罠。
その日、俺は二つの大きなミスをおかしていた。
そのせいで今、目の前に居るゲームキャラ化した小太りの男相手に圧倒的劣勢となっているのだ。
ーーーまず一つ目は、戦う相手が違った事。
仕事が終わりいつもの様にコンビニで買ってきた夕飯を食べながら配信を観ていると「イーグルのHPを見て」というコメントが目に止まった。
おそらく遠藤さんからだろう。この前の名前と違う気がしたけど、内緒で知らせてくれているつもりなのかな?
マメな人だなぁ…。
検索をかけるとイーグルHPはすぐに見つかった。
お店とは違いHPの閉鎖はしなかった様で、トップには店長から今までのお礼の一文が。
そして最新のコメントを見るとそこには…。
白い道着の男、つまり俺への再戦希望の文字、そしてその日時が書かれていた。
おさげの男なのだろう。と、その時は思っていた。
しかし当日来てみれば居たのはこの小太りの男。
迷彩模様のズボンにグリーンのシャツ、そして何故か眼帯を付けている。
中小規模のゲームセンターによく居る、あの奥の方で常連仲間と何か喋っていて、たまにふらっとゲームをやりに来る、そして異常に上手い、そんな感じのヌシ的な常連客。
イーグルのヌシがこいつ、いつしか“奥のデブ”と呼ばれていた存在だ。
ーーーそしてもう一つのミス、それは無策で挑戦を受けてしまった事だ。
この“奥のデブ”はゲームが上手い。
それは対戦ゲームも然り。
何故か?危険を冒さず強い行動しか取らないからだ。
だからこそ相手の技をいなす事が出来る所謂、待ちタイプ!
だがそれもまた戦術の一つである。
事実今も建物を背にしながらソニック◯ームを連発している。
しかも俺が会社で放ったものとは比較にならない強さだ。
避けても避けても飛んで来るソニック◯ームにいつしかガードを余儀なくされてしまった。
くそっ両腕の感覚が鈍い…。
だが俺も無様にやられるつもりは毛頭無い。
じりじりと間合いを詰め、ジャンプ!
サマーソルトキックを見越してここで飛燕◯神脚ですかして当てる!
そうだ当ててみせる!
…筈だった。
奴は動かなかった。
シャキン!!
俺の龍◯脚は鋭い手刀によって叩き落とされてしまった。
「こいつ…ガ◯ルだけじゃない!?ハイデ◯ンとの合わせ技か…。」
「…終わりだな」
身体がまるで動かない俺ににじり寄る“奥のデブ”。
このまま負けてしまうのか?
俺は時間稼ぎのつもりで一つ疑問を投げかけてみた。
「常連仲間なのは解る。だけど何故“おさげの男”じゃなくあんたが来たんだ?」
「…あー敵討ちだよ。あいつ、お前に負けたって。でも暫くの間ここに来れなくてな。」
「いや、あいつは途中で消えたからあれは引き分けじゃないのか?」
“奥のデブ”はニヤニヤ笑いながら答えた。
「あーあれな、楽しくて部屋で笑ってたら母ちゃんに怒られて殴られたんだってさ。現実に引き戻されてログアウトは負けだろ?だから負・け・なんだよ。」
「俺のせいじゃないじゃん…。」
しかし少し身体が動きそうになった。
一撃持ちこたえたら反撃だ。
「そうか?そうかもな。だけど負けは負けだからな。」
そう言うと“奥のデブ”は手刀を空振って俺を掴み上げた。
「じゃこれでラストだな?ストームブリンガー!!!」
俺の記憶はそこで途絶えてしまった。




