第29話:世界のOS:再起動(リブート)
第29話:世界のOS:再起動
「……脆い土台に、無理やり最新のパッチを当てた反動か」
「ハードウェア(世界)そのものが、これ以上の負荷に耐えきれなくなっている」
「不完全な設計とも知らずに、よくも数千年も管理者を気取っていたものだ」
神殿のサービスを強制終了させ、全人類に魔力を開放したことで。
アキア大陸は一時の熱狂に包まれた。
だが、そのわずか数分後のことだ。
不完全な旧世界のOSは、膨大な魔力の並列処理に耐えきれず。
世界全域で、致命的なカーネル・パニックを引き起こした。
物理法則の根底が軋むような不気味な震動。
天空には「世界の死」を告げる、漆黒のエラーログが刻まれていく。
【致命的なシステムエラー:全域カーネル・パニックを検知】
【理由:旧型エンジンのリソース枯渇による、物理階層のハングアップ】
【予測:残り30秒以内に、全領域のデータが恒久的にロストされます】
「……ついに、この時が来たか。さて、セシリア。予定通り、世界の『器の入れ替え』を実行しよう」
アレンは、崩れ落ちていくテラスを横目に。
冷静沈着に「最後の手順」を開始した。
「 Allen様……ッ! 足元が……大地が、割れた鏡のように剥がれ落ちていきます……!」
「空も、暗闇に飲み込まれて……っ!!」
世界がポリゴン状に剥離し、その裏側に広がる「虚無の暗黒」が。
刻一刻と現実を侵食していた。
「……大丈夫だ、セシリア。君の中に眠る、世界を繋ぎ止めていた『最初の一行』」
「それを使って、旧世代の器を捨て。俺たちが理想とする『新世界』をデプロイする」
アレンはセシリアの両手を、力強く握りしめた。
彼女の魂の奥底に隠されていた、世界を再定義する唯一のキー。
アレンの演算能力が、その禁忌の力を火種として点火する。
「……アレン!! 貴様、何という狂気を……っ!!」
「世界を自分の手で作り変えるなど、許されるはずがないッ!!」
虚空の裂け目から、上位世界の管理者の怒号が響く。
だが、アレンはその声を「低優先のノイズ」として一蹴した。
「何って……決まっているだろう。君たちの書いた三流でバグだらけの『Version 1.0』を強制終了させ」
「俺が完璧にリファクタリングした『Version 2.0』を、物理層から再バインドするんだよ」
アレンは天に向かって、大陸全土を覆い尽くす巨大なコンソールを展開した。
――[Power.Off = 世界を強制シャットダウン]
――[System.Format = 旧来の物理法則を全消去]
――[Action.Deploy = Asetia_World_OS_v2.0 を実行]
――[管理者(Root):個体名:アレン を永続設定(SuperUser)]
「……アレン。君は本当に、人間であることをやめるつもりか!?」
「全負荷を背負う管理者になれば、望んでいた『平穏な隠居』など……!!」
「平穏? ……笑わせるなよ。不具合だらけの仕様で、いつ誰に消されるか怯えて暮らすのが平穏か?」
「俺が管理した方が、よっぽどセシリアとのティータイムを邪魔されなくて済むんだよッ!!」
アレンは迷いなく、虚空に浮かぶ黄金のエンターキーを叩きつけた。
「……全システム、再起動……執行ッ!!」
瞬間。
世界からすべての音が、重力が、色彩が消失した。
視界のすべてが真っ白な「無」の光に塗り潰される。
数千年間澱んでいた旧いデータが、完璧な初期化を迎え。
アレンが書き直した「新しい絶対の理」によって、世界が再定義されていく。
やがて光が収まった時。
そこには、これまでと比較にならないほど澄み渡り。
呼吸するだけで力が湧き上がるような、汚れなき新世界が広がっていた。
「……あ。……世界が、本当に……生まれ変わったみたいです」
「……とても、風が優しくて……ずっと、そばにいたくなるような世界です……」
「ああ。……これからは、上位次元も手出しできない『自分たちの独立サーバー』だ」
「さて。管理者(俺)に、新しいステータスが通知されたようだよ」
アレンの網膜には、世界の中心に刻まれた最高位の権限が。
――[全プロセス認証完了。――世界の終身管理者に『個体名:アレン』を登録しました]
「……今さら、誰かに指図されたり、追放される日々は……今日、完全に終わったんだ」
「さて、セシリア。……この新世界で最初の一杯。最高のお茶を、淹れてもらおうか」
アレンはセシリアを抱き寄せ、黄金色の地平線を見つめた。
そこには、一人の翻訳家が創り上げた。
誰にも壊せない完璧な未来が輝いていた。
ついに世界を「Version 2.0」へとリブートさせたアレン。
管理者の責任を背負い、誰にも邪魔されないティータイムを手に入れる執念、これぞエンジニアの鑑ですね。
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次回、ついに最終回。
アレンとセシリアの「悠々自適な建国ライフ」の結末を、ぜひその目で見届けてください。
明日19:00、感動のフィナーレです!




