7 怨嗟を救済する者
コード:リトが発令され後、大蛇になったリトにレウルが飲み込まれた。
レウルが居た場所には、黒い卵のような物が脈打ちながら光っている。
「今のは……レウル様とリト様の過去?」
ホテルの屋上でケイが呟いた。
その場にエニとジンも集まる。
「声というよりは、頭の中に映像が入って来る感じでしたわね」
「……教えても良いって事なんだろう。ご丁寧に名前もな」
三人は上空にぽっかりとまるで穴が開いた様に浮かんでいる、黒い光を見つめていた。
そしてジンが職員に指示を飛ばす。
「全員、アレが来るぞ。留意しろ。我らが支部長の本領発揮だ」
そう、ジンが言い終えた瞬間、
『あ゛ぁぁ……あ゛ぁあ゛あ゛!!』
黒い光から何重もの暗く低い雄叫びのような声が周囲に響き渡った。
やがてそこから真っ黒な血のようなモノが流れ出し、巨大な手が出て来る。
それは黒い光を引き裂いて姿を現した。
下半身は銀色の蛇、巨大な二本の腕、背中には骨だけの翼が三対の六枚。
上半身は半裸のレウルだが、その目は青い複眼になっている。
そしてその大きさは優に500メートはあった。
そしてレウルの胸元には、下半身が埋まっている小さなリトが上半身を覗かせていた。
レウルとリトの左胸には、短剣で刺された傷跡が残っている。
『よっしゃぁあっ!! さすが支部長! 今回もキマってるぜ!!』
職員の誰かの通信が飛んだ。
それを皮切りに次々と職員から歓喜の声が飛び交う。
「あの姿、久しぶりですわね……」
エニが変わり果てたレウルを、恍惚とした表情で見ていた。
レウルとリトの重なった存在が口を開く。
『俺は、私は……我々は怨嗟を救済する。グラーク……その恨みと悲しみを受け止めよう。そしてそれすらも拒み、苦しむのなら、終わり持って救済する』
レウルが二本の腕を大きく広げた。
『共にゆく者たちよ……始めよう』
次の瞬間、レウルの周囲に六つの精霊に英霊、さらに地面からは数えきれないほどの亡者や亡霊たちが湧き出て来る。
精霊は全てが本来の姿を現していた。
「やはり、この姿が一番落ち着きますね」
土の精霊スオは、玉座に座った茶色で短髪の少年。
「たまには真面目に運動しようかな……」
水の精霊ネロは、水色で目が隠れているマッシュルームカットで、透明な水球の中に居る青年。
「よぉし血が、炎が滾るぜ! レウルの奴もやる気だし、やってやるか!!」
火の精霊イニスは、赤く長い髪が燃えており、服も炎と化している女性。
「ヘイ! やっちゃうぜ! 小さいからって俺を舐めると痛い目みるからな!」
風の精霊アイレは、緑色の短髪で男の子だった。
周囲にはオモチャの剣や銃、ヌイグルミなどが浮いている。
「怪我人はいないかな? いない? じゃあ、私が怪我させて治してあげるっ!」
治癒の精霊ラピアは、ピンク色で短髪の女性。全身が黒い服のズボン姿。
その手には巨大なハサミが握られ、腰には針や注射器が備え付けられていた。
「おーほっほっほ! この美しい私を刮目し、そして斬り刻まれなさい!!」
光の精霊ルーメは、金髪で長髪の女性。
白と赤色のドレスをまとい、手には一本の白い大剣が握られている。
「あいつらのあの姿を見んのも久しぶりだな」
「普段はあまりあの姿では出てこないですからね」
ジンとケイが感慨深く精霊たちを見ていた。
そして、精霊や亡者たちが一斉に小型戦闘機に攻撃を始める。
職員や協力者、民間人を守りながら戦っていた。
「お゛おぉお゛ぉ!!」
敵の戦艦タギサが、レウルと似たような声を発した。
そして倒された数以上の小型戦闘機を周囲に放つ。
『無駄だ……』
レウルが言うと、口を大きく開いた。
口の頬が裂け、本来以上にさらに口が開かれる。
『あ゛あ゛……あ゛ぁぁあぁあ゛!!』
その口から、心が震える様な濁った声が響き、同時に黒い魔力の衝撃波が周辺に飛んだ。
一瞬でタギサの副砲と、周囲へ放った小型戦闘機が赤い光となって消える。
『レウル支部長の攻撃で、周辺小型戦闘機は消失! 今のうちに残っている民間人の保護と体勢を整えて下さい!!」
司令部から職員へ情報が飛んだ。
職員たちが一斉に動き出し、レウルの攻撃にタギサは後退しようとする。
しかしレウルは巨大な二本の腕でタギサを掴むと、鋭い爪を食い込ませて動けなくした。
それでもタギサは逃げようとするが、
『タギサ主砲に超高密度魔力反応!! 前回の比ではない主砲がきます!!』
司令部がそう告げた瞬間、タギサの前方にある主砲から、レウルの胸……リト目掛けて巨大な赤黒い矢が放たれた。
矢は一直線にレウルの胸元にいる、リトの元へと向かう。
その時、リトが顔を上げた。
両目の青い複眼はタギサを凝視し、そしてレウルの胸が縦に裂けるとおよそ400メートルはある大蛇へと姿を変える。
大口を開けた大蛇のリトは、難なく巨大な矢を飲み込み、そのままタギサのコアへと向かい、正面から噛み砕いていった。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁあ!!」
タギサが悲鳴を上げる。
レウルに掴まれ身動きが取れないタギサは、次々とリトに食われていった。
そしてあと少しで弱点のコアに辿り着こうした時、その姿を無数の小型戦闘機へと分散させる。
『え……これはっ!! タギサ、自身を小型機へと変化させました。その数……およそ数十万機!! コアはその中の一つです!』
司令部からの情報を聞いた職員たちが、一斉に空一面を埋め尽くす小型戦闘機を攻撃し始めた。
ケイたちも攻撃するが、数が多すぎる事に加え、戦闘機の動きがおかしい。
『そんな……グラークは逃げる気です! 恐らくどこかで集まってタギサとして復活しようしています! 逃がさないで下さい! コアの破壊を最優先に!』
全員が攻撃を開始するが、あまりの数に手が足らなかった。
『……逃がさない』
レウルが呟く。
レウルと繋がっている大蛇だったリトの上半身だけが人型になる。
リトはレウルをそのまま抱き締め、レウルとリトの顔が交差した。
そして二人は頬が裂けるほど口を開く。
『お゛お゛ぉ……お゛ぉ』
二人の静かで深く暗い声が、黒い魔力となって共鳴し始めた。
その時、リトの背中からも三対六枚の骨の翼が現れる。
レウルとリトの骨だけの翼には黒く光り輝く羽が現れた。
やがて広げられた翼は、天を貫くように上方へと向けられる。
そして……。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!』
魂を裂くほどのレウルとリトの濁った声が共鳴した。
二人の頭上に黒い光輪が現れると、衝撃波と共に一瞬で周囲へと広がる。
それは小さいとはいえ、常夏の大陸エスタス全土に及び、大陸全土に居た小型戦闘機の全てが消滅。
そして静寂が訪れた……。
暫くして、レウルとリトはキスをするように顔を近づけると、リトはレウルの中へと還った。
やがて精霊たちも消えてレウルも普通の人型へと戻る。
レウルが静かな口調で、司令部と通信を始めた。
「司令部、レウルだ。状況報告を」
『あ……は、はい! 先ほどの攻撃で……エスタス大陸にいたグラーク、全て消失しました。コアも含まれており、各国からグラーク消失の報告が入っています』
「被害状況は?」
『負傷者少数、全員軽傷。死者の報告はありません。建物の損壊も軽微との事です』
「分かった。通信をオープンに。みんな伝えたい事がある」
『承知しました』
レウルは一度大きく溜め息を吐いた。
「これを聞いている全員に告げる。今回、幸い死者も出ず、街の被害も軽微で済んだのは、みんなが協力してくれたおかげだ……心から感謝する」
そして、レウルは自分を見ている職員や協力者、シェルターから出て来た多くの人を上空から眺める。
『ありがとう』
レウルとリトの声が重なった……。
しばしの静寂後、周囲からは盛大な歓声が巻き起こる。
「ジン……聞こえているか?」
「聞こえている。お疲れ様、レウル支部長」
「……あとは……まかせ……た」
急にレウルの声が荒くなり、途切れ途切れになる。
そしてその身体がふらつくと、意識を失ったレウルは地面へと真っ逆さまに落ちて行った。
『!!』
ケイ、エニ、ジンが咄嗟にレウルを救おうと飛び出す。
地面へと近づくレウルだが、その時に身体から人型のリトが現れると、レウルを抱き締めてゆっくりと地面へと降り立った。
その時、小さな拍手が響く。
「いやー、お疲れちゃん! さすがレウルとリトね。もう、大満足よっ」
拍手をしながら満面の笑みを浮かべるニフスが居た。
ニフスはレウルを抱き締めているリトに近づくと、手を差し伸べる。
「預かるわよ。お礼に治療してあげるから」
「……」
無言でニフスを見つめていた無表情のリトのすぐ傍から、銀色の大蛇が現れ、ニフスへ噛みつこうとした。
しかしニフスは周囲に結界を張って防ぐ。
ガリガリと大蛇の鋭い牙が結界を少しづつ削って行くが、
「もう、そんなプリプリしないでよ」
笑顔のニフスが一本の指を立てて振った瞬間、大蛇は光の粒子となって消滅した。
リトの行動を特に気にも留めないように、さらにニフスは近づく。
そして囁くように言った。
「楽しかったでしょ?」
「……」
「でも何より……幸せだったよね?」
最後に目を細めてニフスが笑う。
暫くしてリトも微笑むとレウルをニフスへ渡し、その身体へと還っていった。
リトとニフスのやり取りに一時周囲が騒然となったが、ケイたちがニフスに近寄る。
「あの、ニフス様。さっきのは一体?」
ケイが戸惑い気味に聞いた。
「ん? ああ、じゃれ合ってただけよ。気にしない気にしない。ほら、返すよ」
レウルの身体一瞬光りに包まれ、ニフスはケイにレウルを渡した。
「普通なら2、3日は寝込むけど、早ければ今晩。遅くても明日には起きるわよ。じゃ、看病よろしくー」
手をヒラヒラさせたニフスは光の粒子となって消える。
こうしてS級グラーク・タギサとの戦いの最後は、リトとニフスのじゃれ合いで終わる事になった。




