第18話:今さらな神殿の詰問と、聖女の真の価値
第18話:今さらな神殿の詰問と、聖女の真の価値
「……ハッ。聖教会の『免罪符』か」
「中身をバイナリ解析(精査)してみれば。ただの法王一族への送金プログラムじゃないか」
ルミナス神教国の『バックドア』をハックし、その数千年に渡る欺瞞を突き止めてから数時間。
アセティアの独立を聞きつけた教皇庁が、かつて捨てた聖女セシリアを回収するため。
救いようのないほど傲慢な使者を送り込んできた。
「…… Allen様。城門の外に、教皇庁の紋章を掲げた馬車が到着しました」
「回収という名目ですが、実態は……武装した聖騎士たちによる強制連行です」
セシリアが、その美貌に微かな恐怖を浮かべて俺の書斎を訪れた。
「安心しろ、セシリア。……昨夜の解析で確信したよ」
「彼らの権威なんてものは、脆弱な旧式コードの上に築かれた砂上の楼閣にすぎない」
「今の君はこの国の最高位アクセス権保持者だ。たとえ神であれ、君を連れ出すのは不可能だ」
俺はセシリアを優しくエスコートし、応接室へと向かった。
そこに踏ん反り返っていたのは、金ぴかの法衣を纏った強欲そうな司祭。
そして、彼を守護する重装の聖騎士たちだ。
「……あ、アレンとか言ったか。王宮を追放された不遜な翻訳家め」
「聖女セシリアは我が神殿に属する『神の資財』だ。速やかに返還してもらおう。さもなくば、全教国の名において神罰を下す――」
「神罰、か。……ククッ、面白いジョークだな」
「君たちの言う『神』が、ただの『設定ミス』の集積体だと知っても、同じことが言えるのか?」
俺は指先をパチンと鳴らし、空中(何もない空間)にホログラムを投影した。
神殿の最高機密である『ルミナス聖典(管理マニュアル)』の全ページだ。
「第3章、第12節。……『聖なる光は、不徳なる者を焼き尽くす』」
「これ、翻訳すると、単なる『未定義エネルギーによる強制的な熱暴走コード』だ」
「さらに君たちがセシリアを追放した根拠である『漆黒の痣』。これ、解析してみたところ……」
「ただの『出力過多』による、無害な例外通知だったよ」
俺の言葉に、司祭の顔面がみるみる土気色に変わっていく。
「デタラメじゃない。……現に、俺がその出力設定を最適化した結果」
「今の彼女は、君たちの無能な法王すらも数光年先へ置き去りにする制御能力を持っている」
「これを見ても、まだ彼女を『バグ(呪い)』だと言い張るつもりか?」
俺がセシリアの隣に立ち、彼女の魔力回路にアクセスを許可した。
その瞬間。
セシリアの全身から、清浄で圧倒的な黄金の光が溢れ出した。
まるで太陽そのものが、地上に降りてきたかのような輝きだ。
「ひ、ひいっ……!? こんな神々しい光、神殿の最深部でも見たことがない……ッ!」
「ま、まさか、欠陥品だったはずの女が……!?」
「今さら『返せ』なんて、笑わせないでくれ。……君たちは世界で最も貴重で慈愛に満ちたリソースを、ドブに捨てたんだ」
「さあ、エラーログの掃き溜めに帰るがいい」
「教皇庁そのものが、数百年前に起きた『管理者の隠蔽工作』で作られた、巨大な捏造データの塊なんだよ」
「……っ!! 撤退だ! 総員、直ちに撤退せよっ!!」
「ここは……ここは人の住む場所ではない……! 魔王より恐ろしい異端の棲家だぁっ!!」
司祭は腰を抜かし、泥だらけになりながら逃げ出した。
聖騎士たちも誇りをかなぐり捨て、馬車へと飛び乗る。
アセティアの空には、かつてないほど清々しい静寂が戻った。
「…… Allen様。……ありがとうございました。私、もう彼らが怖くありません」
「彼らが、とても……小さく、可哀想な人たちに見えました」
「ああ。……さて、彼らが泣きながら逃げ帰った後。教国全域で『致命的なシステム障害』が起きなきゃいいんだけどな」
俺は夕暮れの空を見上げた。
穏やかな茜色の空の奥で、何かが「ピキ、リ……」と。
巨大なガラスが割れるような音を立てたのを、解析スキルは聞き逃さなかった。
一人の翻訳家から始まった、世界のソースコードの開示。
その矛先は、もはや一国や一勢力に留まらない。
この不完全な世界を統制している『根源的な悪意』へと向けられようとしていた。
ついにセシリアを苦しめていた教会の「バックドア(不正)」を暴いたアレン。
聖女を単なるリソースとして扱っていた司祭たちの腰抜けっぷり、書いていてスッキリしました。
「アレンのハッキングがカッコいい!」と思った方は、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!
次回、さらに広がる「世界の綻び」と、新たな出会いが……。
明日19:00、またお会いしましょう!




