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ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
最終話 レウルとリトの過去と今とこれから
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5 平和が無い世界

 かつての魔族の土地を巡って、三つの大国が戦争をおっぱじめやがった。

 すでに戦争が始まって三ヶ月は経つ。

 他にやる事ねぇのかよ……。

 魔王が居なくなれば、平和になるんじゃなかったのか?

 魔王と呼ばれていた奴の言った事が、今更になって分かった。

 良く考えれば、戦争中の魔族は変だった。

 こっちから攻めれば守りはするが、向こうから襲って来る事は無かった……。

 いつも襲っていたのはこっち側だ。


「おーい、リト。ガキどもは?」

「みんな手伝いをしてるよ。レウルもこっちを手伝って」

「へいへい、今行く」


 そして俺とリトは王都から離れた小さな村で一緒に暮らしていた。

 もう、誰かの命を奪う事は嫌だった……。

 魔王討伐後に貰った金を使い、少し大きめの家を買って孤児院にした。

 俺やリトと同じような戦争孤児や、俺が居たスラム街からも協力者と一緒に何人か連れて来た。

 魔王討伐時の仲間たちのほとんどは故郷に戻り、そして戦争に加担した。

 仕方ねぇさ……あいつらには帰る場所も守る場所も人も居る。

 ただ全員ではなく、何人かは行方をくらましたって聞いたな。

 俺たちみたいなもんなんだろう。


「レウルー、今日は何が食べたい?」

「あー、そういや誰かシチューが食べたいって言ってたな。俺もそれが良いな」

「分かった。材料はあったから作るね」

「無かったら採ってくるよ。精霊に任せれば速攻で揃うからな」


 本当ならもっと街中でしたかったが、周りがあまりにうるさすぎた。


『戦争が始まったのだから、加勢しろ』

『力があるのなら、弱い国民を守れ』

『何のために魔王の時に援助したと思ってるんだ』

『弱い者の為に命を使ってこそ、強い者だろう』

『何もできず死んだ役立たずとは違うはずだ』


 本当に好き勝手クソみたいな事を言われ、それが嫌でここまで来た。

 ここに住む村人たちも俺たちと同じように、戦争が嫌でひっそりと住んでいる人たちだった。

 事情を説明すると快く受け入れてくれた。

 みんなもう疲れてるんだ……。

 今では精霊や英霊も、元気なガキたちの良い遊び相手で、村のためにも協力している。

 大した魔物もこねぇから、村を守るのも自警団と俺だけで十分だ。


「あ、そうだ。遊んでる子を呼んできて。手伝わせるから」

「働かざる者、食うべからず、だな。分かった呼んでくるよ」


 ほとんど自給自足だが、のどかで自然豊か……生きていく分には問題が無い。

 ただリトの事は気になっていた。アイツを育ててくれた教会はもう無い……。

 三大国の戦争が始まった当初、教会は中立の立場で戦争を止めようとした。

 だが……教皇が暗殺された。

 三大国はお互いに責任を擦り付け、今度はそれぞれと関係の深かった教会関係者が『自分こそが次の教皇だ』と名乗り出た。

 お互い認めるわけがねぇ……。

 結局教会も三つに別れ、もうリトを育ててくれた教会は無くなった。

 アイツは帰る場所を、故郷を無くした……戦争が全部奪っていきやがった。


 神が居るなら教えて欲しい。

 どうやったら世界は平和になるんだ? どれだけ命を失えばいい?

 幸せには……どれだけの不幸が世界には必要なんだ?


「……殺したい奴も、死にたい奴も勝手にすればいい」


 俺は遠くで楽しそうに遊んでいるガキ共を見る。

 ここではそんな事、関係が無い。

 慎ましくても、平和で幸せな時間だけが流れている。

 もう良いじゃないか……勝手に殺し合って勝手に滅べばいい。

 俺たちにはどうでもいい事だ。


 だが、世界はそれを許さなかった。

 まるで自分たちだけが幸せになる事は、罪だと言うように……。

 

******


 ある日、街で買い出しを終えてリトと村へ帰っていた時だった。


「レウル……あれ」


 リトに言われて村を見ると、煙が上がっている。


「……走るぞ」


 嫌な予感がして、俺たちは慌てて村へ走った。

 そして着いた時、村は至る所が燃えていた。

 それだけじゃない……無造作に死体が放置されている。

 少ないが子供の死体も……。


「そんな……どうして!」


 リトが血を流している村人に近づくが、すぐに首を横に振り、その場に座り込んだ。


「おい! 誰かいないのかっ!!」


 俺が生存者を探そうと声を上げる。

 その時、物陰から大勢の人影が出て来た。

 一瞬ほっとしたが、全員が紋章が刻まれたゴツイ鎧を着ている。


「マジかよ……」


 それはこの国の騎士団が着る鎧だ。


「何だ? まだこんな所に人がいたのか」


 騎士たちが俺たちに剣を構えながら囲む。

 リトはショックから動けず、静かに騎士たちを見つめていた。


「お前ら、この国の騎士だよな? なぜこんなことをした?」

「こんな事だと? 良いか、今我が国は戦時中なのだ。人や物資がいる。ここの奴らはそれを拒んだ。当然の報いだろう?」

「何言ってんだ。王や貴族連中が勝手に始めた戦争だろうが。俺たちに何の関係がある」

「あるに決まっているだろう! この国の物は全て王や特権階級を持つ者たちの所有物だ! お前たちは騎士である俺たち従う義務がある!!」


 目の前の騎士が、自分に酔ったように言う。

 胸糞わりぃ……。


「だからって殺したら意味ねぇだろ?」

「これは見せしめだ! こいつらの死体は街で野ざらしにされる。協力しない者はこうなるとな!」

「どうして……そんな酷い事ができるの?」


 リトが震えた声で騎士に聞く。

 すると暫く騎士はリトを見ると、何かに気付いたようだった。


「ん? 服装は違うが銀髪に青い瞳……その姿、もしかして聖女リト様では?」

「……昔はそう呼ばれていました。教会無き今は、ただのリトです」

「貴女がリト様だと言う事は、もしかし隣に居るのはレウル様ですか?」

「そうだ」


 俺たちが答えると、急に騎士たちは顔を綻ばせた。


「これは運が良かった! ずっと探していたのです。どうか王都までお越しください。王が戦争への参加をご希望されておられます」


 なるほど、そういう事か……。

 それが嫌で離れたってのに、最悪だな。


「断る。そう陛下には伝えてくれ」

「何をおっしゃるのですか? あなた方は強い。その力でどうか弱い我々を守り、敵を葬って下さい。その為の力ではありませんか!」


 こいつら何を言ってるんだ?

 なぜまず自分で何とかしようとしねぇんだ。

 頼る事が当たり前だとでも?

 それで誰が傷付いて苦しむのか、それすら分からねぇのか。


「もう一度言うぞ。断る。このままここの事は黙って帰れ」

「それはできません。どうしてもと言うのなら……多少、強引にでも来ていただきます」


 騎士たちが剣に力を込めて俺とリトに向けた。


「最後だ。死にたくないなら消えろ……」

「残念です。おい、男は最悪殺してもいい。女は殺すな。いろいろ使い道がある」

「っ!」


 リトの息を飲む声が聞こえた。

 そうか……もう、ダメだなこいつらは。


「かかれ!!」

「死ねよ」


 騎士たちが一斉に俺に向かって来る。

 だが、結局は何もできず俺の精霊たちに全て殺されていった。


「リト、もう大丈夫だ……」

「うん……」


 周囲が静かになると、リトは俺の手を取って立ち上がる。

 まずは、生き残りを探す事にした。

 一応何かあった時の為に魔法で隠し部屋をいくつか用意してあり、幸い孤児院の子供も村人もそこに居た。

 だが、生き残ったのは半分くらいしかない。殺された中には子供もいる。


「これからどうするの?」


 リトが生き残ったみんなの気持ちを代弁するように聞いてくる。


「もう、ここには居られない。考えがあるから、少し待っててくれ」


 俺はそう言って風の精霊のアイレを出す。

 そして、ある場所に向けて魔法の風を流した。

 正直……来てくれるかどうかは分からないが、藁にもすがる思いだった。

 師匠への緊急連絡。

 ずっともう会ってないが、あの偏屈な師匠が果たして来てくれるかどうか……。


「数年ぶりに連絡を寄こしたと思ったら、緊急連絡とはな。バカ弟子が」


 やがて大きな鎌が俺たちの目の前の空間を裂いた。

 一人の肌が黒いエルフの女性が、俺に悪態をつきながら出て来る。

 師匠の召喚物の中には空間転移を得意とする存在があった。

 初めて見るリトや村人は目を見開いて驚いている。

 それもそうだろう。

 瞬間移動は超が付く高等魔法で、例え短距離でも一人で扱う事は難しい。


「……お久しぶりです」

「文句でも言ってやりたいが……」


 師匠が周囲を軽く見回すと溜め息を吐いた。


「何があった? 説明しろ、簡潔かつ正確に」


 俺は村で起きた事を説明する。

 それを師匠は顔をしかめて聞いていた。


「皮肉な事だ。まだ魔族が居た頃の方が平和だったとはな。今はもう世界がドロ沼だ。どこも同じような事が起こっている。私の所にも使者が来たよ」

「師匠の所にも?」

「ああ。もちろん、断ったがな。するとだ、家を焼こうとしやがった。だから……逆に一人だけ残して全て焼いてやったさ」

「師匠らしいな……時間が無い。頼みがあります」

「言ってみろ」

「……こいつらを、子供と村人の事をお願いします」


 何年ぶりだろうか、師匠に頭を下げるなんて。

 俺は師匠が口を開くまで、頭を下げ続けた。

 気付くと、隣にいたリトも一緒に頭を下げている。


「魂を冥界に残した聖女様か……」

『!?』


 俺とリトは驚いて顔を上げた。


「貴女は、私の事を知っているの?」

「見れば分かる。お前、魂が現世で欠けているな? だから死者の存在に敏感なのだろう。半分冥界の住人って訳だ」

「師匠は本当に……凄いな」


 リトが死者の声や存在に敏感なのには訳があった。

 昔リトに聞いたが、何でも教会に拾われる時、ほぼ死にかけだったらしい。

 何とか蘇生したが、その時に今は亡き教皇から魂の一部が冥界に残ったままだと教わったと。

 この事はほとんどの者が知らない。


「まぁいい。バカはバカでも弟子に違いない。お前の頼みを聞いてやる」

「!? あ、ありがとうございます!!」


 俺とリトは何度も頭を下げた。


「それで、お前たちはどうするんだ?」

「俺たちは……墓を建てようかと。その後の事はまだ考えていない」


 本当なら村人たちも一緒に建てたいだろうが、また騎士たちが来るかもしれない事を考えると、長く置いてはいけない。


「そうか……。レウル、精霊たちはまだお前と共にあるか?」

「はい。今も俺なんかと一緒に居てくれてる」

「いいか? 私がお前に教えた召喚術は、普通とは違う。契約で縛るのではなく、契約で共に在る事を望む。だからいつでも破棄できる代わりに、強力だ」

「……」

「まだ一緒に居るなら、その意味を考えろよ」

「はい……」

「さて、じゃあ私はこいつらを連れて行く。お前たちも気が向いたら後で来ると良い。聖女よ」


 師匠が大鎌で空間を割いてみんなを送った後、リトを見た。


「は、はい。何でしょうか?」

「ずっと死者の声が聞こえているな?」

「……はい」

「恐らく、ある事を考えているだろう。それは一人では不可能だ」

「……」

「する時はそこのバカを頼れ。きっと力になってくれるだろう」

「! は、はい!」

「だが、逃げても良いという事も忘れるな」

「……ありがとうございます」

「私のバカ弟子の事をよろしく頼む。そいつバカだが……可愛いバカだからな」

「なっ!」


 俺が抗議する前に、師匠は軽く笑うと切り裂いた空間へ姿を消した。

 最後まで言いたい放題だな……だが、来てくれて本当に助かったよ。

 あんたはいつも、本当に助けてほしい時は来てくれる。

 俺にはもったいないくらい、できた師匠だ。

 だが一つ、俺には疑問があった。


「リト、師匠が言った考えている事ってなんだ?」

「……後で話すよ。まずは墓を作ろう」


 リトが笑顔で俺に言うが、その目は何かを決意しているように見えた。


「……そうだな。ゆっくり、寝てもらおう」

「うん」


 そして俺はまず水の精霊ネロで火を消し、治癒の精霊ラピアで亡くなった人たちの傷を綺麗にしてから墓を作り始めた。

 リトと他の精霊や英霊も手伝い、すぐに終わる。

 リトが騎士たちの墓も作ると言ったので、納得はできなかったが別の場所に作る事にした。

 墓を作り終わった俺とリトは、地面に座って寄り添いながら、墓を無言で見つめていた。


 夕方になり、夕日が俺たちと墓を柔らかい光で包んでいる。

 どこまでも悲しい色に見えた……。


「ねぇ、レウル。私、死のうと思うの」


 そして不意に言ったリトの言葉に、俺は驚いて言葉が出なかった。


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