第12話:賢者の料理と、帝国の和平交渉(プレゼンテーション)
第12話:賢者の料理と、帝国の和平交渉
「……ふむ。やはり『最適化』された食材は、熱の通り方が論理的でいい」
帝国の騎士団を『強制ログアウト』させ、世界にその絶対的守護を刻み込んでから数日。
独立都市【ソース・コード】の評判は、もはや単なる「新興国」としての恐怖を超えた。
今や、神聖視されるレベルに達していた。
だが、そんな世界的な喧騒を余所に、俺の最優先事項は変わらない。
この地に集まった、かつての『不遇な仲間たち』。
そして誰より、セシリアの『QOL(生活の質)』の向上だ。
「 Allen様、今日の夕食は何にいたしましょう? ……あ、冷蔵庫の中のトマトを使ってもいいですか?」
キッチンのテラスでは、エプロン姿のセシリアが微笑んでいる。
俺が以前贈った魔導包丁を手に、楽しそうに夕食の準備をしていた。
彼女の料理の腕もまた、究極の領域に達している。
俺が伝授した『熱伝導率の解析』と『味覚成分の最適化プログラム』によるものだ。
「ああ、いいよ。……バルドたちが試作した『魔導冷却器』の初号機か」
「あいつら、設計図以上の精度で仕上げてきたな。……今日は、そのキンキンに冷えたトマトを使ったスープにしよう」
俺が指先で空中のパラメータを微調整し、食材の鮮度を一時的に『固定』させる。
そんな穏やかで平和な日常。
……だが、それを切り裂くように、今度は「正式な窓口」を通じて使者が訪れた。
今度は、二〇〇〇人の軍勢ではない。
わずか三名の、丸腰の外交官。
しかし、その先頭に立つのは、帝国の冷徹な軍師として恐れられる第二皇女、エルナ・ガズマだった。
『――解析完了:個体名[エルナ・ガズマ]
――職業:[帝国の頭脳]
――状態:[極度の警戒心]および[知的好奇心]
――備考:武力突破が不可能と悟り、外交による『合法的吸収』へ方針転換しました』
「……お初にお目に掛かります、賢者アレン様。先日は我が国の軍が多大なご迷惑をおかけしました……」
邸宅の接見室。
最高級の『自動温度調節ソファ』に腰を下ろしたエルナ皇女は、深く俺に頭を下げた。
大陸最強国の威厳を捨てた、異例の謝罪だ。
「……謝罪はいい。君たちは俺が提示した『入国プロトコル』を無視し、ペナルティを支払った」
「それだけのことだ。……用件を言え。俺はセシリアのスープが冷めないうちに夕食にしたいんだ」
俺の冷淡な態度に、エルナ皇女の背中に一筋の冷や汗が流れる。
「……単刀直入に申し上げます。帝国は貴方の国……【ソース・コード】と、正式な『永続技術協力協定』を締結したい」
「つまり、対等なパートナーシップを望んでいます」
エルナ皇女が差し出したのは、帝国の「全権委任」を示す金色の目録。
「見返りに、帝国の有する大陸最大の市場。そして、帝室の地下書庫に秘匿されてきた『禁忌の魔導書』へのアクセス権を保証しましょう」
「……悪くない条件だ。承認してやる」
「ただし、俺が提供するのは完成された『魔導具(実行ファイル)』のみだ。内部のソースに触れることは、万死に値すると心得ておけ」
「……! ええ、承知いたしました。……賢明なご判断に……感謝いたします」
エルナ皇女は、安堵と共に、今までにない敗北感をその美しい横顔に滲ませていた。
交渉成立。
帝国という巨大なシステムが、俺の最強サーバーの「周辺機器」として組み込まれた瞬間だった。
一方で、俺を追放した勇者レオンたちは……。
今や王都の薄暗いギルドで、血の滲むような叫びを上げていた。
彼らの周りにはもう、共に戦う仲間は一人もいない。
アレンの国の『圧倒的な福利厚生』と『安全保障』の噂。
それを聞いた途端、レオンを見限った者たちが、続々とわが国へと亡命してしまったからだ。
「さて。……帝国が差し出した、この『禁忌の図書』の目録」
「この中に、俺がこの世界にデプロイされた真の目的……。『世界のルート・パスワード』に繋がる記述があるはずだ」
俺はエルナ皇女が去った後、手元の目録を高速解析し始めた。
建国の先にある、この世界のバグの根本原因。
「セシリア、お待たせ。……スープ、いただこうか」
「はい! Allen様!」
セシリアの淹れてくれた、魔力たっぷりのスープは格別に美味かった。
次なる目的地は、伝説の『神域』。
世界のマスター・ソースが保管されているという、最深部へのアクセスだ。
そこには、恐らくレオンごときでは一生かかっても辿り着けない『答え』が待っている。
セシリアさんのスープ、最高に美味しそうですね……。
アレンの「生活の質(QOL)向上」へのこだわり、共感いただけたでしょうか?
「アレンの作った最強の家電(魔導具)が欲しい!」という方は、ぜひブックマークをお願いします!
次回、物語の核心に触れる「禁忌のデバッグ」が始まります。
明日も19:00にお会いしましょう!




