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ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
第3話 恋のキューピッドは助けたい
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4 アレンとセルメと……

 ニフスと別れ、アレンが再び屋上テラスへと向けて歩いていた時、


「ちょっと話でもどうですか?」


 前方に一組の男女が居た。

 髪は黒色のウェーブのかかったミディアム。

 20代後半に見える女性が腕を組みながら壁にもたれ、黒髪短髪の男性が女性に声を掛けている。


「こんなとこにもカップルかよ……」


 極力見ないようにアレンが傍を通り過ぎようとしたが、


「……申し訳ないけど、興味がありません。どいてくれませんか?」

「そんなこと言わず、少しだけでもいいからさ。前から話をしてみたかったんだ」

「しつこい人は嫌いですので。お断りします」


 近くにいたアレンに会話が聞こる。

 女性が男性から離れようとした。


「ちょっと待てよっ」


 男性が離れようとした女性の手を強引に掴む。

 女性は明らかに不快な表情を浮かべていた。


「断ると言ったのが、聞こえませんでしたが?」

「何お高くとまってんだよ。ここに居るって事は彼氏でも探してるんだろ?」

「……」


 そして通り過ぎようとしたアレンが、小さく溜め息を吐いた。


「なぁ、その人嫌がってるから、止めたら? 同じ職場同士だし、変な噂はすぐ広まると思うよ」


 アレンが強引に女性へ迫っている男性に注意する。

 男性は露骨に嫌な表情をし、女性は目を丸くしていた。


「なんだよお前?」

「一応同僚? 同じ参加者なんでしょ?」

「どこ所属だ?」

「……第4支援部隊だよ」

「はっ! 後ろに引き籠ってるとこじゃねぇか! こっちは戦闘部隊で前衛張ってんだ。後ろで隠れてるだけの奴がしゃしゃり出てくんじゃねぇよ!」

「確かに俺らは後方支援だけど、傷付いた人を治療してるのは俺らだよ? あんたは一度もどっかの世話になった事ないの?」


 男性はアレンを睨みつけるが、アレンは感情的にはならず冷静だった。

 そんな二人のやりとりを、黒髪の女性は何も言わず見つめている。


「……戦う事もできねぇ奴が生意気言ってんじゃねぇ!」

「うっ……」


 アレンの指摘に激昂した男性が、左頬を殴りつけた。

 アレンが小さな声を上げる。


「なんだ? やり返してもこないのか? これだから後ろでビビって引き篭もってる奴はダメなんだ」

「……」

「貴方……本当にバカなのね」


 今まで黙っていた女性が口を開く。

 その声色は呆れていた。


「あんたまで俺をバカに……!」


 と、男性が答えようとした時、突然白い光の輪が複数現れ、男性を拘束した。


「お客様ぁ。暴言、暴力行為は困りますねぇ」

「まったく、こんなのが第1支部にいるとはな……」


 アレンたちが声のした方を見る。

 そこには歩いて来る、白い光の球の精霊ルーメを従えたレウルとジンの姿があった。


「レ、レウル支部長にジン副支部長!?」


 男性が驚愕の表情を浮かべた。

 二人を見て小刻みに震えている男性に、レウルとジンが近寄る。


「さて、ジン。このバカはどうする? 叩き出すか?」

「いや、説教部屋行きだ。性根を叩き直してやる」

「正直、使う機会ないと思ってたんだけどなアソコ。ルーメ、こいつを運べ。ジンは先に行っててくれ。俺は二人に話がある」

「おーっほっほっほ。どんな、ごうも……説教が始まるか楽しみですわね!」


 ルーメが楽しそうに言うと同時に光の輪の拘束力が強まり、男性の身体が宙に浮く。

 そのままルーメはジンと一緒にその場を去って行った。


「お前、大丈夫か?」


 レウルが殴られたアレンを見る。


「あ、大丈夫です。大した事ないんで」

「そうか……なぜやり返さなかった?」

「ルールに暴力や暴言は即退場か説教部屋行きってありましたから。それに」


 と、アレンが廊下の天井付近を見る。

 そこには死角が無いように防犯カメラが設置されてあった。


「すぐに誰か気付いて来てくれると思ったので」

「だが、先に手を出したの向こうだ。やり返したって問題ないだろ?」

「それは……」


 そこでアレンは言葉を止めて、黒髪の女性を見た。


「変にやり返して、矛先が女性へいったら可哀想だなって。ああいう奴って感情的に何するか分からないので」

「貴方……」


 黒髪の女性がアレンの言葉に感心した様に呟いた。


「二人とも、所属と名前を」


 アレンが問うと、二人は背筋を伸ばし、敬礼をして答えた。


「第4支援部隊、アレン・オスカーです」

「第7戦闘部隊、隊長、セルメ・クーラです」

「え? せ、戦闘部隊隊長!?」


 セルメの言葉に、アレンが目を丸くして驚いていた。


「なんだ? お前知らずに助けていたのか?」

「あ、は、はい……」

「ハッキリ言うと、俺が止めに入ってなかったら、アイツは今頃病院送りだな」

「レウル支部長は私の事をご存知なのですか?」

「美人、カワイ子ちゃんの事は覚えてるぜ?」


 笑顔で言うレウルに二人は微妙な顔つきになる。


「冗談だよ。さすがに全員って訳にはいかないが、部隊長くらいはな。それにセルメは転移者だ。それで記憶に残っていた」

「そうでしたか」

「ま、災難だったな。今頃ジンからまさに鬼のような説教を受けてるだろうよ」


 楽しそうにレウルが小さく笑った。

 そして、アレンに視線を移す。


「アレン、ちょっとこっち来い」

「え? はい」


 レウルはアレンと肩を組むと、小声で話した。


「いいか、セルメは良い女だ」

「……は?」


 アレンが間抜けな声を上げたが、レウルは続ける。


「ちょっと堅物だが、真面目で隊員から信頼も厚い」

「はい」

「それに、ああいう性格の女性は、心を開くと甘々になると見た。ギャップを……見てみたくないか?」

「み、見たいです」

「頑張ったから、少しだけ手を貸してやる。上手くやれよ」


 そこまで言うと、レウルはアレンと離れ、セルメを方に向いた。


「セルメ、これを」


 と、レウルがポケットから小さな救急セットを出してセルメに渡した。


「アレンの治療を頼む。俺がしても良いんだが、ジンと説教しに行った方が面白そうだからな」


 そしれレウルはアレンに意味ありげな笑みを浮かべ、その場を後にした。

 アレンとセルメだけが残され、暫くしてセルメは近くの長椅子へ座るようにアレンに言う。


「私の為にごめんなさいね」

「い、いえ、自分が勝手にした事ですから」


 アレンの口からは少しだけ血が出ており、セルメは綺麗にする。

 殴られて腫れている場所に。冷却効果のある小さな湿布を張った。


「どう?」

「だ、だいぶ良くなりました。ありがとうございます」

「そう、それは良かった」


 セルメがアレンを見て微笑む。


「ところでオスカー君。君は支援部隊では治療を担当しているの?」

「え? あ、はい。そうです」

「だとしたら、自分で治療する方が早くて確実だったかもしれないわね」

「あ……それはそのぉ」


 治療してほしくて黙っていた。とは言えず、アレンは口どもる。

 そんなアレンを見て、セルメは小さく笑った。


「ごめんね。冗談よ。私のせいだもの、治療くらいはさせて」

「い、いえ。本当にありがとうございます」

「正直、ずっとあの男性に言い寄られててね。うんざりしていたの」

「そうだったんですか……。あのセルメさんはやはりその、出会いを求めて応募を?」


 セルメは首を横に振る。


「本当は応募する気はなかったんだけど、部下の隊員たちから、強く言われてね。偶然当たってしまったの。気晴らしにと思って来たんだけどね」


 アレンが改めてセルメを見る。

 綺麗な長い黒髪に、鍛えている筋肉質の引き締まった身体。

 切れ長の瞳は澄んだ水色をしていた。


「とても美人なので、正直お相手がいない事に驚きました」

「ありがとう。でもなぜかそういうのと縁がなくて。代わりに変な男性に絡まれたってわけね」


 セルメが苦笑する。


「それは災難でしたね」

「君の方はどう?」

「え? あー……正直あんまりです。どうも昔から上手くいかなくて」

「そうなの? 私を毅然と守ってくれた時は、格好良いって思ったけど」

「た、たまたまです。普段はホント冴えないんで。精々美味しい水が出せるくらいです」

「水?」

「あ、自分水の精霊と人間のハーフなんです。母親の精霊の方を強く受け継いだみたいですけど」


 それを聞いた、セルメは少し驚いた表情をした。


「へぇ……そうなんだ」

「あの、クーラさんはレウル支部長が転移者だと言っていましたが、どういった方なんですか? あ、嫌ならいいので」

「いいよ。私は『クラーケン』。元の世界では海の悪魔とか言われてね。なにもしてないのに、いつの間にか嫌われちゃってね。嫌になったらここに」

「クラーケン……」


 レウルはセルメを見る。

 そこにはクラーケンらしい要素は何一つ無かった。

 やがてそれに気付いたのか、セルメが小さく笑う。


「少しだけ見せてあげようかな」


 と、セルメの長い黒髪の一部が生きている様に動くと、白いイカのような触手になり、アレンに巻き付いた。


「こ、これは……」

「もっと大きく、何本も出せたりするのよ。人によっては気味が悪いかも」

「そんな事はないです! 黒い髪も白い触手も綺麗です!」


 アレンの言葉にセルメは微笑むと、立ち上がって触手を元の黒髪に戻した。


「ありがとう。さっきは嫌な気分になったけど、お陰で良くなったわ」

「い、いえ。大して気の利いた事を言えなくてすみません」

「気にしないで。話せて楽しかったから。それじゃ、アレン君は彼女探し頑張ってね」


 そしてセルメが去ろうとするが、


「あ、あの待って下さい!」


 咄嗟にアレンが声を掛ける。


「?」

「あ、えーと、そのですね……もし嫌でなければですね。お、お話でもしませんか?」

「……」

「あー、んー……そ、そう! さっきみたいな人が来るかもしれないし、その男性避け? みたいな感じでも良いので。ど、どうでしょう?」


 しどろもどろなアレンを暫くセルメは見つめる。

 少ししてから微笑んで答えた。


「一人でつまらないと思ってたし、お言葉に甘えようかしら」

「ほ、ホントですか!? ありがとうございます!!」


 アレンが思いっきり頭を下げる。


「それで、君はどこへ行こうとしていたの?」

「屋上テラスでのんびりしようかと思っていました」

「じゃあ、一緒にそこでのんびりしながら、お話でもしましょうか」

「は、はい! お供させていただきます!」


 アレンはなぜかセルメに向かって敬礼すると、先を歩くセルメに着いて行く。

 そしてセルメの後ろで力強くガッツポーズをし、


『キュピピ……』


 そんな奇妙な音がすぐ近くで鳴っていた事に、全く気付いていなかった。


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