9 終わりと始まり
小さな男の子が、俺たちに向かって精一杯石を投げつけている。
弱い力では俺たちに届かず、石は空を切って落ちるが、何度も何度も……。
「お、お前なんかいらない! お前なんか怖くないぞ! 僕のお母さんは僕が守るんだ!!」
『……』
やがてその子の母親が子供を必死に止めるが、それでも泣きながら俺たちに石を拾っては投げる。
やがてそれは周囲に伝播し、多くの人たちが悪態をつきながら物を投げて来た。
「この悪魔め! 魔王め! 帰れ! ここは俺たちの国だ! 死んだって離れないぞ!!」
「そうだ! 騎士たちが居なくたって、最後まで俺たちは戦うんだ!!」
最初からそうしてくれよ……。
自分の大切なもんは、自分でまず守ろうってしてくれよ。
強い奴だって、最初から強かった訳じゃない。
泣いたり、諦めそうになったり、死にかけたり、そうやって強くなったんだ。
みんな……痛みを感じていたんだ。
『リト、行こうか。もう、ここに俺たちの居場所は無い』
呟くと、胸に居たリトが巨大化し、俺に抱き着いて頷くのが分かった。
俺たちは召喚を消して、それぞれ三対六枚の光翼を出して上空へと舞い上がる。
行く場所は一つ。空の遥か上。
俺たちを知らないどこかだった……。
俺たちが居れば、またその力を頼ろうとする者が現れるかもしれない。
それじゃダメなんだ……。
みんながそれぞれの責任を持ち、できる限りの力を出して、みんなで生きていかないといけない。
頼るのは悪い事じゃない。弱い事も罪じゃない。
しかし何もせず、ただ待っているだけで頼るのは……傲慢で罪だと思う。
そして俺たちは、名前も知らない遥か上空へと来た。
そこは不思議な場所だった。
普段見ている夜空ような星の輝きがあるが、暗い。
下を見れば、俺たちの居た世界が丸い物だと初めて知った。
「ここは宇宙と言うのですよ」
誰も居ないはずのソコで声が聞こえた。
声がした方を振り返ると水色の長髪に、金色の瞳の男が居た。
今なら分かる。コイツは高次元の存在だ。
「あの時ぶりですね……僕は『クヴァル』。この世界を守る事もできない管理者」
『……管理者?』
「そう。世界を観察し、時に介入する存在と思ってくれていい」
『なぜ……世界を救ってくれなかった?』
「すまない。僕の力は強力です。無闇に振えば、世界の存在は僕を頼り、何もしなくなる。それが間違っている事は、君も理解しているでしょう?」
その通りだった。
だからこそ、俺たちは今ここに居る。
「レウル、リト、そして数多の魂たちよ。僕が君たちにできる事は少ない。だが、今ならできる事がある。君たちを追放しよう」
『追放?』
「正確には転移だけどね」
『どちらにせよ、出て行けって事か……』
俺の言葉に、クヴァルは首を横に振った。
「世界には僕の事を話している人物が数人います。その中のある人物に君たちの事を頼まれたんです」
『一体誰が?』
「……可愛いバカ弟子を助けてやってほしい。そう涙ながらに頼まれました。彼女のあんな姿は初めて見ましたね」
『そうか……あの人が。結局最後まで世話になりっぱなしか』
「君たちを強く止めなかった事を、最後まで悩んでいました。どうする事が正解だったのかと」
師匠の事だ。悩み抜いて……最後は俺たちの好きにさせてくれたんだな。
『俺たちはこれからどうなる?』
「今世界は君たちを否定し、そして君たちもまた世界を去ろうとしている。今なら君たちをダストワールドへ送る事ができる」
『ダストワールド?』
クヴァルが俺たちに手をかざした。
「捨てた、捨てられた存在が行き着く終着点の世界。他の管理者からは、全宇宙のごみ箱と呼ばれる世界」
『……俺たちにはお似合いか』
良いじゃないか。どうせ行く当てなんかない。
それでも行き着く場所があるのなら、願ってもない。
だが俺の思いとは別に、クヴァルが首を横振った。
「僕はそうは思わない。あそこはそんな場所では無いと感じています。時間がありません。本来は管理者の力でも行けない世界です」
『今なら可能なのか?』
「はい。皮肉ですが、今世界と君自身両方が存在を否定している……。後押しする事で可能です。すぐに送ります」
『一つ……頼みがある』
「何でしょうか?」
『あんたなりの理由があるのは分かる。だけど……世界にもっと関わりを持って欲しい。一人でも良いんだ。幸せにしてやって欲しい』
「……約束はできません。ですが、僕なりに考え、努力します」
『それで良いよ。ありがとう』
俺たちの周囲に光の膜が現れる。
やがてその光は強くなっていった。
「こちらこそ礼を言いたい。君たちのおかげで……きっと世界は変わる事ができる。僕のような存在の力を借りず、自らの力で」
『俺たちは好き勝手やっただけさ』
「そうですか。向こうに着いたら管理者が出迎えるでしょう。ちょっと性格は軽いですが悪い方ではありません。ですが、気を付けて下さい」
クヴァルの表情は真剣だった。
「彼女もあの世界も普通ではない……しかし、そこでなら君たちは平穏を得られるかもしれません。さぁ、時が来ました。さようなら、そして本当にありがとう」
最後にクヴァルは俺たちに笑顔を見せる。
視界が目を開けらない程の光に包まれた……。
******
俺たちが目を開けると、そこはリトと住んで居た村だった。
さらにリトとの融合が強制的に解け、俺とリトは並んで立っている。
ただ、召喚の契約が残っているのは分かった。
そうか……俺たちはあの存在のままなんだな。
俺の魂にはリトだけではなく、精霊や英霊に亡者たち全てを感じいていた。
「ここ……どこ?」
リトが村から視線を上へと向ける。
そこは星空ではなく、宇宙が広がっていた。
「いらっしゃ~い! レウルとリトだね? 珍しい方法で来たお客さんだわ」
明るく元気な声が聞こえ、俺とリトは声がした方を見る。
そこには金髪でポニーテール。クヴァルと同じ金色の瞳の女が居た。
人懐っこい笑顔を見せ、水色のスカート姿で、少し身体を揺らす度にポニーテールが揺れている。
「っ!!」
俺の中の魂たちが一斉に悲鳴を上げた。
こいつは……クヴァルとは似て非なる何かだ。
リトは無言で俺の腕をきつく握りして女を見つめていた。
すると女が目を細めて俺たちを笑顔を見せる。
「ふぅん、そっかぁ。それだけの魂と繋がってると本能的に気付く事もあるかぁ。これは面白い! クヴァルも良いもん送るじゃない!!」
「お前が……管理者か?」
「彼からある程度の説明は受けてるのね? そうそう、私が管理者のニフスよ。これからよろしくねー!」
ニフスは言いながら俺たちに近づくと、強引に握手をしてきた。
少し前まであった妙な威圧感は無くなっている。
なんていうか、クヴァルとは違って距離感が近いな……。
「ようこそ、ダストワールドへ。世界は、私はあなたたちを歓迎するよ」
そこには、はち切れんばかりの笑顔があった。
「ど、どうも」
「よろしくお願いします」
「あ、私堅苦しいの苦手だから、ため口でも何でも好きでいいよ。あと、世界に着いたら結構勝手が違うから、頑張って慣れてね。ちなみにここは移動中の世界」
俺とリトは怒涛の説明に生返事で返した。
「毎回来る存在に会いに行くって訳じゃないんだけど、クヴァルに頼まれちゃったからね。アイツも無茶するわね。強引にここへ送るなんて」
「本来は意図に送れないとか言ってたっけか」
「そうよ。ここへ来る存在は、それなりに条件があるから。ま、今回は私も個人的な興味があったしね」
「それで、満足はしたのか?」
「それはこれからかな。でも、良い感じよ。世界がもっと面白くなりそう」
「ダストワールドは、私たちみたいな人ばかりなんですか?」
リトが笑顔のニフスに聞いた。
それは俺も気になる。
「ん-、そうでもないかな。大体三割くらい? あとはほら、来た人たちがこういろいろ頑張って人口が増えた感じ?」
「なるほど。そんなに人が少ないって訳じゃないんだな」
「人っていうか、様々な種族に文化があるからね。ま、行ってのお楽しみってことで。あ、そろそろちゃんと送るね」
そこまで言うと、ニフスは俺たちに背を向け、そして両手を広げた。
「……レウル、リト、数多の魂たちよ。思い切り楽しみなさい。存在の終着点であり、そうでない場所で。そして……幸せになる事を恐れないでね」
最後にニフスがそう言うと、俺たちが居た世界は光に包まれる。
そして俺とリトが再び目を開けた時、そこには見た事が無い世界が……新たな可能性が広がっていた。




