4 平和になれない世界
魔族とそれ以外の種族との戦争は、100年という時間が過ぎようとしていた。
戦争が始まった理由?
そんなこと知るか。
ほとんどの人がそう答える。
長寿と言われるエルフでさえ、開戦の理由は知らないとよ。
嘘くさいが、そんな事はどうでもいい。
大事なのは、俺は戦争孤児で他にも同じな奴がいっぱい居たって事だ。
スラム街で生きるために、殺し以外は何でもした。
スリ、喧嘩、万引き、強盗……。
殺しは絶対にしない。それが俺たちの最後の誇りだ。
殺し……命の奪い合いが俺たちを生んだ。
そんな事はしたくなかった。少なくともスラム街では……。
******
「レウル、緊張してるの?」
「……いや、少し昔を思い出した」
「ここまで長かったもんね」
「そうだな。本当に、長かったな」
隣にいるリトが、俺の手を握って微笑む。
……本当に長かったな。
今俺たち、魔王討伐パーティーは魔王城……。
その主であり、魔王が居る部屋の前に居た。
俺は這い上がった。
スラム街で育った戦争孤児から、英雄や勇者と呼ばれる存在に。
そう……世界のための生贄に。
偶然召喚士としての力を見出され、ここまで来たが……世界はクソだった。
英雄、勇者には誰もが協力する。
綺麗な寝床、美味い飯、抱ける男と女……それは俺たちに対する当て付けだ。
良いもんやるから、逃げるなよ? 死ぬまで戦えよ?
要はそういう事だ。
当たり前の事だが、気に入らなかった。
「ここで魔王を倒せば、この戦争は終わる。いいな? ここで終わらせるぞ。死んでいった人たちのためにも」
リーダーの勇者ロエルが俺たちを見る。長い金髪で若いエルフの男性だ。
みんな神妙な顔つきで頷いて答えた。
ここへ来るまでに名前を知ってる奴も知らない奴も、数え切れないくらい死んだ。
『戦争を終わらせて、平和な世の中にしてほしい。もう、誰も死なないように』
それが死んでいった奴らの願いだった。
俺たちの下にも背後にも、無数の屍がある。
血反吐を吐いても前へ進めたのは、みんなのそんな想いがあったからだ。
それにこの戦いさえ終われば、俺たちは爵位、富、名声。
全てを得る事ができる。
そして俺は恋人のリトと一緒にのんびり暮らせて、スラム街のみんなを……血の繋がらない家族を助ける事だってできる。
「……開けるぞ。全員構えろ」
ロエルが部屋の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
『!?』
次に瞬間、俺たちは光に包まれる……。
そして、光が治まりゆっくりと目を開ると、そこは色とりどりの綺麗な花が咲き乱れる場所だった。
「なんだここは……」
空を見上げれば星々が煌めいている。
「良くここまで来ましたね。勇者、英雄……多くの苦難を超えた者たち」
驚いている俺たちの耳に声が聞こえた。
ソイツはすぐ俺たちの前に立っていた。
「私は、君たちから『魔王』と呼ばれている存在です」
『……』
水色の長髪に金色の瞳。
白に青いラインが入った清潔感のある服を着ていた。
無言の俺たちにソイツは頭を下げる。
今すぐコイツを倒せば戦争は終わる……。
だが、俺を含め誰もが動けないでいた。
なまじ俺たちは強いから分かってしまう。
コイツは……コイツは理解しがたい何かだ……。
「お前は……何だ?」
俺がやっと絞り出せた言葉は、そんな間抜けたセリフだった。
この空間に入ってから、俺の中にいる精霊と英霊が恐怖で震えているのが分かる。
リトも震えながら俺の腕を強く握り締めていた。
……最悪、リトだけでも逃がす。絶対にだ。
「それを答えるのは難しいかな。ただ、僕は君たちに謝らないといけない」
「謝る……だと?」
ロエルが答えた。その声は震えている。
それでも気丈に答えるなんて、流石リーダーだ。
本音を言えば、今すぐここから逃げ出したかった。
「そう。まず、この戦争はここに君たちが来た時点で勝ちです。そして、それを止めれず、本当にすまない」
コイツが何を言っているのか全く理解できない。
「もっと別の方法もあったのかもしれない。しかし、僕が干渉しすぎるのも良くないと思いました。どうすれば、良かったのだろうね」
「勝ったのなら、戦争は終わるのか?」
そう、それが一番大切な事だ。
その為に俺たちはここまできたんだ……殺され、殺して。
「終わります」
男がハッキリと断言した。
なぜかそれは信用ができた。
だが、それだけでは終わらなかった。
「間違いなく終わります。『この』戦争は」
「この戦争は? まさか新しい戦争を始めるというのか!」
男の言葉に、ロエルが語気を強めて言う。
男は首を横に振った。
「……僕は始めない。誰が始めるのかは、すぐに君たちも知るでしょう。そして、絶望する。それを止めたかった。本当に力足らずですまない」
悲し気な表情をした男が、俺たちに再び頭を下げた。
なんだ……この言いようのない気持ち悪さは。
戦争が終わるのなら、あとは平和になるだけだろ?
なぜまた戦争が起きるなんて言うんだ?
いや、そもそも一体誰が戦争を起こす?
ダメだ……。あまりにも分からない事が多すぎる。
「さぁ、ここはもう閉じましょう。君たちは元の空間に戻ったら城から出なさい。その後、城は崩壊する。そして勝利を宣言して下さい」
『……』
「平和な世界にできず、導く事もできない。これでは管理者失格ですね……」
管理者? 一体何をコイツは言ってるんだ?
俺がそれを聞こうとした時、俺たちは光に包まれ……そして、元居た場所で立っていた。
目の前にあった扉は無く、俺たちはお互い見て、聞いた事を確認する。
どうやら夢ではなかったらしい。
俺たちは勝って戦争は終わった……ただ、言いようのない後味の悪さを残して。
******
魔王城はアイツが言った通り、俺たちや他の仲間が出ると、すぐに崩壊を始めて跡形もなく崩れ去った。
勝利宣言が行われ、世界が祝賀ムードに包まれる。
全てが終わった……。
リトと笑い合い、心からそう思った。
だが、アイツの言った事は正しかった。
いや、きっと最初から始まっていた戦争が顔を見せ始めた。
自分たちは『特別』だという、度し難い程ほど許せない罪が……。
魔王が居なくって一ヶ月ほどたった時、俺たちのパーティーは戦争で協力していた三つの大国の会議に出席する事になった。
話の内容は『今後について』だ。
まぁ、平和になったからと言っても戦争の傷跡は深いし、どう協力していくかの話だろう。
そう思っていた。
「では、お互い納得してないという事か?」
ある国の国王が、あからさまに不機嫌に言った。
会議にはそれぞれの国のトップと一部の高官や貴族、そして俺たちしかいない。
「どう納得しろというのです? 明らかにそちらに有利でしょう?」
話は魔族がいた土地の分配に関してだった。
不思議な事に魔王と呼ばれていたアイツが居なくなると、魔族たちもどこかへと姿を消し、今は誰がどこの土地を所有するのかを話している。
くだらねぇ……。
ただ三つに分けりゃいいのに、それぞれのトップはそうは思わないようだ。
やがてヒートアップし、それぞれが罵り合い、いかに自分が犠牲を払ったのかを声高々に言いだした。
リトが所属している教会の教皇だけは、周りをなだめていたが。
『我が国は最も人員を割き、多くの命が失われたのだぞ!』
『何言うか! こちらはあるゆる資源を使い、武具などを援助したではないか!!』
『誰が魔法で援護したと思っているのですか! 命も武具も魔法で支えたから、最大限活用できたのですよ!!』
……ぶっ殺してぇ。
コイツらは自国の安全な場所でただ見ていただけだ。
勝利宣言の時、痛みだの苦難だの悲しみだの、うだうだ演説していた。
だがコイツらや、その家族に取り巻きが一滴でも本当に血も涙も流したか?
安全な場所で寝て食って遊んでただけだろうが……。
「……リト、帰るぞ」
俺が傍に居たリトに言う。
ここに俺たちが居る理由は何も無かった。
一瞬だけリトは迷ったようだが、小さく頷いて返事をする。
仲間たちも、それに続くようにその場を後にした。
今思えば、あの場に居る三大国の奴らは全員殺して置くべきったな、マジで。
バカみたいな会議が終わった一週間後。
土地と資源を巡り、三大国間でクソ以下の戦争が始まった……。




