第26話:今さら助けを乞う、かつての仲間たち
第26話:今さら助けを乞う、かつての仲間たち
「……ハッ。相変わらず、自分の立ち位置(階層)が分かっていないらしい」
「『リーダーに戻してやる』? 管理者である俺に、一介の下っ端が何を言っているんだ?」
元勇者レオンというバグをゴミ箱へと送った、独立都市【アセティア】。
城壁の中は、かつてない平和と繁栄を謳歌していた。
だが、その論理結界を一歩外れれば、そこは魔物が跋扈する暗黒地獄だ。
「……はぁ、はぁ……ッ! なんで、最強のパーティーじゃなかったのかよぉ!!」
アセティアの黄金に輝く城壁を遠くに望む「死の森」の境界線。
そこには、かつてアレンを「無能」と罵り捨てた、Sランクギルド『暁の剣』がいた。
重戦士ハンスは盾が粉々に砕け。
魔術師ミラは極限まで魔力を使い果たし。
ケビンは片足を引きずりながら絶望に顔を歪めている。
彼らを追い詰めるのは、上位世界の影響で異常進化した、測定不能な魔物の群れだ。
「……見ろッ! アセティアの城門だ! 今のあそこは、誰もが跪く聖域なんだろ!?」
「あの中に逃げ込めば……あいつ、アレンなら……っ!!」
彼らは、自分たちで放り出した翻訳家の背中を。
今は唯一の命綱として必死に追い求めていた。
一方、アセティアの城壁の上。
アレンは、セシリアが最高の温度で淹れてくれたハーブティーを楽しみながら。
モニターに映し出される『暁の剣』の壊滅ログを、無機質な瞳で眺めていた。
「…… Allen様。……あれは、かつての仲間の方々ですよね?」
「数秒で『全滅』のステータスに移行するようですが……。救いの手は差し伸べないのですか?」
「……救う? ふふ、セシリア。今の俺は、この独立国の唯一無二の『管理者』だ」
「未承認の、しかも過去に有害なアクセスを試みたユーザーを」
「許可なくメインサーバー(この街)に入れる義理は……論理的に一件もないだろう?」
その時、城壁のすぐ下から、死に物狂いの叫びが届いた。
「アレン!! 頼む、助けてくれ!! 今まで俺たちが悪かった! 謝るから!!」
「お前がいなきゃ、俺たちは……もう一歩も進めないんだぁッ!!」
「ねえ、アレンっ!! またあんたをリーダーにしてやるから! Sランクの光栄をやるからさぁぁッ!!」
その、あまりにも状況を理解していない度し難い厚顔無恥。
アレンは空になったティーカップを置き、城壁からハンスたちを見下ろした。
「ハンス。……追放したあの日。君は俺の首根っこを掴んで言ったよね」
「『お前みたいな役立たず、どこのギルドも拾わない。路地裏で野垂れ死ね』って」
「……ア、アレン……! そ、それは、その……冗談だったんだよッ!!」
「今の俺は、君たちが一生かかっても稼げないリソースと。絶対的な権利を持っている」
「君たちの『予言』は、コンパイルすら通らない致命的な論理エラーだったわけだ」
「それを直接確認できただけで、君たちを生かしておいた価値は十分に回収できたよ」
「な……ッ!? ま、待て! 行かないでくれアレン! 助け――あが、がッ!!?」
魔術の爪が、ハンスの肩を深々と引き裂く。
アレンは一瞥だにせず、クルリと背を向けてテーブルへと戻った。
「 Allen様。……本当に、いいのですか?」
「ああ。……『暁の剣』の個人履歴は、もう俺のメモリーに一ビットも残っていない」
「それよりセシリア。……このお茶の温度、あと三度ほど上げた方が香りが最適化されると思うんだ」
「もう一度、君が淹れる最高のやつ、貰えるかな?」
「ふふっ。はい、 Allen様。世界で一番おいしい一杯を、すぐに淹れ直しますね」
「彼らの絶叫は、ちょうどいい『環境ノイズ』として聞き流しておきます」
城壁の向こう側、漆黒の森で響き渡る断末魔と絶望の叫び。
それをただの不快なBGMとして切り捨て。
アレンは最高に贅沢な、そして静謐なティータイムを継続した。
一人の翻訳家を捨てた代償。
それは、世界のシステムそのものに見放され。
永遠の闇へと初期化されるという、あまりにも重い現実だった。
かつての仲間への「無慈悲なティータイム(無視)」。
エンジニアにとって、非承認ユーザーのパケット破棄は当然の処理ですよね。
「ハンスたちの叫び、最高のBGMだ!」と思った方は、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)をお願いします!
次回、ついに王都がアレンの前に……。
明日も19:00、お待ちしております!




