7 さらば、じゅうま……キューピッド
ネロに水をかけら……顔面にぶち当てられた女性をレウル、ケイ、アレンが見守る。
暫くすると、興奮状態だった女性が落ち着きを取りもどし、レウルが女性に声を掛けた。
「おい、正気に戻ったか?」
「あ、支部長。えっと私は……」
と、女性が男性を見ると顔を赤くしてモジモジしだす。
「悪いが急いでるんだ。どんな状況だったか説明がほしい」
「は、はい。その……私ははこの人に片思いをしてまして。確か変な天使? に赤い何かを受けた後、急に告白しなきゃって強く思うようになって」
「怪我とか痛みはないんですか?」
ケイが心配そうに女性に聞く。
「それは大丈夫です。本当になんだか、感情が高ぶるというか、言わなきゃいけない! って、強く思うようになっただけです」
「そうか、分かった。おい、お前」
と、レウルが呆気に取られている男性に言葉を振る。
「はい、なんでしょうか?」
「まぁ、ちょっと普通じゃなかっとは言え、気持ちは本物のようだから返事だけはちゃんとしてやれよ」
「……わ、分かりました!」
そしてレウルたちは、未だぎこちない男女と離れる。
「どうやら、ネロでどうにかなりそうだな」
「それは肯定できないかな」
ネロがレウルに異議を唱えた。
「何でだよ?」
「人数が多すぎるよ。僕一人だと埒が明かない」
「あー、それもそうか。司令部に連絡して浄化魔法使えるやつを総動員するしかないか」
「それも良いけど、ここにも一人いるだろう?」
ネロがアレンの周りを飛んだ。
「え? 俺ですか?」
「そう。世界は違えど、君も水の精霊の力を持っている。浄化魔法は使えるんじゃないかい?」
「使えますけど、効きますかね?」
「問題ないと思う。ただ、早急に治すには同じ手を使う事になるけど」
「同じ手って?」
「浄化作用のある水をぶっかける。という事」
「……後で怒られませんかね?」
「そこは俺が許可するから心配すんな。ちょっと司令部と連絡する」
レウルが魔法で通信を始めた。
「司令部、俺だ。状況は?」
『解析部から保護した人物を検査し、少しだけ分かりました』
「仕事が早いな。内容を」
『あのキューピッドが放つ魔法は、一部の感情を増幅するようです。今回で言えば、恋心。でしょうか? なお、それ以外の危害はないとの事です』
「そうか。こっちは浄化魔法で治せる事が分かった。使える奴に連絡して、多少強引でも良いから治すように言ってくれ」
『承知しました。あと、なぜかキューピッドの魔法が効かない者もいるようです。詳細は調査中です」
「そう言えば、俺とケイにも効かなかったな。まぁいい。他に報告する事は?」
レウルは自分とケイには変化が無い事を思い出した。
『別の問題が発生しています』
「何だ?」
『その増幅が強力らしく、仕事を放って告白を行うので、一部業務が完全に止まっています』
「それは仕方ないな」
『あと、告白対象が支部の外に居た場合、建物外に出ようとしたので、民間人を避難後、出入り口を閉鎖したのですが……強引に破壊して突破しとうとしています』
レウルが深い溜め息を吐く。
「めんどくせぇ……。最悪気絶させてもいい。止めるように言ってくれ」
『承知しました。なおその対応に偶然近くに居た第7戦闘部隊が当たっています。場所は一階正面ロビーです』
「え!? 第7って、クーラさんのところじゃないか!! クーラさんは無事なんですか!?」
アレンが興奮気味に声を上げた。
『隊長の事ですね? 映像を見る限り、出ようとする職員を止めるのに忙しくて、通信の余裕が無いようです』
「そ、そんな。支部長! 急いで応援に行きましょう!!」
「んー、とはいっても元を絶たないとな……今のアイツの位置は……」
レウルが魔法で支部内の地図を開きキューピッドの位置を探る。
キューピッドはゆっくりと支部内を移動し、二つの分かれ道に差しかかろうとしていた。
「ん……この位置は。これなら挟めるな。アレン、俺とお前で別行動して、一階正面ロビーへ向かう」
地図を表示しながら、レウルはお互いが移動する道を表示する。
道中の横道はすでにシャッターが下りてあり、最終的には正面ロビーへ続く道しかなかった。
「これなら、最後はセルメたちの隊と合流できる。道中、変な奴がいたら遠慮なく水をぶっかけろ。いいな?」
「は、はい!」
「ケイ、お前はアレンに着いて行け。こいつ下手したら途中でキューピッドに会っても、破壊をためらいそうだ」
「自分はそんな事……」
「10万」
「……」
レウルの言葉にアレンは黙る。
「そういうわけだ。ケイ、頼むぞ」
「承知しました。微妙にコケされたお礼も返したいと思います」
ケイが周囲に無数の手を出す。その目はやる気マンマンだった。
「司令部、聞いてたな? 他の奴も手が空いてたら追い込むのに協力するように伝えてくれ。最悪、一階正面ロビーでヤツを追い詰めて破壊する」
『はい、全職員に伝えます』
「よし、作戦開始だ!」
レウルたちは頷くと、二手に分かれて行動を始めた。
レウルとアレンはキューピッドに撃たれ、様子が変わった者を水をかけて治していく。
やがてアレンとケイが分かれ道の合流地点付近に着くと、前方からキューピッドを追っているレウルの姿がった。
キューピッドはアレンの姿を見ると、一階正面ロビーへ続く道へ入って行く。
「司令部、俺たちが正面ロビーに入ったら、シャッターを閉めろ。ヤツを閉じ込める」
そしてレウルたちが正面ロビーへ入るとシャッターが閉められた。
しかしそこもまた、一種の地獄絵図と化していた。
「ちょっと……いい加減にしなさい!」
セルメの声がロビー内に響く。
外へ出て告白しようとしている職員が、団子のように殺到していた。
白い数本の触手が、扉を破壊しようと職員たちを気絶させていく。
「ク、クーラさん! 無事ですか!?」
「? オスカー君!?」
セルメの姿を見つけたアレンが声を上げる。
「司令部から話は聞いているわ。手が離せなくて連絡できなくて、ごめんなさい」
「い、いえ。無事なら良いんです」
「それでキューピッドは?」
「そ、そこにいます!」
浮いているキューピッドは、クーラたちとレウルたちに挟まれる形なっていた。
出入口に通路。全てシャッターで閉じられ、逃げ道はすでない。
「キュ……キュキュッキュピィィィー!!」
それを知ってか奇声を上げながら、高速であらゆる方向に移動を繰り返す。
「き、きめぇ。異世界のキューピッドこえぇ」
アレンが呟く。
「そういや、このキューピッドの情報を最初にくれた奴に改めて聞いたが、『何それ知らん。こわっ』ってさ。似て非なる世界の物みたいだな」
「こんな物がある世界って……一体何でしょうね」
レウルとケイがお互いを見て頷いた。
そしてケイが攻撃しようにも他の職員が大量いるため、流れ弾を考慮して何も出来ずにいる。
やがてキューピッドは動きを止めると、その矢をクーラへ向けた。
「!? させるかぁぁ!」
咄嗟に矢が放たれる前に何とかアレンがクーラの前に立ち、身体を張って庇う。
放たれた赤い光線の矢は、アレンを器用に曲がって避けると後ろに居るクーラに当たった。
「うそぉおぉおぉ!?」
そのあり得ない光線の軌道にアレンは驚愕する。
「ク、クーラさん、すみません!!」
そしてアレンが光線の当たったセルメに、水を顔面にぶっかけた。
「……オスカー君。説明を」
水を顔面にかけられたセルメは、笑顔で口を開く。
「あ、あのこれはですね。浄化作用のある魔法でして……」
アレンの説明を聞きながら、セルメは口元に滴る水を舌で舐め取った。
「うん……やっぱり美味しい」
「クーラさん?」
「オスカー君。サッカーボールくらいの水球をいくつか作れない?」
「へ? あ、それくらいならできます」
「じゃあお願い。それを周辺にばら撒いて」
アレンが言われるがまま、10個近い水球をキューピッド周辺にばら撒く。
セルメは黒髪の一部を白い触手に変え、キューピッドを叩きつけた。
「キュピッ!」
キューピッドはいとも簡単にそれを避けるが、
「これで終わりよ」
次の瞬間、アレンが出した全ての水球から太く白い触手が一斉に現れる。
クーラの触手は近距離であれば、ある程度の大きさの水場から出す事が出来た。
「キュ……」
そして、あらゆる方向から現れた触手に成すべなくキューピッドは叩きつられ、地面へ力無く落ちる。
「じゅ……じゅゆぅうぅうまぁああぁん!!」
最後にアレンの悲痛な絶叫が響き、恋のキューピッドの騒乱は終わりを告げた。




