第10話:賢者の建国宣言と、勇者の絶体絶命
第10話:賢者の建国宣言と、勇者の絶体絶命
「……ふ。これで、全ての準備が整ったな」
傲慢な侯爵ベイルが這いつくばりながら王都へ逃げ帰ってから、さらに十日。
かつての「死の砂漠」と呼ばれた辺境の地は、もはや影も形もない。
そこには、眩いばかりの独立都市【ソース・コード】がその威容を誇っていた。
アレンが設計し、伝説の職人たちが魂を込めて作り上げた、最強のサーバー(拠点)だ。
中央にそびえ立つのは、純白の議事堂。
最新の魔導建築工学でリファクタリング(再設計)された、この国の心臓部だ。
周囲には、バルドたちが精錬した『魔導合金』による最高級の住宅が並ぶ。
耐震・対指向性魔法障壁を完備した、世界で最も安全な住居。
住民たちの顔には、かつて虐げられていた頃の面影はない。
新しい生への希望と、活気が溢れていた。
アレンは議事堂の最上階。
空を突くようなテラスに立ち、眼下に広がる光景を静かに見つめていた。
隣には、聖女セシリア。
彼女はこの国の『最高運営責任者(COO)』として……。
住民の生活基盤や魔力配分を、アレンの片腕として見事に統括している。
「 Allen様。……ついに、この時が来ましたね」
「バビロンの豪商、王国の密偵、そして魔王軍の斥候までが、固衛生を呑んでこの地の動向を注視しています」
「ああ。……これ以上、俺たちの実力を『クローズド(秘密)』にしておく段階は終わりだ」
「全世界に向けて、新時代の幕開けを正式告知する時だ」
アレンは空高く、蓄積してきた膨大な魔力を一気に解き放った。
その光は、各国の商会やギルドに繋げた情報魔法の回線を逆流する。
そして、世界中の主要都市の空へと転送された。
伝説の始まり――。
それが、アレンによる『建国宣言』だった。
世界中の都市の空に、巨大な魔法の鏡像が出現する。
【全世界の民へ告ぐ。――そして、旧き理にしがみつく支配者たちへ。
この地、かつて不毛と言われた辺境は、今日を以て全ての国家の干渉を拒絶し、独立する。
――魔導国家【ソース・コード】の設立を、ここに宣言する。
管理者:賢者アレン。
この地に集う者には、過去の不当な評価を問わず、等しく『再定義』の機会を約束しよう。
……ただし、俺たちの理を犯し、この地の平穏を乱す者には。
――容赦のない、強制削除を下す】
宣戦布告とも取れるその宣言は、瞬く間に世界中を震撼させた。
かつて『無能な翻訳家』として追放された男が。
わずか一ヶ月足らずで、列強諸国をも震え上がらせる国家を作り上げたのだ。
『――通知:建国プロセスの各フェーズ完了。
――領域の安定度:一〇〇%。
――全世界からのアクセス(注目度)が、想定値を五〇〇〇%上回りました』
一方、その頃。
王都の薄汚れたギルドの酒場。
かつて最強の名を恣にしていた勇者レオンたちは……。
もはやパーティの維持すら困難な、絶体絶命の窮地に立たされていた。
「……な、なんだよ、あのアレンの『建国』ってのは……! 冗談じゃねえぞっ!」
レオンは、ひび割れ、輝きを失った聖剣を握りしめた。
アレンがメンテナンス(バフ)を抜き、本来の『ただの鉄クズ』に戻った代物だ。
「あいつが……俺たちの手元にあったはずの力が! ……アレン、てめぇ……どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだッ!!」
だが、その叫びは英雄の咆哮ではなく。
富と名声を失った敗残者の、惨めな遠吠えでしかなかった。
「 Allen様、そろそろ広場でお祝いの宴が始まります。住民の皆さんが、アレン様に心からの感謝を伝えたいと、お待ちですよ」
セシリアが、初夏の太陽のような眩しい笑顔で俺の腕を引く。
彼女の瞳には、俺への深い信頼と、この新しい世界への確信が満ちていた。
「ああ。……今日だけは、管理者の手を休めて、一人の『人間』として祝杯をあげるのも悪くないな」
アレンはセシリアと共に、賑やかな歓声の響く階下。
自分たちが一から書き換えた「最強の楽園」へと降りていった。
空には守護神となった黄金の龍『ゴールド』が、主人の門出を祝うように。
天を裂くような壮大な咆哮を上げた。
さて。
これで「第1章:建国編」という名のプラットフォームは完成した。
次はいよいよ、この最強のサーバーを狙ってやってくる『クラッカー(外敵)』を。
自ら構築したシステムで圧倒し、デバッグしてやる番だ。
第10話までお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついに「アセティア」が国として産声を上げました。
ここまでの物語はいかがでしたでしょうか?
「面白い!」「アレン、もっとやれ!」と思った方は、ぜひ総合評価の星(☆☆☆☆☆)をいただけますと、ランキングが爆速で上がります!
明日からは第2章、さらなる「世界のデバッグ」が始まります。
引き続き、よろしくお願いします!




