希が私に会ってくれるかどうかも分からない。

 それでも戻ります。

 戻って、謝ります。逃げずに、真希の目を見て謝ります。それから、もし真希が望んでくれるなら、もう一度向き合いたい。試合の続きをしたいなんて、今の私が言っていいことじゃないかもしれない。それでも、私は真希とちゃんと向き合える自分になりたい。

 私が刺したことは消えない。

 消えないまま、私は進みます。

 だから、真希。

 生きていて。

 お願いだから、生きていて。

 いつかこれを本当に送れる日が来たら、その時の私は、今より少しでもましな私でいたいです。

 白銀桐子。

 そこまで打って、桐子は手を止めた。

 端末の画面には、送信先のない手紙が残っている。消すことは簡単だった。誰にも見せないなら、なかったことにできる。書かなかったふりをして、明日の訓練に行くこともできる。

 桐子は長い時間、保存と削除の表示を見つめていた。

 やがて、保存を選んだ。

 未送信の下書きが一件、端末の中に残る。

 それだけで何かが許されるわけではない。

 それでも桐子は、少しだけ息を吸えるようになった。

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