第13話:禁忌の図書と、失われた神のパッチ
第13話:禁忌の図書と、失われた神のパッチ
「……なるほど。やはり、この世界の『神』は、相当に優秀なプログラマーだったらしい」
帝国との技術提携協定によりもたらされた、数冊の『禁忌の図書』。
それは、この世界を創造したとされる八神たちが残した。
数千年前の、直接的なプログラミング・マニュアルのようなものだった。
俺は邸宅の地下に構築した『演算聖域』にて。
それらのリバース・エンジニアリングに没頭していた。
「 Allen様、あまり根を詰めすぎては……。……あのアレン様の好きな、深煎りの豆を最適化したコーヒーです」
「少し休まれませんか?」
セシリアが、湯気の立つカップをそっとデスクに置く。
彼女はこの数週間、俺の横で難解な専門用語を浴び続けた結果。
今や俺の思考を先読みして必要な資料を差し出す、完璧な『秘書』へと進化していた。
「パッチ……、ですか? 神様が、この世界を『直された』……と?」
「ああ。本来、この世界の初期ビルド(創造時)には、魔力なんて不安定な概念はなかったんだ」
「だが、ある時期に『魔王』という巨大な外部プログラム(バグ)が発生し……」
「それに対抗するために急いで『魔法』という拡張パッチを上書きした形跡がある」
俺の網膜には、千年前の魔戦の真の記録が流れている。
膨大なスタック・トレース(実行記録)として。
「勇者レオンたちが戦っている『聖剣』や『魔法』は、このシステムの末端にある不完全な実行ファイルにすぎなかったんだ」
「だが、俺が今ここでやろうとしているのは、そんなパッチ当てじゃない。システム全体の構造改革……『世界再定義』だ」
『――解析進捗:九〇%突破。
――禁忌領域(Root)への管理者権限を要求……。
――認証……成功。管理者権限を承認しました』
その瞬間、邸宅全体を揺るがし、大気そのものを震撼させる不気味な重低音が響き渡った。
「 Allen様、空が……! 世界が、燃えています……っ!」
セシリアが窓の外を指差し、震える。
そこには、俺が世界の最奥(Root)へと手を伸ばしたことで刺激された。
世界のシステム自衛機構が具現化していた。
天空を覆い尽くさんばかりに展開された、巨大な『幾何学模様の眼球』。
『――個体名:アイ・オブ・プロビデンス(世界の監視者)。
――目的:非正規ユーザーによる、管理者権限への不正アクセスを検知。
――排除プログラム、起動(RUN)』
普通の人間が見れば、神罰として平伏し、発狂して事切れるであろう神の威容。
大地には神の裁きの雷が降り注ぎ、森の木々が恐怖でざわめく。
……だが、俺の見え方は、それとは根本的に異なっていた。
「……騒々しいな。静かにしてくれ」
「今がこのソースコードの解析で一番いいところ(デバッグ作業)なんだから」
俺はキーボード――魔力制御用のコンソールから手を離すことすらなく。
窓の外の『神の眼』に向かって、不敵な笑みを浮かべながら左手の中指でコマンドを送信した。
「【特権実行(Sudo)】。――管理者の休止モードを強制解除」
「この領域におけるすべての優先権限を、俺に移譲(CHMOD)しろ」
――!?
空を埋め尽くしていた神威の幾何学模様。
それが、俺の入力した一行の命令によって。
文字通り『一瞬で凍りつき、青ざめる』ように色を変えた。
次の瞬間。
神の眼の構成データは粒子となって解体され、俺が構築中の新しいアーキテクチャの。
単なる不活発な『テスト用リソース』として丸ごと取り込まれてしまった。
世界そのものを、自分の手足のように操り、書き換える感覚。
「……よし、割り込み処理は防いだ。これで世界レベルの『最適化』の準備は完全に整った」
「セシリア。君にも協力してもらう。この世界を、もっと『まとも』な場所にするために」
「はい。…… Allen様と一緒なら、私は、この世界の理が崩れ去る時であっても、一歩も引きません」
聖女の瞳には、かつてのような「救いを求める弱さ」はもう一欠片もない。
俺が作る未来を、最前線で見届けるという確固たる意志だけが宿っていた。
一方、王都の王宮大広間。
「……ああ……あのアレンの男が、……『神の眼』を……喰らい、自分の力として取り込んだ、だと……?」
王宮の老魔導士たちが、恐怖でガタガタと震えながら、絶望的な記録を見つめていた。
かつてアレンを捨てた勇者レオンにいたっては。
酒場の片隅で動くこともできず。
永遠に「もしあの日アレンを捨てていなければ」という、出口のない後悔の無限ループに囚われていた。
物語はいよいよ、個人の最強から。
この『世界という名のシステム』そのものを再定義する究極のオーバーホールへと、そのステージを上げる。
「神の眼」すらもテスト用リソースにしてしまうアレン……さすがです。
【特権実行(Sudo)】での権限移譲シーン、お楽しみいただけましたでしょうか?
「自分も仕事でSudoを使いたい時がある……」という会社員の皆様、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)でその想いをアレンにぶつけてください!
皆様の応援が、世界の再定義を加速させます!




