第6話:開拓(デバッグ)の加速と、聖女の驚愕
第6話:開拓の加速と、聖女の驚愕
「さて、次のフェーズは『共通インフラの整備』だ。……土台が腐っていては、どんなに良いサービス(街)も構築できないからな」
ガルスの無様な襲撃から一夜。
吹っ飛んだ彼らの残骸――飴細工のように曲がった鉄クズや装備品。
それらは俺が指先一つで『分解(解体)』した。
邸宅の庭を囲む美しい目隠しフェンスの強化材として、その日のうちに再利用してやった。
朝日が差し込むテラス。
セシリアが俺のために用意してくれたのは、瑞々しさが爆発する絶品サラダだ。
俺が魔力を込めて『翻訳・品種改良』した種子を一晩で収穫まで育て上げたもの。
俺たちは地図を広げ、これからの展望を語り合う。
「 Allen様、インフラ……とは何でしょうか? また、あなた様の故郷の言葉ですか?」
「ああ。道路、水路、エネルギー送信網(電力)、そして外敵を寄せ付けない防衛システム」
「人が集まり、街として機能するために絶対に欠かせない『基本プログラム』のことだよ、セシリア」
俺はこの土地を、ただの隠れ里にするつもりはない。
理不尽な世界から弾き出され、評価される場所を失った優秀な『バグ(はみ出し者)』たちが集う、世界最強の自律分散型国家……【賢者の庭】。
ここを、そんな理想郷に書き換えるつもりだ。
「ゴールド。周辺の山々に、この土地の魔力を安定させるための『中継点』として使える巨大な魔力鉱石はないか?」
「(グウゥ……あるぞ、主人よ。あの北の雲に隠れた峰。そこには数千年前から誰も手をつけていない、純度百%の魔晶石の脈が眠っている)」
「よし、最高のロケーションだ。……じゃあ、一気に行くぞ。……システム・アップデート、開始!」
俺は邸宅の中央に鎮座する『マスタ・コンソール』に掌を当てた。
土地全体の魔脈を制御するために、俺が自ら組み上げた祭壇だ。
――[全世界環境設定:インフラ構築モード・起動]
――[ルート・マッピング:境界線から中心部へ最短接続]
――[材料:地下の岩石を抽出し、魔導舗装へ合成]
瞬間、ズズズズ……と大地が深層から鳴動し始めた。
昨日拓いた水路に並行して、滑らかな白銀の石畳が、まるで生き物のようにスルスルと荒野を駆け抜けていく。
ぬかるんだ泥道は一瞬にして、金剛石並みの硬度を持ち、踏みしめるたびに微かな魔力を充電する『魔導舗装路』へと置き変わる。
さらに、道の両脇にはセンサー付きの『魔導街灯』が、寸分の狂いもなく等間隔に生えていく。
夜間に自動で点灯し、魔物の接近を知らせる仕組みだ。
「な……なんという光景でしょう……。帝国の王ですら、数万人の労働者と数年の時をかける大事業が、あなた様の指先一つで……」
「まるで、世界がAllen様の思い描いた通りに『塗り替えられて』いくようです」
セシリアが、窓の外で次々と完成していく街道を見つめ、陶酔したような吐息をもらした。
「次は、セシリア。君に『聖女』としての真の役割をお願いしたい」
「わ、私に……ですか? 私のような、追放された身にできることなど……」
「ああ、君にしかできないことだ」
「この地脈から溢れ出した膨大な魔力を、街全体を包み込む『状態異常無効』と『回復・浄化バフ』として定常化してほしい」
「君の慈愛に満ちた祈りを、この土地のメインフレームに組み込むんだ」
俺はセシリアの震える細い手を取り、魔力制御のラインを自分と同期させた。
「……っ!? ……Allen様の温かい魔力が、私の魂の奥底まで流れ込んできます……。私の力が、この大地そのものと『同期』していくのが分かります……!」
『――通知:聖女セシリアの祈りを、土地全域の環境変数に適用。
――領域内の味方に対し、[自動HP回復(Auto-Regene)]および[全状態異常抵抗]をデフォルトで付与。……完了』
空から、ダイヤモンドダストのような柔らかな光の粉が降り注いだ。
森の木々はより一層鮮やかに輝きを増し、そこに住む小動物たちも、力強い生命の輝きを宿し始める。
「これで、この場所は世界一安全で、世界一健康的な『絶対聖域』になった」
「さて、システム(箱)は整った。次は『ユーザー』……つまり、一緒にここを盛り上げてくれる住民たちの募集だな」
俺は邸宅の屋根の上に、天空を覆わんばかりの巨大な『魔導広報板(BBS)』を投影させた。
バビロンの街からも見えるであろう、黄金のホログラム。
【求む:不遇なる才能、報われない努力、そして『役立たず』と蔑まれたすべての者へ。
正当な評価と、真の自由を望む者を、当国は無条件で歓迎する。
この地において、あなたの能力は『バグ』ではなく『可能性』である。
――管理者:賢者アレン】
「…… Allen様。……これでは、あまりに多くの、行き場を失った人々が押し寄せてしまうのでは? 私たちを追っている者たちにも、居場所が知れてしまいます」
「それでいいんだ、セシリア」
「……来るべき『ざまぁ』の第二波、そして俺たちの国の『主権宣言』のためには、最高の観客が多い方が……ドラマチックに盛り上がるからな」
俺が少しだけ悪戯っぽく、自信に満ちた笑みを浮かべると、セシリアもまた、何があってもこの背中に付いていくという覚悟を込めて、美しく微笑み返した。
さて。
空に浮かぶこの「招待状」を見て、真っ先に駆けつけてくるのは誰かな。
予想では、かつての俺を虐げていた連中に、俺と同じように『使い潰されている』……あの不遇な仲間たちから、ということにしようか。
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次回、ついに「最初の移住者」がアセティアの門を叩きます。
それは、かつてアレンを「雑用」と笑った者たちに使い潰されていた、あの……。
明日の19:00に更新予定です。お楽しみに!




