表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
第3話 恋のキューピッドは助けたい
26/41

5 キューピッドの目覚め

 パーティーが終わった翌日の昼休み。

 第1支部長室では、レウルとケイがエニとモニターを通じて話をしていた。


「話があるってどうかしたのか?」

『ええ、昨日のパーティーについてちょっと……』


 モニター越しに映るエニは、困惑した表情を浮かべている。


「何か問題でもあったのですか?」


 ケイが聞く。


『一応恋人や仲が良くなった人がいた場合、その事を教えていただくようになっていたのですが。あ、名前ではなく、上手くいったかどうかだけです』

「ああ、そういう決まりだったな。成功率を知るためだったか」

『はい。問題はその成功率なんですが……80%台なんです』

「多ければ良いんじゃないか?」

『それはそうなんですが、ちょっと多すぎるかなと』

「本来はどのくらいなんだ?」

『良くて60%くらいじゃないでしょうか? しかも感想もちょっと奇妙でして』

「奇妙?」

『感想には「なぜか告白する勇気が湧いた」、「とても押しの強いアプローチを貰った」とありまして。ほとんどが同じなんです』

「あれじゃないか。エニがたきつけた反動なんじゃ?」

『そうかもしれませんが、ちょっと気になったもので。今そちらでは何か変わった事はありせんか?』


 レウルがケイに目配せをし、ケイが答えた。


「いえ、こちらでは特に何も」

『そうですか。でしたら考えすぎかもしれませんね』

「変わった事といえば、昨日ニフス様が来た事くらいかと。突然でしたからね。皆さん驚いていましたよ」

『そういえば、そうでしたね。いつの間にか帰られたようですが』

「結局アイツは何をしに来たんだ?」

『さぁ? 管理者の考えてる事は分かりせんから。ですが、こちらの取り越し苦労でしょう。お昼時にすみませんでした』

「気にすんな。今回は世話になったからな。今度礼でもさせてくれ」

『ありがとうございます。その時は遠慮なく言いますね。では失礼します』


 と、最後にエニは何か含んだ笑みを浮かべて通信を切る。


「昨日パーティーの時、何か変わった事あったか?」


 レウルが改めてケイに聞く。


「いえ、少なくとも私は特に何も気付きませんでしたが」

「じゃあ、やっぱただの考えすぎかもな。さて、そろそろ昼にしようぜ」

「今日は天気も良いですし、中庭にでも行きましょうか。サンドイッチを作りました」


 ケイが亜空間から、サインドイッチの入った入れ物を取り出す。


「お、たまにはいいな。じゃあ行くか」


 そして二人は中庭へと歩き出した。


******


 中庭ではベンチに座ったアレンが、難しい顔をしてストフォンを見つめていた。

 何度も唸りながら、何か操作をしてはすぐ取り止める。


「うぅ……断れるのが怖い。でもこのままなのも……」


 ブツブツとアレンが呟き、目を瞑りながら天を仰ぐ。


「お前、何してんだ?」


 声を掛けられたアレンが目を開けると、そこにはレウルとケイの姿がった。


「あ、支部長にケイさん。こんな所でどうしたんですか?」

「天気が良いから、たまにはここで昼飯でも食おうと思ってな」

「……お二人は仲が良くていいですね」

「どうしたんだお前?」

「顔色がすぐれませんが、大丈夫ですか?」


 レウルとケイがアレンの近くに座る。

 そしてレウルは、パーティで会ったアレンの事をケイに説明した。


「その、どうしようかと思ってて」

「何をだ?」

「……できたんですよ」

「彼女がか?」


 アレンが首を横に振る。


「何ができたのですか?」


 ケイがサンドイッチをレウルに渡しながら聞いた。


「交換が……」

「交換?」

「クーラさんとの連絡の交換が……できてしまったんです」

「おぉ、良くやったじゃないか! これは脈ありなんじゃないのか?」


 レウルがアレンを肘でつつく。


「やっぱりそうなんですかね? これって期待していいんですよね!? でも、連絡する勇気が湧かなくて」


 喜んでいたアレンだが、すぐに肩を落とした。


「なんだよ、根性の無い奴だなぁ。当たって砕けろよ!」

「いやいや砕けたくないですよ! 断られたらショックがデカイ……。連絡したいけど、向こうから来ないかなぁって思ってる所です」

「ヘタレめ」


 レウルはアレンの言葉を呆れながら聞き、テキパキと昼食を済ませる。

 ケイに礼を言ったレウルはアレン方へ向き直った。

 その表情は少し前とは違い、どこか真面目な表情をしている。

 

「アレン、お前相手のこと考えた事あるか?」

「あの、どういう事ですか?」

「相手もお前を誘って断られたら傷付くって事だ。それでいいのかよ?」

「それは……その、言いたい事は分かりますけど」

「今、お前がしている事は『自分ができるだけ傷つかない方法』だ」

「……そうかもしれないけど」

「相手もって思うかもしれないが、お前自身がどう思うか、だ」

「……支部長は三人も恋人がいるから、そんなこと言えるんですよ」


 レウルが軽い溜め息を吐く。


「ケイ、エニ。二人から告白を受けた時、そこには勇気と覚悟があった。拒絶されると思いながらもな。だから俺も真剣に答えた」


 ケイは何も言わないが、微笑みながらレウルを優しい目で見つめていた。


「それに、10回以上だ」

「?」

「リトと恋人になるのに、俺は10回以上は断られている」

「えぇ!? そんなにですか!」


 アレンが声を上げた。


「違うよ。細かいの合わせれば、20回は超えてるよ?」


 レウルの身体からにゅっと首だけを出したリトが答える。


「うあぁ! リ、リトさん!?」


 アレンの反応に満足したのか、リトの全身が現れる。


「あれ? そうだっけ?」

「うん。すっっっっごく、しつこかったもの」

「まぁ、あの時は俺も本気だったからな」

「どうしてそんな事に? 支部長ってアレですよね。元の世界じゃ、英雄とか勇者って呼ばれてたって」


 アレンの問いにレウルは軽く息を吐く。


「俺とリトが居た世界では、魔族と人間が100年近い争いを続けていた。魔族のトップ、魔王を倒すパーティーに俺もリトも居たんだよ」

「良くあるファンタジー世界ですね」

「そうだ。本当に……良くある世界だったな」


 レウルが遠い目をした。


「昔の俺は今以上に軽くてな。毎日命がけで戦うんだ。綺麗な寝床、美味い飯、良い女を抱く。いつ死んでも悔いの無いようにしてた」

「そうだったんですか……」

「そんな時、同じパーティーのリトと会った時、こいつは絶対良い女だと思って告白したら……」

「チャラいのと女遊びが派手なのが嫌。また来世来て」


 リトがその時を再現するように言う。


「とまぁ、言われて振られた。んで諦め切れなかった俺は、何度も告白しては振られ続けたってわけだ」

「なぜ諦めなかったんですか?」

「ある時、リトに言われたんだよ。『今、最高に幸せ?』って。綺麗な寝床、美味い飯、良い女を抱く。幸せに決まってる。だが、なぜか俺は即答できなかった」

「そして私は言ったの『一度きりの人生を、私は最高に幸せになりたいの』って」


 リトがアレンに向かって微笑む。


「俺とリトは戦争孤児だ。リトは治癒魔法や死者の声を聞く力があって、教会に引き取られた。特に死者の声を聞き、周囲に伝える事で聖女とまで呼ばれたよ」

「そうだね……」


 レウルがリトを見る。

 リトは寂しそうな表情をしていたが、暫くして微笑むとレウルの中へと消えた。


「そして俺は……スラム街で喧嘩、万引き、ひったくり。そんな日々を過ごしていた」

「支部長がそんな事を?」

「生きるためには殺し以外、何でもした。ある時、師匠に当たる人が、俺の召喚士としての力に目を止めてくれてな。ま、そっから這い上がったってわけ」


 レウルはそこで一旦言葉を切った。


「這い上がったのに、なぜかたった一言『幸せだ』と、言えなかった。きっと俺が求めていたのは、もっと違う何かだったんだろうな」

「……」

「で、気付いたわけだ。リトと一緒になれた時、俺は『幸せだ』と、迷い無く言えるんじゃないかってな。だから、遊びで女を抱く事は辞めた」


 レウルがアレンに向かって笑顔を見せる。


「俺にはリトだけで良いって思えたからな……アレン」

「は、はい」

「前に立て」

「え?」

「何時でも何かを手に入れる事ができる奴は、傷付いても前へ進んで立っている奴だ。いきなり変われとは言わねぇが。頑張れよ」


 そしてレウルはアレンの胸をポンっと軽く叩いた。

 アレンは自分のストフォンを見つめる。

 その時、付けているキューピッドのストラップが揺れた。

 見た覚えがある物に、レウルが気付く。


「ん? それ転移物のやつか?」

「あ、はい。恋愛の縁起物だって。頑張って競り落としたんですが」

「へぇ、いくら?」

「……じ、10万」

「お前、もっと違う所に金使った方が良かったんじゃないか?」

「藁をもすがる思いだったんですよ!」

「ま、願掛けも気分的に楽なるか。しかし、変なキャラだよなコイツ」

「そうですか? 見慣れると可愛いですよ」


 と、アレンがキューピッドを見つめながらつつく。


「あー、せめて俺の事をどう思ってるか分かればなぁ。クーラさんの気持ちを知りたい。コイツがなんか上手く助けてくれないかなぁ、なんて」


 そう、冗談めかして言った時だった。


「キュピー!!」


 音のような奇声が周囲に響いた。

 キューピッドの目が赤く光り、突然動くとストラップ部分を破壊し、宙に浮く。

 

『……』


 その場に居たレウルたち全員が何が起きたのか理解できず、宙にふわふわ浮いているキューピッドを凝視していた。

 そして……、


「キュピピピィィ!!」


 再びキューピッドが奇声を発すると、ハート型の矢の先端から周囲に赤く短い光線を放ち始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ