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ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
第2話 エロトラップダンジョンの意義
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後日談・ロスパー

 私が転移をして、一ヶ月ほどが過ぎた。

 街にある公園のベンチに座り、缶コーヒーを飲みながら遊んでいる子供たちを眺める。

 幼く賑やかな声に、たまにそれを注意する親。

 幸せそうだ……。


「ん……だいぶ身体も元に戻ってきましたか」


 手を何度か握り締めたり、足首を軽く動かす。

 まさか、この世界で病気が治せるとは夢にも思わなかった。

 私の世界では、手の施しようがない不治の病だったのに。


「こんにちはロスパーさん。お身体の方はいかがですか?」


 不意に声を掛けられる。そこには男性のケイさんが居た。

 この方は性別が両方あるから、時にどう接していいのか悩む。


「こんにちは。もうほとんど違和感が無いくらい動かせます。ただ、激しい運動は無理ですけどね」


 ケイさんは私に微笑むと隣に座る。

 そして同じように公園で遊んでいる子供たちを見た。


「そうですか。流石にこの世界でも完治とまではいきませんでしたか」

「十分ですよ。まさかあの装置から出られる日が来るなんて、思ってもみませんでしたから。それに普通に生活をする分には困りません」

「できる事があれば、何でも言って下さいね。テンタイの方にも連絡しますので」

「本当に、いろいろありがとうございます」


 私がレウルさんたちと和解した後、暫くしてレウルさんから検査を受けないかと打診された。

 この世界で治せるか調べるだけでもどうかと。

 私は二つ返事で答え、検査の結果は少し時間はかかるが可能という事だった。

 あの時ほど喜んだ事はない……。

 装置も元から外部操作が可能に作ってあり、私が外へ出ても問題は無い。

 ただし、装置の悪用を防ぐために遺伝子情報で認証し、現状は私以外には動かせないが。


「新しいアイデア探しはどうです?」

「んー、なかなか難しいですね。皆さん今でも十分楽しんで頂けていますが、やはりアイデアのストックは欲しい」

「今度、支部でも幅広く募集をかけてみましょうか? 支部内でも人気ですから」

「それはありがたい。こういうのは、一人で考えてもやっぱりダメですね」


 頭を下げてケイさんに礼を言う。

 この世界の人たちは、とても逞しく思えた。

 本当は怖いはずだ。分からない相手に手を差し伸べるのは……。

 しかしどこの何かも分からない転移物や転移者に、まず手を差し伸べる。

 素直に感心する。その強さに。


 そして何より驚いたのは、異世界が本当に存在する事。

 私の世界ではそんな物は空想上に過ぎない。

 だからこそ、どうしても興味が沸いてしまう。


「……あの、ケイさんの世界はどうだったんですか? 嫌なら話されなくてもいいんですが」


 正直、自分と似て非なる世界に興味があった。

 ケイさんが転移者である事はすでに聞いている。

 私の世界は機械による自動化。

 ケイさんの世界は恐らく、機械や独自の文化で人そのものを造ろうとしたのではないだろうか。

 その行き着く先を私は知っている……。

 人が人を人工的に作る、最終的な目標。

 不老不死……。

 意識を他人、あるいは自分そっくりな対象へ移す。

 死の恐怖は無いが、生きてる実感も無い、ある種の終着点。

 私から見て、ケイさんはそれに近い感じがした。


「そうですね。私の世界では普通に私のような生体アンドロイドがいました」


 そこで、なぜかケイさんは小さく笑った。


「?」

「すみません。実は最初、人型の機械は禁止されていたみたいです。感情移入しすぎるのは危険だと」

「分かります。物を物としての境界線は必要ですから」

「そうです。ですがいつしか『温もりがない。優しさを感じられない』。そのような声が大きくなり『人』が求められました。ただし……」


 ケイさんが遠い目をして深い溜め息を吐いた。


「結局のところ、自分にとって都合のいい存在が欲しかっただけだった。もちろん、全ての人がそうではありませんが」

「人のエゴはどこの世界でも変わりませんね」

「貴方が科学者なら、人と遜色ない存在を作る……その行き着く先が分かるのでは?」

「不老不死ですか」

「はい。最初は違ったのでしょうが。いつしか人は夢を見ました。人を造れるのなら、自分自身すら造れるのでは? と」

「難しいですね。入れ物だけ作れても、心や魂といった概念はそうはいかない」

「……その通りです。ですが私の世界では、それすらも可能になりかけたのかもしれません」

「凄い世界ですね。しかしなぜ貴方は……」


 私はそこまで言いかけて、言葉を止めた。

 どうしてこの世界に居るのですか?

 うっかりと、そう言いそうになった。


「お気になさらず」


 ケイさんはどうやら私の言葉を察したようだ。


「すみません。つい興味が沸いてしまって」

「自然な事だと思います。私は……私の世界を捨てたのです。あそこには大切な方がいましたが、私が居てはいけなかった」

「そうだったんですか……」

「私を造り必要としてくれた方が、私のせいで苦しみました。皮肉な事にね」


 ケイさんが子供たちを見て、軽く笑った。

 悲しいような、寂しいような……いろんな感情を含んだ笑顔に見える。


「実は未だに私は私自身がどういった技術で作られたのか、細かくは分からないのです。でも、分かる事もあります」

「それは何ですか?」


 ケイさんは私を見るが、それは遠いどこかを見ているようだ。


「口に出すのは少し恥ずかしいのですが……愛情、ですかね」

「愛情……ですか?」

「私が造られたきっかけも、私がケイとなる事を決めたのも、愛情。それがあったからだと思っています」

「……」


 自分の世界を思い出す……。

 極論を言えば、人口を増やす……子供を作る事自体に愛情はいらない。

 種の滅亡に焦り、私の世界は強引に子孫を増やす事を優先してしまった。

 しかし、分かっていた。

 子供を育てるには、きっと愛情が必要だろうという事を。

 愛情を知らない人間が、家庭を築きたいと、子供を作りたいと思うだろうか?

 愛情を知らない親が、子供に愛をどう教える事ができるのだろうか?

 可能かも知れないが……知らない事を教えるなんて、あまりにも難しい。


「愛情……か」


 私の施設に来た人たちは、それを知らない人が多かった。

 ただの義務で連れて来られ、無理やり子供を作らされる。

 生まれた子供は幸せだっただろうか?

 愛は明確には見えない。

 脆くて失いやすく、そして移ろいやすい。

 しかし、それこそがきっと大事なモノなのだろう。

 私が装置を作った理由は、その手助けになりたかっただけなのに……。

 いや、どんな理由があれ私も罪を犯した。


「……大切な事ですね」


 自然とそんな言葉が出た。

 世界は違うが、今の自分にできる事で償っていこう。


「ええ、本当に……」


 ケイさんが私を見て微笑みながら頷く。

 私たちはそれから、公園に居る楽しそうに笑っている人たちをただ見つめた。

 

 どうして自分が捨てられたのかは、今も分からない。

 ただ……ただ、私は願う。

 今はもう手の届かない私の世界。

 そこは私のような存在がいらないくらい、愛に溢れた世界になっている事を。


~ 後日談・ロスパー 完 ~


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