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おさげの男

 繰り出した掌底に相手の蹴りが重なりビリビリとした感触が伝わってくる。


「おい!すげェよなァ!たいしたモンだぜ、これはよォ!」


薄明かりのもとで見えた相手は、兄の言った通り見覚えのある顔をしていた。


話は数日前に遡る。

久し振りに夢に現れた兄が困った顔をしてこう伝えてきたのだ。


「ちょっと面倒な事になった」


どうやらまたゲームキャラクターが現実に現れているらしい。

それも俺と同じく人間がゲームの技を使うタイプの可能性が高いそうなのだ。


 目が覚めた俺は一番に、夢の中で兄から指示された通りネットニュースを検索した。


【◯◯県】幽霊か!?深夜の商店街に謎の人影


◯◯市△△商店街にて謎の人影の目撃が増えている。

しかもここは先日警官隊が出動する騒動があった場所なのだ。


人影についての目撃証言によれば、決まって23時を回った頃、赤い道着の様なものを着た男性が街路樹を蹴っていたとの事。

記事ページに埋め込まれている動画には、遠目から撮影された街路樹がゆさゆさと揺れている場面が、そしてそこにぼんやり映る赤い人影があった。

そしてやはりこの街路樹の向こう側にイーグルの建物が見える。


ーーーそれから俺はそいつが現れるという23時頃になると、毎晩の様に青年となってイーグルの近くから見張っていたのだった。

時折聴こえる兄の声は、そいつがかつてイーグルに来ていた常連客の一人かも知れない事、そして様々な考察をしてくれた。

どうやら放ってはおけない事態らしい。

そしてまったく兄の声が聴こえてこない今日、待ち構える様に立っているそいつが居た。


 見覚えのあるなしという以前に何故かあの当時のままの、イーグルでよく見た顔がそこにはあった。


ーーーおさげの男!!


それは何人かいたイーグルの常連客の一人、痩せ型で中背、長髪を一本結びにした男。

誰からともなく“おさげの男”と呼ばれていた人物だ。


今のIDやプレイヤーネームの丸わかりなオンライン環境とは違い、当時のゲームセンターでは“よく見かける人だけど名前は知らない”という関係がほとんどだった。

そして噂話をする際など、本人の知らぬ間に勝手なニックネームを付けられ呼ばれていたのだ。この“おさげの男”の様に。


腕を組み俯いて立っていた“おさげの男”は、俺に気が付くと頭だけを動かして見つめて来た。そして叫んだ。


「久し振りだよな?お前が来るのを待っていたぜッ!さァ勝負だ!」


両手を構え足を一歩前に踏み出す“おさげの男”。

最早戦いは避けられずに現在へ至る。


 “おさげの男”とは当時幾つかの格闘ゲームで戦った事があったが、お互いに譲らず勝ったり負けたりの強敵で間違いない。

そして常にテンションが高く、ヒートアップすると叫ぶのでイーグルの中でも一際目立っていた人物である。


「良いねェ!良いよなァ!そらァ!」


拳と拳がぶつかり、衝撃を感じながらお互いに距離を取った。

そして新たに構え直す“おさげの男”。

多分、今までは体の動きの確認なのだろう。ゲームでまずは通常技の性能を確かめるのに近い。


そしてーーーそろそろ仕掛けてくる!


奴の身体が回転し宙を舞った。


「竜巻旋◯脚ゥ!!」

「!」


必死でガードする俺の両手にドスドスと重く鈍い衝撃が連続して伝わってくる。

必殺技は防いでも少しずつ体力を削られてしまう理由が少しだけ解る気がした。


しかし俺もやられてばかりはいられない。この着地の隙を狙って反撃だ!


ガードを下げ反撃しようとした刹那、“おさげの男”の口元がニヤリと笑っているのが見えた。


ーーーしまった!!


「いくぜェ!疾風迅雷◯ッ!!」


軸足を保ちながらの回転蹴りが俺の両腕を払い除け胸元にクリーンヒットする。

さっきとは比べ物にならない強い衝撃!これが超必殺技か。


俺の身体は、まるで物理法則を無視するかの様な軌道を描きながら吹き飛ばされた。

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