第14話:魔王の招待状と、最終調整(ファイアウォール)
第14話:魔王の招待状と、最終調整
「……さて。世界の根幹が読めるようになると。物理法則すらも単なる『設定値』にしか見えなくなくなってくるな」
世界のシステム自衛機構『神の眼』をテスト・データとして喰らい。
解析を終えた俺の聖域【ソース・コード】。
今やこの地は、もはや単なる物理的な居住空間を超えていた。
世界そのものを書き換える命令を送り出す『高次元・中央演算用サーバー』へと昇華しようとしていた。
そんな折。
俺の脳内コンソールの受信ボックスに、一通の『漆黒のパケット』が届けられた。
送り主は、この大陸の半分を絶望で支配する存在だ。
『――個体名:魔王。
――メッセージ:[賢者アレンよ。……貴様のやっていることは、我ら魔族の悲願すらも超えた『世界の破壊』だ。……これ以上、あのような無能な人間共に付き合う必要はあるまい。……一度、対等な知性として話し合おうではないか]』
「……魔王からの、デバッグ依頼(招待状)か」
「皮肉なものだな。かつて俺を追い出した連中が命がけで戦っている相手が、俺に『ヘルプ』を求めてくるとは」
俺はセシリアが運んできた冷たい果実水を一口飲んだ。
この不気味な魔力のパケットを解析する。
罠ではない。
むしろ、この不完全な世界に絶望し、俺という『新規の管理者』に一抹の希望を抱いている……。
切実な信号だった。
「 Allen様……行かれるのですか? 魔王城など、人類未踏の呪われた領域。……正気の沙汰ではありません」
セシリアが、俺の袖をギュッと掴んで不安そうに唇を噛む。
「いいや、セシリア。俺がわざわざ足を運んでやる(ログインする)必要はない」
「この都市そのものを、魔王領の中枢まで『同期』させて移動させればいいだけのことだ」
「……え、はい? ……移動、させる……のですか? 街を?」
俺は唖然とするセシリアを横目に、電光石火の速さでコンソールを叩いた。
――[全施設:固定解除(Unfreeze)]
――[座標変換機能:アクティブ]
――[重力制御:逆転(Reverse)]
――[再起動!]
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!
大地を繋ぎ止めていた地脈が解かれ。
黄金の龍『ゴールド』が、都市全体を覆う巨大な障壁の加速器として天へと飛翔する。
次の瞬間。
白亜の邸宅も、バルドの工房も、セシリアが浄化した森も――。
都市全体が大陸の重力法則を無視して、眩い光と共に天空へと浮上を開始した。
砂漠から、天空へ。
大陸全土の人々が、空を見上げ、その異様な光景にただひざまずいた。
空飛ぶ巨大な『聖域』が、北の魔王領へと突き進んでいく。
既存のどの魔法よりも、どの神話よりも、圧倒的な威容を誇っていた。
王宮で震えながらその軌跡を見守る国王。
そして、場末のドブ川で今日生き延びるパンを拾うほど落ちぶれた勇者レオン。
彼らにはもはや、アレンがどの次元の『神の領域』で戦っているのか。
想像することすらできなくなっていた。
わずか数刻。
都市は、黒い霧に包まれた魔王領の最奥、魔王城の真上へと到達した。
見下ろせば、槍を手に震え上がっている、おびただしい数の魔王軍。
「……さて、待たせたな。魔王。……君のシステム上の悩みを、最高効率で解決してやろう」
俺は都市の先端から、地上へ向かって黄金の光り輝く『アクセス・ロード』を伸ばした。
一人の翻訳家から始まり、都市を築き、神を喰らう。
ついには魔王という最強の存在を『顧客』に据える。
「準備はいいか、セシリア。……これからが、世界の『最終統合』の始まりだ」
俺はセシリアをエスコートし、魔王が待つ玉座へと、空中を歩み始めた。
俺の背中には、世界の『全権管理者』としての。
静かな、だが誰をも屈服させる絶対的な覇気が宿っていた。
「街ごと魔王の元へ行く(しかも空路で)」という、究極のログイン方法でした!
アレンにとっては「移動」すらも座標変換という名のコード一行なんですね。
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次回、ついに第1章のクライマックス。
魔王との対峙、そして世界の「デプロイメント」が完了します!




