第1話:役立たずの【翻訳】スキルと蔑まれパーティを追放された俺
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初めまして、早川です。 解析と開拓の物語、本日より開始します。
最後までプロット構築済みですので、安心してお楽しみください。
第1話:役立たずの【翻訳】スキルと蔑まれパーティを追放された俺
「アレン、お前は今日限りでクビだ。……いや、『廃棄』と言ったほうが正しいか?」
氷のように冷たい声。
それが、金銀財宝に彩られた豪華なギルドの個室に響いた。
声の主は、国内最高峰のSランクパーティ『暁の剣』のリーダー。
金髪の勇者、レオンだ。
レオンは眩い髪をなびかせ、その背には国宝級の聖剣を誇らしげに背負っている。
「……クビ、ですか」
俺――アレンは、手元の古びた魔導書から静かに顔を上げた。
正直、驚きはなかった。
傲慢な彼らが、自分たちの強さに酔いしれ、影で支える者を疎み始めたのは……。
もう、ずいぶん前からのことだったからだ。
「そうだ。いいか、アレン。俺たちは今や王国の希望であり、人類の救世主なんだよ」
「それなのに、お前のような攻撃魔法一つ使えない『翻訳家』がいつまでもしがみついているのは、パーティの格を落とすだけでしかないんだ。……正直、見てるだけでイライラするんだよ」
レオンは下品な嘲笑を浮かべ、隣に座る美貌の魔導師、エルナと視線を合わせた。
彼女もまた、かつて俺が魔物の弱点を翻訳して救ったことなど、完全に忘れたかのようだ。
俺を汚物でも見るような目で見つめ、冷たく言い放つ。
「そうよ。古文書の解読なんて、頭の固い老学者にでも任せればいいわ」
「戦闘中にブツブツと呪文の解析なんてしてる暇があったら、一発でも多く魔法を撃てる奴を入れるべきよ。……あなたの存在そのものが、私たちの輝かしい実績に泥を塗ってるの」
他のメンバーも、かつての恩義など霧散したかのように冷笑している。
俺がこのパーティに誘われたのは三年前。
彼らがまだ泥にまみれ、魔物に怯えるEランクの駆け出しだった頃だ。
俺の持つ不遇職【翻訳家】のスキル。
それを使って古代遺跡の凶悪な罠を事前に『無効化』し、魔王軍の幹部の弱点を古文書から特定する。
そうすることで、彼らは死の淵から何度も生還し、今の地位まで最短距離で登り詰めた。
だが、最強という名の『特権』を手に入れた彼らにとって。
もはや「正しく読み解く力」は、自分たちの才能を否定する邪魔者でしかないらしい。
「……分かりました。今すぐ出て行きます」
「ははっ、物分かりが良くて助かるよ! ああ、それと――その防具と魔導書を置いていけ」
レオンが不快な笑みを深くして、俺の持ち物を指差した。
「それは『暁の剣』の資金で購入したものだ。……無能な翻訳家に持たせておくほど、俺たちの金は安くないんでね」
俺は一言も反論しなかった。
着ていた安物の革防具を脱ぎ、ボロボロになるまで読み込んだ数冊の魔導書を机に置く。
残ったのは、着古した平民の麻服。
そして、護身用に持っていた錆びついたナイフ一本だけだ。
「出口はあそこだ。二度と俺たちの前にツラを出すなよ」
「せいぜい、野垂れ死んでゴミデータにでもなるんだな!」
背後でレオンたちの、耳を塞ぎたくなるような高笑いが響く。
俺は何も言わず、ギルドの重厚な扉を静かに閉めた。
*
王都の門を抜け、俺はあてどなく歩いていた。
行く当てなどない。
家族も、帰る家も……。
前世の記憶を頼りにこの過酷な異世界で生き残るために積み重ねた、あらゆる努力。
そのすべてを、あのパーティの栄光のために捧げてきたのだから。
たどり着いたのは、王都から数マイル離れた【名もなき死の森】の入り口だった。
強力な魔物が跋扈し、一歩足を踏み入れれば生きては戻れない。
そんな、絶望の禁域だ。
「……ふ。今の俺には、ここが一番落ち着く場所かもしれないな」
前世。
俺は現代日本でデータアナリストとして、膨大な数字の裏に隠された真実を読み解く仕事をしていた。
過労で倒れ、この世界に転生した俺が授かったのは、皮肉にも「あらゆる世界の記述」を読み解く不遇職【翻訳家】だった。
この世界の魔法も、スキルも、そして生命の鼓動ですら。
すべては「古代語」と呼ばれる世界の構成プログラム(理)によって記述されている。
俺はそれを翻訳し、彼らの戦いを「負けようのない形」に調整してきた。
だが、自分自身が魔法を「発動」する権限は持っていなかった。
森の奥深く。
夕闇が迫る中、背後から魂を凍らせるような殺気が爆発した。
――グオオオオオオオッ!!
大気を震わせ、鼓膜を突き破らんばかりの咆哮。
立ち塞がったのは、ランクAの災害級魔物、ブラッド・ベアだった。
三メートルを超える巨躯は血のように赤く。
その爪は一振りで大岩をも粉砕する。
「……ここで終わり、か」
死の予感が背筋を走る。
錆びたナイフを構えるが、絶望的な体格差に指の震えが止まらない。
その時だ。
『――緊急検知:ユーザー名[アレン]の生存確率が、限界値を下回りました。……深層プロトコルの解析を開始します』
突然、脳内に響き渡る無機質な声。
それは前世で使い古した、最高性能のOSを彷彿とさせる……。
あまりにも冷徹で、美しい響きだった。
『――条件:理不尽な追放、および長年の貢献を破棄されたことによる、精神の「初期化」を確認』
『――不遇職【翻訳家】の全出力制限を解除。読み取り専用モードを破棄』
『――全世界の管理権限(Admin)を本個体へ強制移譲します』
視界が、瞬時に真っ白な光の文字で埋め尽くされた。
襲いかかろうとするブラッド・ベア。
その筋肉の一本、呼吸のひとつ、そして流れる魔力のすべて。
それが、無数の「書き換え可能なコード」となって分解されていく。
『――世界の理の解析に基づき、クラスを再構築します。欠陥職【翻訳家】を、サーバーから永久削除』
『――固有職(唯一神)【アカシック・セイジ(世界の理を書き換える者)】をインストール……完了。』
瞬間。
全身を天に昇るような快感と、猛烈な熱が駆け巡った。
心臓が世界と同調し、鼓動するたびに万能感が溢れ出す。
錆びたナイフに触れた俺の手。
今や、そのナイフが「鉄」という属性を保っていることすら……。
俺の許可なしには、世界が許さない。
「……何だ、これ。すべてが『読める』だけじゃない」
「この世界のすべてが……。俺の指先一つで、思い通りに『書き換えられる』のか?」
眼前のブラッド・ベアが、俺の頭を握りつぶそうと巨大な爪を振り下ろす。
だが、その速度はもはや、停止した静止画にしか見えない。
俺の視界には、その爪の軌道が「記述された文字列」として浮かんでいる。
[もし(IF)、この魔物が攻撃を仕掛けるならば(Attack)]
[その結果として(THEN)、この魔物は……最初から存在しなかったことになる(Delete)]
俺はそっと、空中に指を滑らせた。
間違った計算式を美しく修正する(リファクタリング)かのように。
「……消えろ。そこは、俺のティータイム(理想の独り立ち)の邪魔だ」
パチン、と乾いた指の音が響く。
次の瞬間。
俺を飲み込もうとしていたブラッド・ベアの巨躯が、陽炎のように揺らいだ。
そして――音もなくかき消えた。
肉が弾ける感触も、血の匂いすらない。
まるで「最初からこの森には、魔物など一匹もいなかった」といわんばかりに。
世界のデータ(歴史)からその痕跡すらも消去されたのだ。
『――対象の完全抹消を確認。経験値を新世界基準で翻訳・変換……レベルが1から300へ上昇しました。……お疲れ様です、管理者』
「……レベル、三百。……フ。あいつらが血を吐く思いで目指していた領域に、一瞬で届いてしまったか」
俺は、もはや恐怖も震えも消え失せた自分の掌を見つめた。
今しがた感じた、あまりにも残酷で、それでいて最高に心地よい万能感。
アレンを無能と呼び、ゴミのように捨てた『暁の剣』の連中は、まだ知らない。
彼らが最強と誇る魔法。
彼らが絶対の慈悲と信じる加護。
そのすべてが、今の俺からすれば……。
いつでも消去できる「書き間違い(バグ)」でしかないということを。
「……さて。まずは、俺だけの快適な住処でも構築するとしようか」
アレン、最強の【賢者】としての覚醒。
理不尽に耐える日々は終わった。
ここから、俺による「世界の再起動」が幕を開ける。
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