8 小さくて、大きな変化の始まり
俺とリトは多くの魂の受け皿となった存在になり、行動を開始した。
この力が少しでも平和や平穏に繋がる事を祈りながら……。
そして俺たちはもっとも近かった三大国の一つである、世界樹があるエルフが多く住む国へと向かう。
「お前は……お前は一体何者だ!!」
俺たちがエルフの国の王都へ着いた時、出迎えたのはかつてのリーダー……エルフの勇者ロエルだった。
ロエルは魔法で宙に浮き、驚いた顔で俺たちを見ている。それもそうだろう。
俺たちの周囲には精霊に英霊、そして亡者共が居るんだからな。
『久しぶり、ロエル』
「……その声、いやその姿に胸に居るのはまさか……レウルとリトなのか?」
『覚えていてくれたのか』
「覚えてって、お前たち一体どうしたんだ!? なんだその……その醜悪な姿は!!」
『どうした? それはこっちが聞きたい……なぜ、戦争は続いてるんだ?』
「!?」
俺たちの問いに、ロエルは目を見開いた。
『俺たちは戦争を終わらせるために戦った……犠牲を出した。今、お前たちは何をしているんだ?』
「それは……」
ロエルの戸惑いを肌で感じる……。
「仕方ないんだよ。こうするしか……やらないと俺たちがやられる。殺されるわけにはいかない」
『……ずっと、そうやって殺し続けるのか?』
「……」
『いつ終わる? どれだけ殺し、どれだけ奪い、どれだけの年月が経てば、それは終わるんだ?』
「レウル……俺たちは……」
『魔王討伐で死んでいった、みんなの言葉を覚えているか?』
「忘れるはずがない」
俺たちはその言葉を聞いて、顔をロエルに近づけた。
今の俺たちは全長500メートルほどあり、ロエルがとてもちっぽけに見える。
『本当か? 平和な世の中に、戦争で死ぬ奴が出ない世界にしてほしい。そう言っていた。ロエル……』
「……何だ?」
『今、お前はそいつらに胸を張って平和になったと! 誰も戦争で死んでいない世界だと、本当に言えるというのかぁああ!!』
「!!」
魔力を含んだ俺たちの怒号が大気を揺らした。
『死んだ魂が言っている! こんな世界の為に死んだのではないと! こんな未来を求めていた訳ではないと! 戦争を起こす存在がただ憎いと!!』
「俺たちは……俺たちは」
『答えろロエル!! 死んでいった者の魂を侮辱し、想い冒涜し。今を生きている者の命すら踏みにじっているお前たちは、何様のつもりだぁああ!!』
俺たちが叫んだその時、エルフの国ある世界樹が光り輝いた。
「!? あれは……女王様! まさか世界樹の力でレウルたちを? レウル、逃げろ! 女王様はお前たちを殺す気だ!!」
ロエルが輝く世界樹を見て俺たちに叫んだ。
やがて世界樹に高密度の魔力が集まると、巨大な光線が俺たちに向けて放たれる。
世界樹は世界の切り札とも言われるほどの産物。
エルフたちはそれを後ろ盾に、大きな影響力を持っていたが……。
『無駄だ』
俺たちは二本の手を前に出し、結界を張った。
光線はいとも簡単に防がれ、俺たちには傷一つ付ける事ができない。
「なっ……そんなバカな」
ロエルが目を見開いて驚いていた。
……当たり前だ。
『俺は……私は……我々は、恨み、辛み、悲しみ、嘆き……その全ての集合体。戦争が……お前たちや俺たちが殺していった存在の全て!!』
リトが顔を上げる。
俺の胸が裂け、巨大な人型のリトが俺を横から抱きしめた。
その光景に周囲が一斉に騒めき出した。
俺とリトは手を世界樹に向け、お互いに三対六枚の骨の光の翼を広げる。
『罪を認めず! 見ようともせず! 償おうとすらしない!! 全ての怨嗟の前に、そんな樹など……ただの雑草に過ぎない!!』
俺たちの手から放たれた黒い魔力の光線が世界樹に向かう。
世界樹の周辺に結界が張られたが、一瞬で砕かれると世界樹を中心に大きな爆発が起こり消滅した。
「そんな……こんな事が。あそこには女王様が、世界樹がこんな簡単に」
ロエルが驚愕した表情で呟いていた。
まだ分からないのか? 俺たちが何であるかを。
『これがお前たちの……俺たちの罪なんだよ、ロエル。俺たちは殺し過ぎた。別の道を模索せず、簡単な方へと逃げ過ぎたんだ』
「……レウル、リト。お前たちは何をする気なんだ?」
『戦争の元となる存在を滅ぼす。それを憎んでいる魂たちと共に』
「まさか……世界を滅ぼすのか?」
『滅ぼしはしない。言った通りだ。世の中には戦争を本気で止めようとした者もいた。そいつらは……これからの世界にきっと必要だ』
「要らない存在があると?」
『そうだ。結局、金や権力、そして強い存在が世界の在り方を決め過ぎた。世界は……みんなで責任を持ち、進み、決めるべきだったんだ』
「全ての命には生きる権利がある。そうじゃないのか?」
言いたい事は分かる。でもそうじゃないんだよ……。
俺たちはゆっくりと首を横に振った。
『全ての命に生きる権利なんて無い。そんな者を掲げるから、何をして許される……仕方がない。そんなクソみたいな言い訳ができる』
「じゃあ、俺たちは何の為に生きているんだ?」
『ただ死にたくないからだ。だから、他者を犠牲にして必死に生きる。それは償えない罪。忘れてはいけない事』
「……罪、か」
『俺たちが守ってきた者も、弱いから守られるんじゃない。命を張ってでも守りたいと思う奴がいるから守られる。守られて当たり前な奴なんて存在しない』
「……」
ロエルは暫く無言だったが、やがてどこか諦めたように俺たちに言う。
「……どうしてこうなっちまったんだろうな。この三大国の戦争で、かつての仲間を手にかけたよ。俺はもう戦う意味なんてとっくに失ってたのに」
『ロエル……』
「生きたいから必死に生きる。本当にその通りだ。どうして……世界は平和になってくれない」
『……その道は俺たちが作る。ロエル、お前は生きて、みんなを導いてくれ。全ての罪は、俺たちが引き受ける』
「レウル……リト……。そうか、俺が……俺たちがお前を作ってしまったんだな」
静かだった……。
ロエルが何かを考えるように目閉じて再び開けた時、その瞳に強い意志を感じた。
「レウル、それはできない。分かるだろ? この世界の未来はもっと別の奴が作るべきだ。俺はもう、罪と血に塗れすぎた」
『ロエル……』
「だが、最後まで生きる事には足掻こう! お前の言う通り、必死にな!!」
ロエルが俺たちに剣を向ける。
そうか……お前はお前の道を最後まで行くんだな。
なら、俺たちもそうしよう。お前の罪も魂も受け入れるよ。
『……来い! 我々は怨嗟を救済する!! この世界に終わりと始まりを作る!!』
そして、俺たちはロエルと戦った……。
戦力差は圧倒的で結果など分かっていたはずだが……アイツは最後まで立ち向かってきた。
立派だよ……あんたは本当に勇者だ。俺たちなんかとは違ってな。
******
俺たちは、三日で三大国のうち、二つのほとんど滅ぼした。
どれだけ殺したかなんて分からない……。
そして、最後の大国に来た。
その国は、俺が生まれて捨てられて育ったスラム街がある国。
本当にうんざりする……。
それは、あまりにも予想できる事だった。
「これを見ろ化け物! いや、魔王め!!」
俺たちが王都の着いた時、騎士団の団長らしき奴が開口一番に叫んだ。
すでに俺たちはこの世界で忌むべき存在の魔王になっていた。
中には俺たち擁護する人たちも居たが、そのほとんどは大国に虐げられた者や小国の人だった。
「お前たちが誰かはすでに分かっているぞ! これを見ても手を出せるか!?」
騎士たちが剣を構える前には、みすぼらしい恰好をした人たちが見える。
スラム街の人間であるのは、一目見て分かった。
『……』
その中には見知った顔もある。
俺たちが暫く見つめると、スラム街の人たちが叫んだ。
「レウルなんだよな!? 俺たちの事は気にせずヤっちまえ!! どうせコイツらは俺たちの事をゴミ以下としか見てねぇ!」
「そうだ! お前が世界を変えるなら……俺たちは喜んで死ぬぞ!! 俺たちみたいな奴が出る世界はもうたくさんだ!!」
「黙れクズどもが!!」
騎士たちが声を上げた人たちを殴り倒した。
本当に……どうしようもねぇな。
「聞け魔王よ! その力を我が国の為に使うのだ!! そうすれば、富も名声もそして、こいつらの命も補償してやろう!!」
『……死ね』
俺たちは騎士たちが居るすぐ傍に亡者たちを召喚する。
地面から這い出るいように出て来た骸骨や亡霊たちは、次々に騎士たちだけを殺していった。
騎士たちは無様な悲鳴を上げながら死んでいく。
実に滑稽だ……。
『行け。ここから離れろ』
「レウル……」
『世界を頼む。痛みや悲しみを知っているお前らなら、同じ奴は作らないだろ? だから、行ってくれ』
「……分かった! お前も後で絶対会おうぜ!! リトって恋人をちゃんと紹介しろよな!!」
俺たちは亡者たちに護衛させながら、人質になっていた奴らを逃がした。
その時、残りの兵全てで守りを固めている王城から、魔法で年老いた国王が俺たちに語り掛ける。
「騎士たちが勝手な事をしてすまない! 私は止めたのだが、奴らが勝手にやったのだ!!」
開口一番言い訳か。実に王らしい。
「魔王よ……いや、我々はあなたを神と未来永劫称える! どうかその力で我らを導いてくれ! すでに二大大国は無く、今こそ世界を支配し、真なる平和を!」
『……そうだな。真なる平和を求めよう』
「おぉ! 分かってくれるか! 流石は我らの守り神だ!!」
俺たちは喜び叫んでいる王とその側近たちが居る王城へ、手から一つの黒い光の球を飛ばした。
球が王城に着いた瞬間、大爆発を起こし、城と周辺を吹き飛ばす。
これで平和になったな。
静かだった……。
突然の事に周囲にいる人たちは、抉られぽっかりと穴が空いてる元王城跡を眺めている。
やがて、泣き声や悲鳴。人々が我先にと逃げ惑う。
これで終わった……。
三大国の戦争を無駄に起こしたバカどもは消してやった。
「で、出て行け!!」
不意にそんな声が聞こえた。
足元辺りを見る。
小さな男の子が俺たちに向かって、泣きながら石を投げつけていた。




