キューピッド エピローグ
キューピッド騒動が終わり、数日たったある日。
レウルとケイは支部長室でキューピッド騒動の事後報告を受けていた。
そこにはエニの姿もある。
あのパーティーも無関係では無い事が判明し、その説明を受けに来ていた。
部屋にある大きなモニターには報告する職員が映し出されている。
「じゃあ、報告を頼む」
レウルが言うと、男性職員が頷いて説明を始める。
『まず、キューピッドの能力ですが一部の感情。恋愛感情を著しく増幅する装置である事が分かりました。後遺症などはありません」
「あの騒動を見れば一目瞭然か。しかしなぜ動いた?」
『解析部が調べた時は、動く気配はなかったそうです。魔力を流して見ても反応が無かったため、大丈夫だろうという事に。原因は不明です』
「あのキューピッドは、パーティーの時にはすでにこっそり動いていたんですね?」
エニが訪ねる。
『はい。パーティーに参加していた者、全員を検査にかけました。複数人から同じ魔力の痕跡があり、妙にカップル成功率が高かったのもそのせいかと」
「そうなると、エニには悪い事をしたな。パーティーの信用性が無くなる」
申し訳なさそうにレウルがエニに言った。
しかし、エニは首を横に振る。
「しかしそうではないのです。あの後、気付かなかった事へのお詫びを参加者全員へしたのですが……皆様からはお礼を言われました」
「お礼をですか?」
ケイが不思議そうな顔を浮かべた。
「あのキューピッドはあくまで感情の増幅。全く好意などがなければ、作用しないのです。パーティーの良い雰囲気の中、告白する良いきっかけになったと」
「なるほど。0に何をかけても0という事ですね」
「事実、今回の事が分かっても別れる方はいませんでした」
「そうなると、本当に恋のキューピッドではあったんだな。微妙にきもかったが」
あの異様な奇声と動きを思い出して、レウルたちは苦笑する。
『魔法を受けても効果が出なかった人との違いは、誰かに『好意』を持っているかいないかです。すでに恋人がいるなどの方だと作用しないみたいです』
「あー、だから俺やケイには何も無かったのか」
『あと、所有者には魔法を当てないようです。どうやら、所有者に好意を持っている者を探す。それが目的のようですね。今回はオスカーさんになります』
「それで、周囲に魔法を撃ちまくっていたのか。なんつうはた迷惑な……。転移して来た理由も何となく想像はつくな」
「もしあんな物が大量生産されていたら、それは楽しい事になっていたでしょうね」
エニがその世界を想像して楽しそうに笑う。
『報告は以上です』
「そういえば、あのキューピッドは結局どうなったんですか?』
ケイが思い出したように言う。
セルメに打ち付けられて動かなくなった後、キューピッドは解析部に回収されていた。
『あ、もう完全に壊れて危険性は無いので、本人にお返ししました。それが希望だったので』
「という事は、アレンの手にあるわけか。まぁ10万オルもしたしな。しかし、やっぱ何で起動したのか気になるなぁ……」
「確かにそれは気になりますね。転移物はたまに急に動く事もありますが」
「何か切っ掛けがあったんでしょうか? 私も気にならないといえば、嘘になりますわね」
レウルたち全員が首を捻る。
「確かあれはアレンの手に渡るまで、転移物保管室の保管庫にあったんだよな?」
『はい。一応警備の者に聞きましたが、怪しい物は誰も来ず、監視カメラにも映っていないと報告を受けました』
「そうか……。んー、一応こっちにアレが保管室に行ってから、アレンに渡るまでの監視映像をくれ。確認だけしてみるわ」
『承知しました。すぐに映像を送ります』
職員が近くの機械を操作すると、すぐにレウルのパソコンに映像が送られて来た。
「悪いが、お前らも手伝ってくれ。一人でするよりも確実だしな」
ケイとエニ、そして職員が肯定の返事をすると、一緒に確認をしていく。
そして、すぐにレウルが声を上げた。
「おい……これはどういう事だ? 思いっきり怪しい奴が映ってるじゃねぇか!」
『?』
レウルの言葉に、全員が首を捻る。
「あの、レウル様。どこにですか?」
「私も分かりませんわ。別に怪しい人なんて……」
「あのなぁ……」
と、レウルはパソコンの映像をモニター映し、静止している画面を指差した。
そこには警備員に挨拶をして保管室に入るニフスが映っている。
「アイツが保管室なんて普通に来るわけねぇだろうが!! 思いっきり不審者だよ!」
『え? いや、ニフス様ですから。そんな不審者だなんて』
職員が驚きながら言った。
「おい、保管室内の映像も寄こせ」
『は、はい!』
レウルが慌てて保管室内の監視映像を確認する。
「うわ……ぜってぇコイツなんかしたぞ。これを良く見ろ!」
そこにはキューピッドを保管庫から取り出しているニフスの姿あった。
その映像を拡大再生してケイたちにレウルは見せる。
「……あ、これは」
「嘘……まさか」
『あー……これはやってますね』
ニフスの手に取られた瞬間、キューピッドの目が赤く光っていた。
そしてニフスは保管庫に戻すと、監視ラメラを見て笑顔で手を振る。
「あいつ。俺らが気付く事も予想してたな……。これ正確にはいつ頃だ?」
『時間的にはオークションが終わった後。オスカーさんに送られる直前になります。データでは、夜に受け取って、次の日にパーティーへ行ってますね』
「……あの問題児め。パーティーに来てたのもアレがどうなったか確認をしに来たんだな」
レウルが深い溜め息を吐いた。
そんなレウルにエニが苦笑しながら口を開く。
「しかし、パーティーの時は支部の時ほど大きな問題にはなりませんでしたね?」
『それに関しては憶測でしかありませんが、ある程度の説明は付くかと』
「まぁ、外れててもいいさ。どんな憶測だ?」
職員が一度咳払いした。
『まずあのキューピッドですが、恐らく動かすのに大量のエネルギー。魔力が必要だった。解析部ではそこまで魔力を与えなかったのでしょう』
「確かにちょっとやそっとじゃ、あそこまでの稼働はできないな」
『そしてパーティー時はまだ本格稼働していなかっただろうと。あるいは、本格的に動くには、何か別のキーワードなどの要因が必要だったと推測できます』
「そうですね。魔力を与えただけで勝手に動くと、本当に迷惑でしかありません。何か一定の起動ワードがあってもおかしくないですね」
『はい。そこでレウル支部長たちは何か聞いていませんか? 起動時、オスカーさんと一緒に居たようですし』
職員の言葉にレウルとケイが考え込む。
暫くしてレウルが口を開いた。
「そういやアイツ。自分の事への気持ちが知りたいとか、助けてほしいみたいな事いってたな」
「あ、確かに言ってましたね。セルメ様の気持ちを知りたいとか」
『でしたら、そういった事がキーワードなのかも知れませんね。すでに完全に壊れてますし、真実は闇の中ですが』
「んだな。ま、今回の件はこれで終わっていいだろう。報告ご苦労だった」
『いえいえ、それでは後に正式な報告書を作成して送ります。それでは……』
と職員が映像を切ろうとした時、レウルがそれを止めた。
「あ、待て。全職員に通達して欲しい事がある」
『なんでしょうか?』
「……今後、ニフスが普段来ない場所に現れたら、絶対に情報を共有しろと。絶対にしろよ! 絶対だからなっ!」
『承知しました』
最後に職員は苦笑すると映像を切る。
レウルはそのまま力無く机に突っ伏し、
「……もうやだアイツ。嫌い」
小さく呟いた。
そして暫く動かずにいるレウルに、ケイとエニが優しい言葉を何度もかけるのだった。
******
一方その頃、アレンは仕事終わに中庭でストフォンを見つめていた。
ストフォンには全体的にヒビが入ったキューピッドが、ストラップに付けられている。
「よぉ、こんな所でどうした?」
金髪の同僚がアレンに声を掛ける。
「今日こそ、クーラさんに連絡しよう思ってさ」
「それ、昨日も聞いた」
「う、うるさいな。今日は絶対だ! お、俺はやるぞ!!」
声がうわずらせながらアレンが答え、ストフォンのボタンを押そうとした時、コール音が鳴る。
「!!」
アレンが驚いた表情を浮かべ、そのまま固まっていた。
「取らないのか?」
「ク、クーラさんからだ」
「早く取れバカ!」
「わ、分かってるよ! ……はい、アレン・オスカーです!!」
なぜか電話を取ったアレンは直立不動になる。
「はい……はい……え? 本当ですか? いえ、大丈夫です! はい! 例え世界が滅んでも行きます! ありがとうございます!!」
最後は誰もいない場所へアレンは勢い良く頭を下げる。
「で、なんだったんだ?」
「この前、助けに来てくれたお礼に食事でもって……」
「おぉ、良かったじゃねぇか!!」
同僚がアレンの背中をバンバンと叩く。
その時、ストフォンにあるキューピッドが揺れ、アレンが視線を移す。
「……やっぱりコイツは恋のキューピッドだ! 愛してるぜキューピッド!!」
そしてアレンは歓喜しながら、何度もキューピッドにキスをした。
~ 第3話 恋のキューピッドは助けたい 完 ~
※『後日談・アレンとセルメ』に続きます※




