第8話:辺境の貿易交渉と、王室の極秘調査
第8話:辺境の貿易交渉と、王室の極秘調査
「……信じられない。これが、あの死の砂漠の中だというのか……?」
アレンがその地を買い取ってから、わずか三週間後。
かつての荒涼とした大地には、最新式の『石造りの住宅地』が整然と並んでいた。
アレンが精密に設計し、伝説の鍛冶師バルドが槌を振るって建てたものだ。
地下にはアレンが構築した完璧な排水システムが走る。
セシリアの浄化魔法を込めた『魔導式浄化槽』が……。
街中の水を常にクリスタルのように清らかに保っていた。
人口は、いつの間にか五十人を超えている。
全員が、王都や近隣の街で『役立たず』『高齢』『異端』として一方的に職を奪われた者たちだ。
だが、俺の『データ最適化』によって本来のスペックを引き出された彼らは今。
既存の都市の数十年分に相当する、異常な生産効率を叩き出していた。
「Allen様、隣国バビロンの豪商が、どうしてもとお会いしたいと……。門の前で、膝をついて待っております」
セシリアが、少し戸惑いながらも誇らしげに、執務室へとやってきた。
邸宅の最上階。壁一面のホログラム・モニタ。
資源量や住民の健康度、外敵の接近データが青白く輝く、この国の『サーバー・ルーム(心臓部)』だ。
「商人か。……よし、あまり待たせるのも失礼だな。通してくれ」
部屋に招き入れられたのは、丸々と肥え太った中年。
だがその瞳だけは、獲物を狙う鷹のように鋭い。
国内指折りの規模を誇る、マクシミリアン商会の会長だ。
『――ステータス表示:個体名[マクシミリアン]
――状態:[極度の驚愕による心拍数上昇]
――備考:王国内の情報流を支配するフィクサー。交渉のプロ』
「……お初にお目に掛かります、賢者アレン様。わたくし、マクシミリアンと申します」
「正直に申し上げます。この街の噂を聞き、半信半疑で参りましたが……ここは、お伽話の世界ですか?」
「お伽話じゃない、マクシミリアン。ただ、無駄な工程を徹底的に削ぎ落としただけの『理にかなった世界』だよ」
「……恐ろしい。単刀直入に伺います。数日前からバビロンの市場に流れている、貴方の領地の『野菜』。そしてバルド殿が打ったとされる『魔導回路』……」
「これらは一体、どのような禁忌の魔法を用いて作られているのですかな?」
俺はテラスへと歩み寄り、眼下の広大な平原に広がる『魔導式・緑色革命温室』を指差した。
ガラスの反射率を魔法で制御し、太陽光と魔力の吸収効率を最大化した生産プラントだ。
そこでは、通常の十倍の速度で成長する伝説級の「魔導トマト」が、まるで赤い宝石のように鈴なりになっていた。
「驚愕、いや……絶望ですな、商人としては。……王都の市場では今や、貴方の領地の野菜が『伝説の霊薬』レベルの価格で取引され始めています」
「あの大英雄……勇者レオン様のパーティですら、この野菜一粒を巡って、騎士団と争奪戦を繰り広げているとか」
俺の監視ログ(盗聴データ)によれば、レオンたちは相次ぐ攻略失敗と装備の劣化により、深刻な資金難に陥っている。
俺の高品質な作物を食べて、せめてものバフ効果を得ようと必死なのだろう。
「お売りしましょう、マクシミリアン。……ただし、代金は金貨だけでは足りない」
「俺が欲しいのは、君が握っている『世界の生データ(情報)』だ」
「……情報、ですか?」
「各地のギルドの動向、王宮の裏事情、そして魔王軍の軍事パッチ。……君の商会が持つネットワークの全データを、俺の『翻訳回路』に共有させてもらいたい」
商人の目が、一瞬で収益とリスクの計算のために細められた。
……だが、窓の外の光景。
黄金の龍が空を舞い、聖女が奇跡を日常として振りまくこの光景を前に、彼に拒否権はなかった。
「……全データ、ですか。正気の沙汰とは思えませんが……引き受けましょう。貴方の『商品』には、我が商会の全情報を賭けるだけの価値がある」
交渉成立の握手を交わした瞬間、俺の脳内コンソールに商会の巨大な情報網が直結された。
『――接続完了。世界情勢ログ:一〇〇、〇〇〇件のインポートを開始。
――解析……完了。全周辺国の「脆弱性」を特定しました』
「…… Allen様。……気付いておられますか? マクシミリアンさんの影に、王室の『最上位隠密』と思われる魔力の揺らぎがありました」
商人が震えながら去った後、セシリアが冷徹な視線で、窓の外の影を指差した。
「ああ。分かっているよ。……国王陛下も、そろそろ痺れを切らした頃だろう」
「勇者たちが揃いも揃ってエラー(惨敗)を繰り返し、一方で砂漠に『楽園』を築き上げた俺を、放っておけるはずがない」
レオンたちの凋落と、砂漠に突如現れた謎の『賢者』による経済侵略。
「迎え撃つのですか? それとも、力で屈服させるのですか?」
「いや、……もっと紳士的に、プレゼン(提示)させてもらうよ、セシリア」
「誰がこの世界の『真の管理者』として相応しいか。その圧倒的な実力差を、数字と事実で叩きつけてやるんだ」
俺は不敵に微笑み、空中に次なる計画のドラフト――[State_Establishment_Proposal(国家設立趣意書)]を浮かび上がらせた。
最強の個人から、最強の国家へ。
俺の『建国』という名のリファクタリングは、いよいよ腐り果てた中央政界のバグ取りにまで、その魔手を伸ばそうとしていた。
アセティアの特産品、凄まじいことになってきましたね。
「魔力入りお茶」でリフレッシュしたい……という皆様、ぜひ作品への「評価(☆☆☆☆☆)」で応援をお願いします!
次回、ついに王都からの「刺客(というかクレーム案件)」が到来。
アレンはどうあしらうのか? 明日も19:00に更新です!




