1 海! 海! うぅぅうみいぃぃ!!
エクユアス中央大陸よりも小さい大陸、常夏 (とこなつ)の大陸エスタス。
中央大陸とは繋がっており、年中の気候が変わらず暖かい夏の大地。
青い空に白い雲、輝く太陽。
山や海、魚釣りなど有名なリゾート大陸となっている。
ダストワールドにおいて、中央大陸以外は基本完全中立地帯であり、どの国にも所有権は無い。
そのため、各国の政府や転移物対策組織 (通称テンタイ)が話し合って、店や住人、資源管理などを行っている。
政府や警察、転移物対策組織は各国から派遣された者が、エスタス支部員として常駐して活動していた。
その大陸にある海に面したリゾート街「ゼメア」に、レウルたちリセイユ国転移物対策組織第1支部の職員、およそ100人が来ていた。
定期的に行う「資源及び水質調査」の仕事であり、ミスや不正を防ぐために政府、警察、転移物対策組織で一回ずつ行われる。
それ以外にも各組織との意見交換や連携確認なども行われていた。
三泊四日の予定だが、仕事自体は早く終わる内容であり、終われば残り時間は自由時間。
「いいいぃぃいぃヤッホ~~!! 白い雲! 青い海! 弾ける水着姿の女性! これが夏! 青春! たまんねぇぜ!!」
テンション爆上がりのレウルが、砂浜にある設置された休憩場で、仁王立ちをしながらガッツポーズをして叫んだ。
白のシャツとサーフパンツで、茶色い短髪を風になびかせている。
仕事さえ終わればバカンスの始まりであり、慰安旅行の側面も持っていた。
「うっせぇな。何で海ってだけでそこまテンション上がんだよ。仕事しろ」
黒のシャツとサーフパンツ姿、額に白い角が二本ある鬼族のジンがレウルに呆れた声を上げる。その片手には一本の刀が握られている。
「ジン! 分からないのか? 海、女性、水着の三重奏が! あっちこっちにボインがバインバインいるのが!!」
「……はいはい、あんたは大きいの好きだったな」
「馬鹿野郎! おれは大きいのも小さいも、等しく好きだ! 差別は良くない」
「頼むから、声を落としてくれないか? 通報されても知らねぇからな……」
ジンが大きな溜め息を吐いた。
「言っとくが、俺たちは監督責任があるから遊べないぞ? ハメ外したバカを注意したり、何かあったら救護に向かわにゃならん」
「んなこたぁ、分かってる。だからこそ、俺はきちんと見てるんだろうが。あー、お仕事って大変だわぁ」
海や砂浜にいる職員から民間人の女性を、レウルはつぶさに見る。
その時、海から大きな白い触手が生えた。
白い触手には男性が一人捕まっている。
「おい、あれ助けた方が良いんじゃないか?」
ジンが刀を構えて行こうとするが、レウルが止めた。
「ほっとけって。イチャついてるだけだ」
「は?」
「第7戦闘部隊のセルメとアレンだよ。あいつら付き合いだしたって聞いてるからな。けっ、見せつけやがって」
キューピッド騒動後、アレンは第4支援部隊から、セルメが隊長を務める部隊へ異動願いを出していた。
厳しい特訓と試験をクリアし、同じ部隊へと配属となる。
「ああ、あのキューピッドの時の奴か」
「そういや、お前あの時見なかったけど何してたんだ?」
「……」
ジンが表情をしかめる。
レウル、ケイ、アレンがキューピッドに対処していた時、ジンはジンで大変な目に合っていた。
「聞いた話ですが、ジン様は大勢の女性と男性に追いかけられていたようです」
突如空間に青く四角い光が現れると、女性姿のケイが現れる。
白と黒のクロスデザインの水着を着ていた。
ケイの水着を見たレウルが親指を立てる。
「遅かったな。良く似合ってるぞ。ナンパ野郎が来たら成敗していいからな」
「ありがとうございます。水着を決めるのに時間がかかってしまいました」
「で、ジンが追いかけられてたって?」
「はい。いわゆる、大変モテて、逃げていたという事です」
「なんだよそれ……俺は一人からも言われなかったって言うのにさ」
レウルが拗ねた。
「……あんたと代わりたかったよ。キューピッドを追ってる方が何倍も楽だ」
「ジンさんは言葉と目付きはキツイですが、仕事ができ、強く、面倒見も良い。隠れファンが多いですからね」
上空から小さな鞄を持ち、翼を広げた夢魔のエニがゆっくりと降りて来る。
エニはサイドが大きくカットされた、紫のモノキニの水着を着ていた。
エニの姿を見たレウルは両手で親指を立てる。
「仕事お疲れさん。ケイもエニも良いチョイスだ。男どもが放っておかないだろうな」
「皆様もお疲れ様です。選ぶのに何日もかけましたからね。しかし仕事でちょっと時間がかかって合流が遅れました」
エニがレウルたちに頭を下げた。
「気にすんな。暇でジンと戯れてたとこだ」
「暇じゃねぇよ。しかしエニさんも大変だな。こいつを追ってここまで来て」
「いえいえ、仕事もありましたから」
エニはレウルの予定を聞くと、仕事の都合つけて着いて来ている。
「じゃあ俺たちものんびりするか。ケイとエニには日焼け止めを塗ってやる」
レウルが二人を見ると、手をワキワキとさせた。
「でしたらコレをお願います。我が社の新商品でして」
持っていた鞄からエニが、封の開いてない日焼け止めを取り出す。
「エニんとこも手広くやってんな。ジンにも塗ってやろうか?」
「いらん。が、エニさんとこの新商品には興味がある。後で自分で塗る」
「遠慮しなくてもいいのにな。じゃ、一旦休憩するか」
「まぁ、監視員は他にもいるし、それも良いか」
そしてレウルたちが休憩しようとした時、レウルの身体からリトが出て来た。
「お前もたまには海でゆっくりするか? 一緒に塗ってやるぞ」
「……」
レウルが再び手をワキワキ動かしてリトに言うが、リトは青く澄んだ空を見つめていた。
釣られる様に、レウルたちも太陽が輝いている空を見上げる。
「んー? 何か見えるのか?」
「……声が聞こえた」
リトは静かにそう告げた。




