5.処女機構と乙女の憂鬱
丁京都フリーヶ丘。
住みたい街ランキング常連・スイーツの聖地として知られるこの街には──
今日も恐ろしい(?)悪の組織が存在していた。
だが、それと同時に。
この街を守る“正義の味方”もまた存在していた──!
今回はシリーズ初となる、正義の味方サイドのお話です。
彼女たち魔法少女が抱える「乙女の苦悩」を、クスッとしながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
轟音と共に瓦礫が崩れ落ちる。
「くっ、覚えてなさいよ、処女機構──!」
アレプトは埃が舞い散る中、目の前の三人の少女たちへ向けながら叫び、撤退していった。
「今日もあたしたちの勝ち、だな!」
翼を携えた黄色髪の少女、ウェルキエルは元気に言う。
「怪我がなくて、よかったです……!」
同じく翼を携えた薄紫色の髪の少女、ハナエルは笑顔で答える。
「……まだ続くのかな、この生活」
一方で同じく翼を携えた薄桃色の髪の少女──ハマリエルは絶望を抱えた顔をしていた。
「やあおかえり。今回も良いデータが取れたよ。協力に感謝だ」
『ボッコボコにしてやったねー!アイちゃん、気分良好!今日の戦闘データを解析しますっ!』
研究所に帰ると世紀の大天才、天使セラと彼の助手AI「アイちゃん」が出迎えてくる。私からしたら大天才というよりは大天災なのだが。
「それでその、セラ様、考えていただきましたか? 私の脱退のこと……」
「あ、それね。まだ記憶の消去システムが開発できてないから無理」
一言で却下される。私はこんなにも辞めたいのに!
「ハマリエルさん、そんなに処女機構を辞めたいんですか?」
処女機構──天使の力を宿した魔法少女たちのチーム名である。名前はアイちゃんがつけた。正直センスはアホほどないと思っている。
「当たり前でしょ? だって私もう20歳なのよ! 未成年限定の魔法少女機構にいていい年齢じゃないでしょ! 魔法少女詐欺罪とかにならない?!」
そう、私は今年20になった。高校生のウェルキエル、中学生のハナエルとは違うのだ。私は大学生だ。
「いいんじゃない? 年齢なんてものは誤差だ。全ては心だよ」
弱冠15歳にしてヌーバード大学を卒業した世紀の天才、セラ博士は言う。この人、本当に人の心がない──!
しかし、彼の言うことも尤もである。
現に彼は悪逆非道極まりない悪の組織を壊滅すべく、悪の組織、そして私たちのような正義の味方の人格保護の提唱、組織化の基礎を作り上げヌーベル平和賞を受賞したのだ。
今では全世界の正義の味方、悪の組織は彼の作ったルールの元活動している。
しかし、だ。正義の味方の人格保護──つまり正体バレがしなくなったということは自身の活動履歴に書けない、ということ。つまり私は就活に向けて取り組んできたことに「正義の味方」を書くことができないのだ!
「うう、友達づきあいも悪いって言われるし、こんなんじゃ彼氏もできないよ……」
「なに?ハマち、好きな人でもいるん?」
う、と言葉が刺さる。その通りなのだ。私には好きな人がいる。
「内緒!」
「え、ハマリエルさん!私も知りたいです!」
「散った散った!見せもんじゃないよ!それにほら、子供は帰る時間だよ!」
文句を言いたげな二人をよそに帰宅準備を始める。
「大丈夫だよ、ハマリエル。君が就職する頃には記憶消去装置を完成させておくから」
「そういう問題じゃないんだよなあ……」
そうぼやきながら帰る。ちなみに正義の味方は無給だ。
翌朝。一限目の講義に出るべく私、ハマリエルこと処能空は大学の門を潜る。教室に入ると数少ない友人が手を振って招き入れてくれる。
「おはよう、空! ……ほら、あんたの好きな等館くんの斜め後ろの席、取っといたよ」
小声で友人に言われる。
「ありがとう!」
そう、私は彼、等館輝郎君が好きなのだ。口数が少なくミステリアスで長い黒髪がいっそう秘密を際立たせる、彼のことが──!
長い黒髪といえばそうだ。超悪い子軍団のオティスも同じ特徴を持つ。しかし等館君と違い彼は寡黙ではあるが、キャラ被りを異様に嫌っている。昨日も「お前の長髪は私とキャラが被っている!」と難癖をつけられた。思い出すだけで腹が立ってきた。
等館君の横顔を見るだけでドキドキが止まらない。
博士はアレだけど、なんだかんだでウェルキエルとハナエルのことは好きだ。
仕方ないこととはいえ、受けてしまったことだ。
恋も世界平和も、頑張っていくぞ!……多分。いや、がんばれ、私!
今回は、セラ博士と、それに振り回される魔法少女の日常回でした。
ちょっぴりラブコメ、ちょっぴり仕事の悩み、そしてセラの狂気もマシマシ。
正義の味方組も、この作品を彩る“ままならない存在”です。
彼女たちのことも、ぜひ好きになっていただけると嬉しいです。
次回もお楽しみに!




