第4話:砂漠の土地(デッド・リンク)を、楽園へと書き換える
第4話:砂漠の土地を、楽園へと書き換える
「Allen様……あの、本当に、本当にここでよろしいのですか?」
交易都市バビロンの賑やかな街門から、馬車で数時間。
道なき道を突き進んだ先……。
見渡す限りの不毛の荒野の真ん中で、セシリアが不安そうに俺を見つめていた。
その足元では、小型犬サイズの黄金龍(通称:ゴールド)が、退屈そうに大きな欠伸をしている。
「いい、とは?」
「その……私のような奴隷のために、高価な魔力結晶を使い……。その上、このような何もない『死に地』まで買い取るなんて」
「私のせいで、あなた様の大切な財産が失われていくようで……」
セシリアがうつむき、細い指をギュッと握りしめる。
俺が執政官から買い上げたのは、この辺境でも最悪と名高い「呪われた放棄地」だ。
かつての戦で焼かれ、土はガラスのように固まり、一滴の水すら湧かないと言われる砂漠。
誰も見向きもしないからこそ、広大な領土がタダ同然で手に入った。
「セシリア。俺たちエンジニア――いや、新しい世界を作る者にとって。何もない土地というのは、真っさらなキャンバスと同じ『最高のご馳走』なんだよ」
「余計な『汚い既存コード(しがらみ)』がない分、一から俺の理想を完璧に組み込めるからな」
俺は広大な砂漠を一望し、コンタクトレンズ越しのような視界に「土地解析モード」を展開した。
視界がデジタルな幾何学模様に覆われ、地質構造がスケルトンのように透けて見える。
『――土地スキャン……完了。
――地脈:接続不良。
――土壌状態:深刻な栄養不足、水分含有量〇・一%未満。
――判定:生存不可能な難易度に設定されています』
「なるほど、完璧なバグ地帯だ。……これなら、修正しがいがある」
普通なら、何千人という奴隷を動員して何十年かけても、この地が緑に染まることはない。
だが、俺にはその必要はない。
「ゴールド、少し下がってろ。セシリアも、これから少しばかり……地殻変動が起きるから、俺のそばを離れるなよ」
俺は荒野のど真ん中に立ち、片手を熱を帯びた地面へと深く突き立てた。
――[環境編集モード:有効(ENABLE)]
――[深層マナ・レイライン:全検索演算開始]
脳内のエディタが、地下数百メートルの岩盤の奥深くに眠る、巨大な「水と魔力の大動脈」を検出した。
その流れの一部が、数千年前の地殻変動による「巨大な岩盤(物理的なエラー)」によってせき止められている。
「接続先を……変更する」
俺は目に見えないソースコードを指先でなぞり、地下のエネルギーの「流路」を強引に書き換えた。
――[接続ターゲット = 現在座標]
――[強制接続:実行(TRUE)]
瞬間。
大地の底から、世界が割れるような重厚な振動が響いた。
ドゴォォォォォォォッ!!
俺の数歩先。
乾いた地面を突き破り、高さ五十メートルを超える巨大な水柱が天空へと噴き上がった!
地下に数千年間閉じ込められていた、圧倒的なまでの魔力含水が、一気に地表へと解き放たれたのだ。
「ひゃ、ひゃあぁっ!? お、お水が……! 空から、冷たいお水が降ってきます……っ!」
セシリアが、雨のように降り注ぐ水しぶきを浴び、弾けるような歓喜の声を上げる。
あふれ出した水は、あらかじめ俺が地面を「彫刻するように」改変しておいた経路を通り……。
不毛の地に瞬く間に美しい川と、青く輝く湖を作り出していった。
「仕上げだ。土壌のリファクタリング(再構築)を開始……。腐敗した属性を浄化。……『楽園モード』へ移行。ついでに、成長速度を一万倍にブーストする」
実行。
指を一閃。
川の周辺から、文字通り「奇跡」が爆発した。
茶色く死んでいた荒漠が、一瞬にして波のように生き生きとした深緑へと染まっていく。
わずか一分ほどの間に、足元には柔らかな草原が生い茂る。
見たこともない色とりどりの花々が、春が一度に来たかのように次々と花開く。
さらに、俺が事前に『最適化』しておいた世界樹の苗木が、魔力の奔流を吸い上げて、その場で数十メートルの巨木へと急成長を遂げた。
「……あり得ません。……何百年、何千年の時をかけなければ不可能なはずの森が、目の前で……。 Allen様……あなた様は、本当に神様なのですか?」
「神じゃない。……ただ、人より少しだけ、この世界の『扱い』を知っているだけのアナリストだよ。……さて、土地の地鎮祭は終わった。次は、俺たちが寝る場所だな」
俺は周囲の森の中から、あらかじめ指定した「最高級の白神木」をデータとして抽出し、一箇所に集める。
そして、前世で見学した最高級ハウスメーカーの『究極の邸宅』の設計図を脳内でシミュレートし、空間にデジタル配置した。
『――建築プロセス……開始。
――構造安定化:最高ランク(結界付与)。
――設備:魔導式自動空調、自動洗浄、全自動セキュリティ。
――出力中……完了。』
一瞬だった。
ガキン、ガキン、という鋼鉄同士が組み合わさるような、心地よい音。
空中に漂っていた建材が、見えない巨人の手によってパズルのように組み合わさり――。
夕日に照らされた荒野の上に、白亜の壁と翡翠の屋根を持つ、壮麗な邸宅が姿を現した。
庭には澄んだ水が流れる噴水がある。
窓には断熱と防弾の魔法加工が施された、この世界には存在しないレベルの高品質なガラスが組み込まれている。
「Allen様……。私、夢を見ているのでしょうか……? それとも、私は死んで、天国に連れてこられたのでしょうか?」
セシリアが、震える手でその邸宅の壁に触れ、ポロポロと涙をこぼした。
「天国じゃないよ、セシリア。……これから、ここが俺たちの『ホーム』だ」
「……さて。住処ができたなら、次は腹ごしらえだな? ゴールド、少し狩りに行ってきてくれるか?」
ゴールドは「ワンッ!(任せろ)」と、サイズからは想像もできない威風堂々とした声で応え、一瞬で森の奥へと消えていった。
何もない死の砂漠が、わずか一晩で、世界中の王が嫉妬するような「最強の楽園」へとクラス・アップした。
この場所が、いずれ大陸のすべてを管理する『中心サーバー』となることを、まだ誰も知らない。
第4話をお読みいただきありがとうございます! 荒野が一晩で楽園に……。解析スキルの本領発揮です。 面白い!と思っていただけたら、ぜひ 【ブックマーク】 でアレンの国造りを応援してください! (次は第5話、最初の「ざまぁ」回です!)




