第23話:理不尽な納期(滅び)の差し戻し
第23話:理不尽な納期(滅び)の差し戻し
「……なるほど。納期直前にプロジェクトそのものを白紙に戻す……」
「物理的にサーバーごと初期化して、証拠隠滅を計るつもりか。……相変わらず、上位の連中は現場を軽視しすぎだ」
神団の権能を永久BANし、システムの非正規アクセスを遮断した直後。
アセティアの空に、どぎつい赤色の『カウントダウン』が表示され始めた。
【警告:世界サーバーの最終シャットダウンを予約しました。……残り:600秒】
【理由:未認可の外部管理者による、排他的なシステム占有を確認。……初期化を推奨します】
天空都市のテラスで、俺は空に浮かぶ血の色をした数字を眺めていた。
10分。
それが、この世界に残された「寿命」だというわけだ。
「 Allen様……っ! 世界中の人々が、空に現れた『滅びの刻限』を見てパニックになっています!」
「各国の王たちからも、悲鳴のような救援要請が届いています……ッ!」
「……不条理な話だな。徹夜でデバッグを完遂し、ようやく快適な稼働に入ったプロジェクトを」
「上位の気分一つで『あ、やっぱりボツで。データも消しといて』と言われるようなもんだ。……エンジニアをなめるなよ」
俺の声は、セシリアの肩を抱き寄せながら。
冷徹な静寂を保っていた。
「セシリア。……念のためにバックアップ、二重三重に取っておいて正解だったよ」
「敵がシャットダウン・ボタンを押し込む前に、こちらから『圧倒的な差し戻し(ロールバック)』を提案してやろう」
俺は十指を、超高速で空中に叩きつけた。
神界のシャットダウン・プログラムへと、逆ハックを開始する。
「……命令を直接解読してやる必要はない」
「この『実行命令』のフラグそのものを、数分前の正常なタイムスタンプへとリダイレクトしてやればいいんだ」
――[System.Shutdown_Sequence = 強制中断(CANCEL)]
――[Action.Time_Rollback = エラー発生前の時刻へ同期]
――[Script.Target = 世界全域(WHOLE_WORLD)]
――[管理者命:差し戻しを承認せよ(COMPLY)!]
「ロールバック演出、開始!」
俺が虚空のエンター・キーを確定させた、その瞬間。
世界を覆い尽くさんとしていた滅びの雲が。
まるでビデオテープを早戻しするように、不自然な逆回転を始めた。
空から降り注いでいた瓦礫が天へと吸い込まれ。
不快な鐘の音が、心地よい小鳥のさえずりと朝の光へと一気に巻き戻る……。
カウントダウンは、激しいノイズと共に霧散し、消滅した。
「……あ。消えました……! 数字が消えて、空が、元の美しい青色に……っ!」
「ああ。……敵の連中が数千年かけて準備した『滅亡デプロイ』を、ゴミデータとして差し戻しておいたよ」
「彼らにとっては、これまでの準備工程がすべて白紙に戻ったわけだ。実に気の毒なことだな」
俺の声は、ネットワークを通じて大陸全土の数千万人に響き渡った。
『――全住民へ告ぐ。心配ない、ただのシステムの一時的なエラーだ。私がリストアしておいた』
『――今日は全域を休日に設定したから、安心して昼寝でも楽しんでくれ』
一瞬の凍りついたような静寂。
そして直後、大陸中から地鳴りのような「アレン万歳!」の歓喜が巻き起こる。
地上の信仰心がすべて、俺へと集約されていくのを感じた。
上位世界の実行ルームでは、今頃、阿鼻叫喚だろう。
納期直前にデータを消去された社畜。
あるいは、全能感をへし折られた絶望だ。
「……今さら『滅ぼす』なんて宣言されても、管理者である俺の承認がない限り」
「この世界は一秒先の未来へすら進ませない。残念だったな、旧人類の神々よ」
俺はコンソールを閉じ、セシリアが淹れてくれたハーブティーを一口飲んだ。
「…… Allen様。……あなたは、本当に、この世界の本当の神様みたいです」
「いえ、神様よりもずっと、頼りになります……」
「神じゃないよ、セシリア。……俺は、ただの『効率と完成度』を求める、往生際の悪い翻訳家だ」
テラスの向こう、平和を取り戻したアセティアの街並みが輝いていた。
だが、俺の戦いは終わらない。
不具合の元凶となっている「神界のサーバー本体」へ乗り込み。
根本的な修正パッチを叩き込んできてやるとしよう。
神の「消去ボタン」すらロールバックで無効化してしまうアレン。
納期直前のデータ消失を防ぐバックアップの重要性、エンジニアの皆様なら共感いただけるはず……!
「アレンのリストア能力、最強すぎる!」と思った方は、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)での応援をお願いします!
次回、さらに姑息な手段に出る神界。ついに「あの男」が再利用されます。
明日19:00、衝撃の再会をお楽しみに!




