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バランスを欠いてゆく世界

 CMが長いー。

やっと会場内が映ったと思ったらすぐに提供の表示が重なる。

社名やロゴマークの隙間を必死にのぞき込むと、出演者に何かを説明している人が見えた。

そして観客席でお客の数人が立ち上がって何かを訴えて叫んでいるらしい。

らしいというのは音声が無いからだ。

しかし依然として会場内が騒然としているのがひしひしと伝わってくる。


そして再びCM。


あの女優さんはどうなったのだろう?確か本多桜さんとか言ったっけ。

怒られたりしていなければ良いのだけど。


 CMが明けると会場内はまるで何事も無かったかの様だった。

番組は気持ち悪いほど淡々と進行され、セットの端の方は映らない。

そして本多さんの姿もそこには無かった。


「なんだそれ…。」


軽く目眩を覚えるが、生放送だし再びトラブルにでもなったら大変なのだろう。

という事はスタッフの中にも波動拳が見えていた人が居る可能性が高い…。


 この妙にテンションの低くなったバラエティ番組をBGM代わりに、まずは状況の把握をしてみる。


一、まずは兄に呼ばれていた事。

ここだけは夢だったのかも知れないし、そうじゃ無いのかも知れない。

直接兄と話せれば早いのだけど…。


二、昨夜の戦いは実際に起きた事だった。

そして俺の姿?も動画に撮られていた。


三、でも見える人と見えない人が居る。

見えない人にあれを説明しても信じてはくれまい。

当事者の自分ですら未だにあれが100%現実だと受け入れられないのだから当然といえば当然だ。


…いや、まてよ。


スタジオのセットは本多さんの波動拳で壊れていた。

じゃあ昨夜のあれで壊れた部分があるんじゃないか?少なくとも電気設備の箱は少し凹んでいる筈だ。


 よし、確かめに行こう!イーグルも壊されていないか心配だしな。

ぐっと拳を握りしめると同時に腹の音が鳴った。


「先ずは腹ごしらえか。」


俺はカップ焼きそばにお湯を注いでから、閉まったままのカーテンをジャッと勢い良く開けた。

日差しが暖かさがじわじわと体に染み込んでくる。

ふんっと息を吐きながら伸びをして外を見ると青空が広がっていた。


 何か大変な事態になりつつあって、しかも自分が当事者でもあるのに、この天気のせいかワクワクが止まらない。

そしてそんな満面の笑みを浮かべる俺を嘲笑うかの様に、目の前の道路を巨大なモアイ像がドスドスと飛び跳ねて行った。

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