第2話:リソース採取と、黄金のドラゴンのテイム
第2話:世界のリファクタリングは、まずドラゴンから
「レベル三〇〇、か。さすがに初期設定のミス(バグ)を疑う数値だな。……だが、心地いい。この力なら、もう誰にも俺の居場所を奪わせはしない」
静寂に包まれた【名もなき死の森】。
俺――アレンは、宙に浮かぶ自分のステータス画面を指先でなぞった。
前世のコンパイル画面を彷彿とさせる、青白く輝くホログラム。
それは今や、この世界の理そのものだ。
かつての俺は、ただ魔導書の古代語を必死に読み上げ、他人のために「翻訳」するだけの便利な道具でしかなかった。
だが、固有職【アカシック・セイジ】へと目覚めた今。
世界のすべては、俺の望むままに書き換えられる「テキストデータ」にすぎない。
「さて。まずは、最低限の生活基盤の確保から始めるか」
レオンたちに装備をすべて剥ぎ取られたおかげで、今の俺はほぼ丸腰だ。
着ているのは、薄汚れた平民の麻服一枚。
だが、目の前には先ほど消去したブラッド・ベアの残滓――。
魔力粒子として漂う「未変換のデータ」がある。
俺は、その粒子の海に手をかざした。
『――通知:対象[ブラッド・ベア]の死骸データを検知。……そのまま「廃棄」モードで処理しますか? それとも、有用な素材へ「属性変換」しますか?』
「……当然、コンバートだ。今の俺には、身を守るための『装備』が必要だからな」
俺がそう呟いた瞬間。
虚空から無数のバイナリデータ(光の断片)が降り注ぎ、地面に山積みの素材を具現化させた。
通常、Aランク魔物の解体には熟練の職人が数日を要し、専用の魔導具も必要だ。
だが、俺はその全工程を「一瞬の処理」で完了させられる。
地面に転がったのは、鋼をも通さぬ強靭な赤毛皮。
そして、太陽のように輝く巨大な魔石。
俺は毛皮を肩に羽織り、腰に下げた唯一の武器――錆びついたナイフを抜き放った。
「【錆びたナイフ】。耐久値は残りわずか。……これを、今の俺の権限で『最適化』する」
ナイフを構成する酸化鉄のコードを抽出し、魔石から溢れる純粋なエネルギーを一点に流し込む。
『――書き換え(上書き)を実行します。
――[Item.Rust = 0]
――[Item.Atk = 99999]
――[Attribute.Holy = 聖属性を付与(ADD)]』
手元でナイフが、この世のものとは思えない神々しい白銀の輝きを放った。
一瞬で変貌したのは、伝説の聖剣すらも「なまくら」に見えるほど鋭利な、究極の短剣。
もはや、何かを斬る必要すらない。
俺が「斬れた」と思えば……。
その瞬間に世界のデータ(因果)から対象が切断されるのだから。
「ふ。これなら、ドラゴンの首でも容易く落とせそうだな」
装備を整えた俺は、さらに森の深部へと進んだ。
そこには、地形そのものが強引に歪められたような、巨大なクレーターが広がっていた。
数キロ先まで木々がなぎ倒され、周囲の空気が熱を帯びて激しく鳴動している。
クレーターの中心。
そこには、黄金の鱗を鎧のようにまとい、翼ひとつで嵐を起こす巨躯が鎮座していた。
この世界の生態系の頂点。
神の使いとも、生ける災害とも呼ばれる伝説の存在――[Ancient Gold Dragon (古代金龍)]。
『――緊急警告:対象の脅威度は「測定不能」です。……現時点での生存確率は、限りなくゼロに近いと予測されます。直ちに離脱を――』
「……計算はもういい。そのゼロを書き換えるために、俺はここにいるんだからな」
巨大な金龍が、俺の不敵な足音に気づいて瞼を開いた。
ルビーのように輝く瞳が俺を捉えた瞬間、大地が崩れんばかりの咆哮が響き渡る。
龍の口内に、圧縮された太陽のような超高熱のエネルギーが収束されていく。
放たれるのは、神話にも語られる伝説のブレス【王者の黄金息(極大消滅ブレス)】。
一撃で都市ひとつを地図から消し去り、万物を分子レベルで蒸発させる究極の破壊魔法だ。
だが、そのブレスが解き放たれるコンマ数秒の間。
俺の視界には、その龍の攻撃を構成する「発動条件」が、スローモーションのように流れていた。
――[対象:アレン]
――[威力:絶対消滅(物理・魔力ともに遮断不可)]
――[属性:超高熱火炎]
「……威力を『零』に。属性を『心地よい春のそよ風』に……強制置換する」
俺は、無数のコードの中から該当する箇所を指先でなぞり、一箇所だけ「書き換え」を実行した。
「……よし、実行」
轟音。
世界が焼かれるような絶大な光の奔流が俺を飲み込み、周囲の岩石が一瞬でマグマに変わる。
……しかし。
俺の体に触れた瞬間、その「滅びの光」は……。
まるでお花見の日和のような、心地よいポカポカとした「そよ風」に姿を変えたのだ。
俺の髪を優しく揺らす微風。
龍が、その巨大な口を開けたまま硬直した。
その巨大な脳波から伝わってくる感情は、ただ一つ。
「あり得ない(論理破綻)」という、底知れない恐怖。
「悪いな。君の自慢のブレスも、今の俺のシステム上では……。ただの『心地よい空調』でしかないんだ」
俺はドラゴンの懐に悠々と踏み込み、その巨躯の額に指を触れた。
龍は逃げることもできず、金縛りにあったように震えている。
「君の咆哮も、少し下げさせてもらうぞ。……騒がしいのは、ティータイムの邪魔だからな」
『――記述:環境効果[威圧の咆哮]の音量設定を変更…… 100% から 0.1% へ。』
龍が再び、威厳を持って声をあげようとする。
だが、その喉から漏れたのは……。
「ニャア」という子猫のような、何とも可愛らしい鳴き声だった。
周囲の騎士が見れば気絶するような、あまりにも滑稽で、絶対的な力の逆転。
伝説の古代金龍。
それが今、この俺――数時間前までゴミのように捨てられていた「無能な翻訳家」の前に、涙を浮かべて平伏している。
「殺しはしない。……ただし、これから俺の歩む道に協力してもらう」
「まず、この森の出口と、人が住んでいない『豊かな土地』へ案内してくれ。……それから」
俺は、震える龍の背中を見上げ、薄く微笑んだ。
「……これから始まる俺の『新しい国作り』。その専属の荷物持ちも頼めるかな? 君なら、最高のキャリアー(輸送機)になれるはずだ」
俺の言葉は【翻訳】の域を超え、ドラゴンの魂そのものへと「絶対命令」として深く書き込まれた。
かつてレオンから「使えない荷物持ち」と呼ばれて追い出された男が……。
今度は伝説のドラゴンを「自分専用の荷物持ち」に従え、悠々と空へと舞い上がる。
「よし、交渉成立(コネクション確定)だ。行こうか、相棒。……俺と君で、この理不尽な世界を『リファクタリング(再構築)』してやるんだ」
黄金の龍を従えた、史上最高に非常識な旅。
アレンの「悠々自適な建国ライフ」の第二行目は、伝説を平伏させることから始まった。
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次回更新は、明日 19:00 予定です。




