第11話:帝国の侵攻と、賢者の防衛網(ファイアウォール)
第11話:帝国の侵攻と、賢者の防衛網
「……やれやれ。警告は出したはずなんだがな」
「ログを読まずに実行(RUN)しちまう連中が、この世界にも一定数いるらしい」
独立都市【ソース・コード】の衝撃的な建国宣言から、わずか一週間。
世界中が、そのあまりに理不尽なまでの技術革新に揺れる中。
俺の警告を「無能のハッタリ」と断じ、侵攻を開始した勢力があった。
北方の軍事覇権国家――ガズマ帝国だ。
「 Allen様! 北の国境監視線に異常。帝国の第三機甲騎士団、約二〇〇〇名が不法侵入を開始しました!」
「彼らは資源と技術を『王国の略奪品』として独占するつもりのようです!」
セシリアが、執務室の巨大なホログラム・モニターを指差しながら報告する。
砂塵を上げてこちらへ迫る、二〇〇〇の精鋭騎士。
周辺国を物量で圧倒してきた、大陸最強の軍勢の一つだ。
「……豊かな資源、か。確かに俺のAdmin権限で生成した『超・純度魔晶石』や、セシリアが浄化した大地は、強欲な連中には垂涎の的なんだろうな」
「だが、断りもなく人のサーバー(領土)にアクセスを試みるなら……。相応のペナルティを支払ってもらう」
俺は執務室のメイン・コンソールを軽く叩いた。
領域全体に張り巡らせた『防衛演算』を最大稼働させる。
――[防衛レベル:3(国家存立危機事態)へ移行]
――[迎撃プロトコル:非殺傷型・精神汚染モード・ロード完了]
――[対象:ガズマ帝国・非認証個体群]
「ゴールド、空からの広域スキャンを頼む。……いいか、絶対に手は出すなよ?」
「せっかく組み上げた新しい『空間位相アルゴリズム』のデモンストレーションなんだからな」
国境線上。
帝国の騎士団長バルカスは、深緑の森を見て鼻で笑った。
昨日まで砂漠だったはずの場所に、信じられない光景が広がっている。
「フン、賢者だと? たかが王国を追い出された男が、一晩で飾っただけのハリボテよ!」
「全軍、突撃ッ! あの邸宅を制圧し、聖女も資源もすべて略奪せよ!」
地響きを立て、重い甲冑を軋ませて馬を走らせる二〇〇〇の騎士たち。
だが、彼らが俺の敷いた見えない『境界線』を越えた、次の瞬間――。
――ピシュ、ンッ。
耳鳴りのような、微かな空間の歪みが周囲を包み込んだ。
「……な、なんだ!? 景色が……歪んだか!? おい、報告しろっ!」
猛烈な勢いで突撃していた騎士たちが、一斉に馬の首を引いた。
目の前にあったはずの森も、そびえ立つ議事堂も一瞬で霧のように消え去る。
代わりに出現したのは、四方八方、空までもが『鏡』で覆い尽くされた……。
出口のない無限の幾何学空間だった。
広域空間位相・改変魔法【ミラー・サーバー(鏡の仮想領域)】。
侵入者の視覚情報を強制的に書き換え、現実とは切り離された「閉じた座標」へとリダイレクトさせる。
俺の自信作だ。
「右だっ! 右から敵の騎士団が攻めてくるぞッ!」
「馬鹿な、左からもだ! ……おい、この敵軍……俺たちと同じ、帝国の紋章をつけているぞ!?」
パニックに陥った騎士たちは、鏡に映った『自分自身の殺意』を敵軍と完璧に誤認した。
互いに剣を交え、空を切り裂き始める。
『――警告:未認証ユーザーによる自己参照の無限ループを検出。
――これ以上のアクセスは、精神データの破壊を招く恐れがあります』
俺の声が、天空のすべてから審判の雷鳴のように降り注ぐ。
バルカスが狂ったように虚空を切りつけ、絶望に顔を歪ませた。
「……無駄な殺生は趣味じゃないんだ。……警告は済んだな。速やかに『強制ログアウト』を執行する」
俺が指先を一閃させると、鏡の世界がパリン、と砕け散った。
次の瞬間、二〇〇〇の騎士たちは――。
冷たい『帝国の国境付近にある、汚れた泥沼の底』へと全員が平等に、強制転送されていた。
アレンの力。
それはもはや、剣や魔法で争えるようなレベルにはない。
戦うことすら許されず、相手の掌の上で「削除」される恐怖の片鱗。
「……バカな……。戦いすら……剣を交えることすら、させてもらえないのか……っ!?」
深紅の甲冑を泥だらけにし、騎士団長バルカスは震えた。
最強と信じていた軍事力が、ただの『一蹴されるエラー』でしかなかった。
その事実に打ちのめされ、その場で膝をつく。
この戦果を水晶(通信)越しに見ていた王都の王。
そして、自らの不遇を呪っていた勇者レオンたちは、声を出すことすら忘れていた。
アレンの国。そこは力でねじ伏せることなど不可能な……。
世界のOS(根本)を掌握された、人類不可侵の絶対権限領域。
「……ふぅ。初期不良の対応完了だな」
「セシリア、お茶のおかわりをくれるか?」
俺はテラスに戻り、冷えかけたティーカップを手に取った。
これほど圧倒的な「拒絶」を見せつけたんだ。
次にこの門を叩くのは、血気盛んな軍勢ではなく……。
冷や汗を流しながら和平を提示しにくる、外交官たちの行列だろうな。
あるいは。
不気味なバグとして蠢く『魔王軍』が、本腰を入れて動き出すか。
どちらにせよ、俺の「デバッグ」の手が止まることはないが。
帝国軍の精鋭を「ミラー・サーバー」で自滅させるアレンの防衛策、いかがでしたか?
「自分の殺意に攻撃される」という、エンジニアならゾッとするバグを具現化してみました。
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アレンの「ホワイトハッカー」としての活躍はここから本番です!




