第9話:国王の使者と、圧倒的な力の誇示(デモンストレーション)
第9話:国王の使者と、圧倒的な力の誇示
それは、マクシミリアン商会との『情報の独占契約』から数日後のことだった。
砂漠の真っ只中に突如として現れた、奇跡の楽園『賢者の庭』。
そこへと続く白銀の街道を、地響きを立てて進んでくる一隊があった。
眩い白銀のフルプレート・メイル。
王宮の威光を示す金色の紋章旗を掲げる、近衛騎士団だ。
彼らの先頭には、派手で悪趣味な装束に身を包んだ、尊大な中年貴族がいた。
『――個体名:侯爵ベイル。
――ステータス:[政治的野心:MAX] [属性:傲慢]。
――称号:[汚職にまみれた代官]。
――備考:国王の名を騙り、アレンの『システム』強奪を目的としています』
俺の視界を埋め尽くす、真っ赤な『悪意』の警告フラグ。
この男がまともな対話を目的に来たのではないことは。
交渉が始まる前から、世界のログ(データ)が証明していた。
「……ほう。ここが噂の砂漠のオアシスか。……だが、王国の許可なく勝手に開拓を進めるとは」
「挙句の果てには聖女を私物化。これは明白な『国家反逆罪』に相当するぞ、アレンとやら!」
邸宅の門の前に到着したベイル侯爵が、馬上で鞭を鳴らし、俺を指差した。
彼の背後には、五十名の完全武装した重装騎士。
俺一人を取り囲むように、整然と隊列を組んでいる。
「……反逆、ですか。俺はただ、誰も使わなかったゴミ捨て場をリファクタリング(再利用)して……」
「困っている人々にサーバー(住居)を提供しているだけですよ」
「黙れ、不届き者が! この土地の権利は、すべて国王陛下にある!」
「貴様、今すぐこの不法建築物を破棄し、聖女セシリアを引き渡せ! ……さもなくば、王命の名の下に力ずくで排除する!」
騎士たちが一斉に抜剣した。
鋭い鋼の光が、俺の邸宅を包み込む。
移住してきた住民たちが、恐怖で窓からその様子を見つめているのが分かった。
「 Allen様……。……私、私が出て行けば、彼らは……」
セシリアが、かつての『呪われた奴隷』だった頃の表情を浮かべた。
彼女の優しさゆえの、自己犠牲的な覚悟だ。
「セシリア。君は、自分の価値をまだ低く見積もりすぎている」
「それに、俺の管理下にある『ユーザー(国民)』を傷つけられて、黙っている管理者はいないよ」
俺は彼女の肩を優しく制し、一歩、騎士団の刃の前に出た。
「ベイル侯爵。……無意義な交渉を始める前に、一つだけ試させてもらいたい」
「この地の『最新セキュリティ(動作確認)』だ。……君たちなら、良いテスト・データになれる」
「あ? 何をブツブツと……。おい、やれ! この生意気な男を捕らえろ!」
俺は空中に、一兆分の一秒で構築した『広域重力改変』のスクリプトを走らせた。
「……物理定数の再定義。……重力を、千倍(x1000)に固定」
――ド、ォォォォォォォォンッ!!
音が消えたかのような錯覚。
次の瞬間。
ベイル侯爵と五十人の重装騎士たちは、抗う術なくその場で、馬ごと地面に『めり込んだ』。
膝を折るなんて生易しいものではない。
馬は腹を地面につけ、騎士たちは自分自身の鎧の重さに押し潰され、指一本動かせない。
「ぐ、が……っ!? あ……頭が、地面に吸い込まれるような……っ!? 息が……でき、ない……っ!」
「君たちが『権力』という不確かな管理者権限を振りかざしている間に。俺はこの地の『物理法則』そのものを手に入れたんだ」
「このエリア内では、俺の許可なしには立ち上がることも、声を通すこともできない。一歩動くごとに、内臓は潰れるように設定してある」
俺は、無様に這いつくばる侯爵の鼻先まで歩み寄り、冷徹な瞳で見下ろした。
「……勇者レオンと同じだ。お前たちは、本物の『最強』という領域を理解しなさすぎる」
「さて、侯爵。今すぐ国王陛下に『通信』しろ。この土地は今日から、他国の干渉を一切受け付けない【独立聖域】として稼働する」
「不服があるなら、軍ごと連れてこい。――すべて『消去(Delete)』してやるから」
俺が重力のパラメータを微調整し、ぎりぎり「首が動かせる」程度まで負荷を緩めてやると、侯爵は涙と鼻水を流しながら叫んだ。
「わ、分かった! 分かったから、頼む……この魔法を解いてくれっ! 肺が潰れるっ!」
「今すぐ陛下に報告する、何でも言う通りにするから……助けてくれぇっ!」
『――侵入者の完全な戦意喪失を確認。
――防衛プログラム、一時待機へと移行します』
「…… Allen様。なんて……デタラメで、……痛快な力なのでしょう」
セシリアが、堪えきれないといったようにクスクスと笑い始めた。
彼女はもう、世界を敵に回すことを恐れてはいない。
俺が世界そのものを思うままに描き換える様を、楽しむ余裕すら持ち始めていた。
王宮への強烈なデモンストレーションは完了した。
次は、国王本人が、あるいは軍勢(バグの波)が押し寄せてくるだろう。
その前に、正式な『建国宣言』を行う。
世界のルート・サーバーに、この地を【独立聖域】として永久登録してしまうとしようか。
「無能な上司の丸投げ」がこんな形で返ってくるとは……(笑)
アレンの論理的な「ざまぁ」は、これからさらに加速していきます。
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