41話 魔甲
「――ッ!」
床を蹴る。
踏み込みと同時に巧は【ハヤテ】を振り抜いた。
狙うのは肩。
しかし――。
「遅ぇ!」
レグルスが身を捻る。
刃が空を切った。
「なっ――」
その瞬間、レグルスの拳が迫る。
「――ぐっ!」
巧は咄嗟に刀を盾にした。
その直後、轟音が室内に響き渡った。
巧は身体ごと吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
背中から壁へ叩きつけられた。
「お兄ちゃん!」
「来るな、陽菜!」
陽菜が駆け寄ろうとする。
だが、巧はすぐに立ち上がった。
「俺が……やる」
口元を拭う。
足が震えている。
腕も痺れていた。
それでも、刀だけは離さない。
「……へぇ」
レグルスが楽しそうに笑う。
「まだ立つか」
「当たり前だ」
「さっきからそればっかだな、小僧」
レグルスが拳を鳴らす。
「だが――」
姿勢が低くなる。
「そろそろ限界だろ?」
「……!」
来る。
本能がそう告げた。
巧は刀を構え直す。
その刹那、レグルスが消えた。
「――ッ!」
右。
巧は反射的に身体を逸らす。
拳が頬を掠める。
続けて左。
「くっ!」
刀で受ける。
だが。
「重っ……!」
衝撃を受け止めきれず、腕が弾かれた。
「まだまだひよっこだな」
「――!」
腹部へ衝撃。
「ぐっ……!」
身体がくの字に折れる。
呼吸が止まった。
そのまま床を転がる。
「お兄ちゃん!」
「……来るな……!」
巧は震える腕で身体を起こす。
「まだ……終わってない」
「これで分かっただろ」
レグルスは歩み寄る。
「お前じゃ俺には勝てねぇ」
「……」
「刀の腕は悪くねぇ」
レグルスは巧を見下ろす。
「だが、身体がついてきてねぇ」
その言葉が突き刺さる。
巧自身が一番分かっていた。
速さが足りない。
力が足りない。
耐久力も足りない。
技術だけで埋められる差じゃない。
「……それでも」
巧は立ち上がる。
「俺は……陽菜を連れて帰る」
「……」
「絶対に……」
刀を握り直す。
「諦めない」
レグルスが目を細めた。
「そうか……お前みたいな無鉄砲な奴は嫌いじゃないが仕方ねぇ」
そして、拳を構えた。
「……今はお前の方が強い。それは嫌でも分かってる」
巧はよろめく足に鞭を打ち、【ハヤテ】を構えた。
「だが、お前は勘違いをしているぞ。俺はお前に勝ちに来たんじゃない……陽菜を連れ戻しに来たんだよ」
すろと、【ハヤテ】が光を放った。
「――ッ、魔甲を発動するつもりか? お前にそれができるのか?」
「出来る、出来ないじゃない。やるんだよっ!!!!」
白銀の淡い光を放つ金属片が巧の腕へまとわりついていた。
「お兄ちゃん……それ……」
陽菜は心配そうに呟いた。
装甲が。
ゆっくりと形を成していく。
肩。
腕。
胸部。
背中。
脚。
まるで意思を持っているかのように、次々と装甲が展開されていく。
そして最後に。
顔の前へ、装甲が滑り込んだ。
――カチリ。
完全に固定された。
「……これが」
巧は拳を握る。
「魔甲……」
以前、訓練で何度も見た。
ジャティスが身に纏う戦闘装備。
魔甲を身に纏うことにより身体能力を強化し、魔人との戦闘を可能にする特殊装甲。
実際に自分が纏うと、その感覚はまるで違った。
身体が軽い。
力が溢れてくる。
視界が広い。
呼吸さえも、先ほどまでとは別物だった。
「……なるほどな」
レグルスが笑う。
「それがお前の魔甲か」
「……」
白銀の鎧を身に纏った巧はゆっくりと立ち上がった。
さっきまで震えていた脚が、しっかりと床を踏みしめている。
「……まだ」
刀を握る。
「戦える」
「ハッ!」
レグルスが嬉しそうに笑った。
「いいじゃねぇか!」
拳を構える。
「もっと俺を楽しませてくれよ!」
「……行くぞ」
「お前に一つ教えてやる」
レグルスを不敵な笑みを浮かべた。
「魔甲を纏っただけで強くなった気になるなよ」
「……!」
「装甲は力を貸してくれるらしいが」
レグルスが一歩踏み出す。
「だが、戦うのは結局――」
床が砕ける。
「お前自身だ!」
「――ッ!」
レグルスが突っ込んでくる。
先ほどまでとは速度が違う。
巧は刀を構えた。
「見える……!」
拳を躱す。
続く二撃目。
身体を捻る。
さらに三撃目。
刀の柄で受け流す。
「ほう!」
レグルスの目が見開かれる。
「さっきより動けるようになったじゃねぇか!」
「これなら……!」
巧が踏み込む。
刀を振るう。
レグルスが腕で受ける。
「――っ!」
火花が散った。
「チッ!」
レグルスが後退する。
初めて。
ほんの僅かに。
その巨体が後ろへ下がった。
「……やった」
陽菜が呟く。
だが。
巧は気づいていた。
まだ届かない。
魔甲を纏っても。
まだ、この男には遠い。
「……これが」
巧は刀を握り直す。
「今の俺の限界か」
レグルスは笑っている。
「そうだ」
拳を構える。
「だが――悪くねぇ」
「……!」
「未完成のジャティスってのも、なかなか面白ぇじゃねぇか」
巧は目を細めた。
「未完成……」
「ああ」
レグルスが笑う。
「だからこそ――伸びしろがある。来い、桑原巧っ!」
「陽菜は――俺が連れて帰る!」
轟音とともに刀を振り上げる。




