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ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
最終話 レウルとリトの過去と今とこれから
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6 共にゆく者たち

 リトが急に死にたいと言ってきた。

 俺があまりの事に言葉を失っていると、リトが俺を見て微笑む。


「声がね……ずっと聞こえるの。三大国の戦いが始まった時からずっと」

「死んだ奴の声か?」

「うん。でも最近のだけじゃない。魔族との戦いが始まった頃、100年も前の声も……」

「何て言ってんだ?」


『許さない……戦ったのは、死んだのは、こんな世界の為じゃない』

『悲しい……これでは死んだ意味がない』

『憎い……こんな世界にした全ての存在を』

『救ってほしい……自分たちの想いを、魂を……』

『平和と幸せを阻む全ての存在を……恨み、殺し、そして終わらせたい』


 俺は何も言えなかった……。

 なぜなら、それは俺も感じていた。

 特に三大国の戦争が始まってから、世界を守る精霊や英霊がずっと憤っている事を……。


「レウル、だから私は死のうと思うの」


 未だにその意味だけが分からない。

 一緒にではなく、リトだけが死ぬ意味が。


「死んで、どうすんだ?」

「救ってくる」

「救う?」

「うん。知ってるよね? 私の魂の一部はずっと冥界にあるって」

「ああ、それは知ってるが……」

「だから、私自身も冥界……地獄へ行って悲しみ、嘆き、恨んでる魂と共に在ろう思うの。貴方の精霊たちのように」

「……俺を置いていくのか?」


 情けない……俺は一人になるのが怖かった。

 しかし、リトは首を横に振る。


「還って来るよ。私は地獄のどこにいても救いを、願いを求める魂と一緒にレウルの所に戻って来る」

「それは……死んで戻ったお前と契約しろって事か?」

「うん。でも……私が正気を保てるか分からない。きっと魂の数は最低でも数百万だから」

「バカか」


 不可能だ。そんな数の怨念を、たった一人で背負える訳がない。

 すぐに発狂して死ぬ。いや、下手すれば死ぬ事すらできず狂い続ける。

 何より……。


「なぁ、もう良いんじゃないか?」

「良いって?」

「このまま二人きりでどこか行こうぜ。俺たちが頑張らなくてもいいだろ?」

「……」

「二人きりで平穏に暮らせればいいじゃないか。俺はお前がいれば良い」

「レウル……」


 どうしてそこまでリトがしなくちゃならない?

 俺たちは十分傷付いた……。

 もう……世界がどうなったって良いじゃないか。

 しかし、リトは首を横に振った。


「本当はレウルも分かってるよね? もうこの世界に平和な場所は無いって」

「……」

「この世界は慣れ過ぎたの。長い戦いの中で」

「何に?」

「……殺す事に。命を命と感じない事に」


 それは分かっていた。

 事故や病気じゃない。戦争で毎日誰かが死んでいく。

 いつしかソレは、ただの数字になっていた。

 その数字にどれだけの悲しみがあるかなんて、みんな考えない。

 違うな……ずっと目を逸らしていただけだ。

 俺たちも……。


「それにこのままだと、私たちみたいな子供で溢れちゃう。ううん、もっと不幸な人たちも。レウルはそれで良いの?」

「それでって……」

「レウル、ずっとお金はスラムの知り合いに送ってたよね? 少しでも楽になるようにって」


 魔王討伐のパーティに入った時から、俺はお金だけは必要最低限のみ残して全部スラムの知り合いに送っていた。

 少しでも同じ奴が楽になれば良いと思って。


「今のままの世界じゃダメなの。恨みと悲しだけが増えていく。だから……殺さないといけない」

「殺すって……まさか全て殺すってのか?」

「違うよ。殺すのは幸せと平和を踏みにじっている者だけ。自分だけは幸せになっても良いって、何をしても許されると思ってる者たち」

「……それで、世界は変わるのか?」

「分からない。でも、今より悪くなる事はないんじゃないかな? そこは、生き残った人に頑張ってもらわないとね」


 笑顔でさらっとリトが言い切った。

 コイツはたまにビックリする事を平気で言う。さらに本気だからたちが悪い。

 だが、言いたい事は分かる……。


「それで、結局どうすりゃ良いんだ?」

「なんとか私が狂わない方法がないかな? それで怨念を正しく使える」

「怨念を正しくって、なんだよそれ」

「無差別に何かを傷付けないようにするの。恨みや悲しみの力が、同じ恨みや悲しみを作る存在を滅ぼす力に変えるように」

「要は、リトが怨念の受け皿になって、力の方向性を付けるって訳か」


 俺が簡潔にまとめると、リトが満足そうに頷いた。


「だから、なんとか方法が無いかな? 何百万、あるいはそれ以上の怨念を受け止め、救えるように」

「……ない。訳ではない」

「ホント!?」


 久しぶりにリトの笑顔を見た気がする。

 こんな言葉で笑顔になるなんてな……俺の恋人はホント変人で立派だわ。


「ただ、絶対じゃない」

「どうすればいいの?」

「俺がお前を殺す」

「?」


 リトが不思議そうな顔をした。

 いや、お前が死ぬとか言った時、俺もそんな顔してたからな?


「あー、説明するのは難しいんだが……」


 俺はいつも持っている護身用の短剣を取り出し、リトに見せた。


「俺がこれでリトを殺す。その時に魂の一部をコイツに移す。それでリトは冥界へ行っても、この魂を目印に還ってきやすくなるハズだ」

「それで?」

「恐らく、お前が正気を保てるのは短い。完全に狂う前に今度はこれで俺を刺してリトの魂を俺に入れる」

「うんうん」

「で、リトの魂が入った分の俺の魂をお前に入れて、それを契約とする。魂の一部を交換するんだよ」

「? それでどうして狂わないってなるの?」


 今改めて思った。魔法とかって、口で説明するとすげぇめんどくせぇな。


「狂うっていうのは、結局自分を認識できなくなるからだ。分かるな?」

「まぁ、そうだね」

「俺たちは魂を一部交換して、お互いを認識し合う。俺はお前を、お前は俺を知っていると。だから、自分を見失うなって励まし合う感じだな」

「あー、なるほど。なんとなく分かった」

「……だが、さっきに言ったが絶対じゃない。魔法も複雑で失敗するかもしれないし、成功してもやっぱり狂うかもな。お互いに」

「レウルも狂うの?」

「当たり前だ。魂を交換する以上、俺も確実に影響を受ける。だから……死ぬ時は一緒ってわけだな」


 俺は笑顔だった。

 自分でも不思議なくらい、心が穏やかだった。

 そうか……一人じゃないなら、それも良いな。


「レウルはそれで良いの?」

「なぁ、リト。お前は俺と居て『最高に幸せ』だったか?」

「……うん、もちろん」


 リトが微笑んで答える。


「俺もだよ。だから……共にゆこう。魂が果てるその時まで」

「ありがとう。レウル、大好きだよ」


 俺たちは抱き合い、立ち上がった。

 もう……やる事は決まった。

 俺はリトと口付けをする……。

 そして、そのままリトの心臓へ短剣を突き立てた。


「っ!」


 声にならない声をリトが上げ……やがて、身体から力が消えた。

 俺はすぐにラピアで傷を癒すと、リトを地面へそっと寝かした。

 後は待つだけだ……還って来るのを。


******


 俺は一人、動かなくなったリトをずっと見つめていた。


 リトと初めて会ったのは、俺が魔王を討伐するパーティーに入った時だ。


『俺、レウル・ディレンって言うんだ。あんた確か聖女のリト・ルシオンだよな? 

 聖女様と一緒できるなんて光栄だ』


 俺はリトを一目見て分かった。「コイツはぜってぇ良い女だ」と。


 そう思って暫くして告白したら、


『チャラいのと女遊びが派手なのが嫌。また来世来て』


 見事玉砕した。

 自慢じゃないが、英雄や勇者の肩書きもあり、そこそこ俺はモテた。

 ここまで完膚なきまで振られたのは初めてだった。

 悔しかった俺は何度も何度も告白しては振られた。

 

 今思えば……酷かったかもな。

 良くリトは俺を騎士団に突き出さなかったもんだ……。

 あまりにも断られるので、俺は何がダメのかリトに真面目に聞いた事がある。

 リトは暫く俺を見ると、簡潔に言った。


『今、最高に幸せ?』


 ってな。幸せに決まってる。

 スラム街で育った俺が、今や英雄や勇者呼ばわり。

 もっとも、一部の貴族連中には『どぶ臭い』なんて、付けられて言われるがな。

 それでも、綺麗な寝床に美味い飯、そして抱ける女。

 どん底から這い上がった。

 幸せに以外に何がある? だが、俺はなぜか即答できなかった。

 満足はしている。しかし……幸せかと聞かれると分からなかった。

 無言だった俺を見てリトは笑って言う。


『一度きりの人生を、私は最高に幸せになりたいの』


 魔王討伐パーティーは最も過酷で常に死が付きまとう。

 だから俺はいつ死んでも良いように、刹那的に生きていた。

 だがそれを聞いて俺は、自分が本当は何を求めているのか分からなくなった。

 それから俺は、どんな女を抱いてもなぜか満たされなかった。

 だから止めた。

 気が付けば、リトを本気で追っていた。

 その時、何となく思ったんだ。

 リトが俺を受け入れてくれた時が、最高に幸せなんじゃないかって……。


「……お前は本当に、手ごわかったな」


 俺は地面に横たわるリトを見て呟いた。

 ようやく俺の想いがリトに通じた時は、本当に嬉しかった。

 そして、リトを抱いた時に思った。

 最高に幸せだ……それは替えの利かない、唯一のモノなんだなって。


「お前だけが居れば、結局はそれだけで良かった……」


 愛だの恋だの細かい事は良い。

 ただ、それが分かっただけで十分だった。


「!!」


 俺が持っている、リトの魂が宿った短剣が震える。

 還って来たか……。

 リトの身体が宙に浮くと、独りでに立ち上がる。


「……リト」


 俺が名前を呼ぶと、リトは目を開けて俺に近づいてきた。


『レ、レレレ、ウウウル……。ハハハヤク……』

「……」


 その声は、おびただしいくらい重なっていた。

 子供大人老人男女……。

 すでにあまり正気が無い事が分かった。

 そして俺がリトへ近付いた時、


「っ!」


 リトの身体が二つに裂ける。

 そこから出て来たのは50メートルはある巨大な銀色の蛇だった。

 身体の表面は数えきれないほどの顔や手足が浮かび上がり、瞳は青い複眼。


「リト……」


 俺はもう一度名前を呼ぶ。

 大蛇のリトは大口を開け、俺を飲むこうとするが寸前で止まる。

 そして口の中から長い銀髪で身体を覆った、上半身裸のリトが居た。


『レウル……怖いよ……寂しいよ……どこ?』


 その手が俺を探すようにさ迷う。

 後は短剣を俺の心臓に刺せばいい。

 だがその前にやる事があった。


「みんな、出てくれ」


 精霊と英霊全てを俺は召喚する。


「呼びましたか?」


 黄色い球、土の精霊スオが俺に言った。

 こいつが初めての契約した精霊だ。

 本当に……世話になったな。


「みんなに言いたい事がある。契約を解除してくれ」

「どうしてです?」

「分かってるだろ? これから俺とリトする事は……罪だ。例え世界が平和になっても、償えない罪だからだ」

「……」

「お前たちは世界のために存在する。もう、俺なんかに相応しくない。そうだろ?」


 そう、みんなとはここでお別れだ。

 怨念を得て、世界に戦いを挑む。

 とんでもない数を殺す事になる……。

 みんなを巻き込めない……これは俺とリトのわがままなんだ。


「レウル。私たちはずっと話し合っていました。これからどうするのか。私の言葉はみんなの総意と思って下さい」

「分かった」

「私たちは見限ります」

「……当たり前だな」


 覚悟はしていた。

 これからの事を考えれば、俺が見限られるのは当然。

 ただ、やっぱりちょっと寂しいがな。


「スオ。お前とは一番長い付き合いになった。最初に契約してくてさ……本当はすげぇ嬉しかったよ」

「レウル」

「なんだかんだ言って、俺に助言くれたり。ありがとな」

「レウル」

「これでお別れだけど、お前らは元気に……」

「バカレウル!! 話は最後まで聞きなさい! 貴方はいつもそうです」


 ……なんで俺、怒られてんの?

 最後くらい真面目にシメたかったのに。

 そんな事を思っていると、スオが本来の姿になった。

 玉座に座った茶色で短髪の少年姿に。


「良いですか? 私たちが見限るのは、この世界。今戦争を起こし、それを止めようとも、変えようともしない者たちの事です」

「……お前、それは」

「いい加減、愛想が尽きました。どれだけ救っても守っても、自分たちの事ばかり。踏みにじった存在を鑑みない。もう、どうでも良いでしょう」

「しかし……」

「良く聞きなさい。私たちの総意は『これからも貴方と共にゆく事』です」

「……」

「レウル。あとは貴方次第。私たちを受け入れますか?」


 何だよそれ……。

 そんなの決まってるじゃないか。


「受け入れるに決まってるだろ。俺たちは共にゆく者だ」

「なら、早くリトを救いますよ。限界が近い。それに、その魔法は貴方一人では成功率が低い。私たちが協力すれば、飛躍的に成功率は上がります」

「その通りだな。早速だが、力を借りるぞ」


 俺は今にも俺自身と魂を飲み込み、吸収しようしているリトを見つめた。


「リト、そして共にいる魂全て。俺たちと行こう。その魂が果てる時まで……」

「レ……ウル……っ!」


 そしてリトが俺を抱き締めながら飲み込み……持っていた短剣を自分の心臓へ突き立てる。

 魂が一つになっていくのが分かった。


『さぁ……その恨み、悲しみ、嘆きを……救済しよう』


 俺とリトの声が重なる。

 そして俺たちは『ソレ』になった……。


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